GW明けのチャイムと騒がしくて愛おしい学校生活。
GWが明け、五月の爽やかな風が、学校へと続く並木道を吹き抜けていく――。
連休特有の浮ついた空気は、登校する生徒たちの活気と共に、次第に日常の喧騒へと溶け込んでいた。
タケル、ケン、そしてモンタの三人は、いつものように三列で肩を合わせながら、校門を目指していた。ランドセルの重みが、連休明けという事実を静かに突きつけてくる。だが、三人の表情に憂鬱の色はない。むしろ、連休中に経験した数々の出来事が、彼らの話の種となって朝の通学路を賑やかに彩っていた。
「結局さ、海辺の近くでやった、バーベキューが一番の思い出かな〜♪」
モンタが少しオーバー気味に身振り手振りを交えて言う。少し日に焼けた顔が、その活発な連休を物語っていた。
「モンタは肉ばっかり食べた、だけじゃないか」
ケンが苦笑しながら突っ込む。ケンはGW残りの2日間を
秘密基地でゾーンGロボの修理と倒してきた次元獣の生態や特殊な能力に関する情報を消化しつつ、タケルやモンタと一緒に遊びに行ったり、たまに自宅で花見さんとSNSでやりとりをしたりなど、ケン自身、充実な休日を過ごしていた。
「え〜いいじゃないか、お肉ぐらい沢山食べても…」
モンタの反論に、タケルは楽しそうに笑う。タケルは三人の中では最も穏やかで、GW残り2日間は家でゲームをするか、外に出てケン、モンタと遊びに回るなどで残りのGWを過ごして来た。
「ん〜〜俺は、暖簾のかかった小さな和菓子屋《波音堂》の団子がやっぱ、あの味が忘れられないかなー」
タケルは腕を組み唸るように〘ティル・ナ・ノーグ〙での思い出を振り返るも和菓子屋《波音堂》の団子が一番、記憶に残っている事をケンとモンタに言う。
「あの《波音堂》の団子は本当に格別だったよね〜♪またいつ、行けるかわからないのが惜しいくらいだよ」
「そうだね。〘ティル・ナ・ノーグ〙なんて、滅多に行けないリゾートアイランドの島だからねー。団子のあんこの甘さと、温かいお茶の喉越しは、やっぱり忘れられないな〜僕は」
ケンがしみじみとそう言うと、聞いてたタケルとモンタが二人揃って同感するように大きく頷いた。
「わかる! けど、リゾートアイランドの島にまた、行けるかわからない。てか、そもそも愛先輩からのお誘いがあったから、俺達は行けたんだぜ?」
「そうそう」
タケルの言う言葉につれて首を縦に振るモンタ。
「そうだね。愛先輩のお誘いがなかったら、僕たちがリゾートアイランド島、〘ティル・ナ・ノーグ〙なんて、一生なかっただろうし」
ケンが少しだけ照れくさそうに頭を掻く。彼の思考回路は常に現実的だ。秘密基地で積み上げたデータや、次元獣との戦いの記憶――それらが非日常のスパイスであるならば、今こうしてランドセルを背負って歩く通学路こそが、彼にとっての“本質”なのだと、その表情が物語っている。
「でもさ、逆に言えばさあ、僕たち、そんなすごい場所に呼ばれるような特別な何かを愛先輩が感づいて認められたって、ことじゃないかな」
モンタがドヤ顔でニヤリと表情をする。対してその無邪気な一言とモンタのドヤ顔に、タケルは思わず吹き出した。
「ははは、それは流石にポジティブすぎるね。わざわざ愛先輩、自ら僕たちの所へやって来て誘ってきんだよ」
「もー! 夢がないなぁ〜ケン君は!」
三人の笑い声が、街路樹の緑に吸い込まれていく。五月の風は心地よく、遠くで鳴るカラスの鳴き声さえも、今は平和な日常のBGMに過ぎない――。
校門が近づくにつれ、登校してくる他の生徒たちの数が増えていく。連休明けで皆、それぞれGWで何を過ごし、何処に行ったのかお互いに雑談しながら、校門を潜り抜けて行く。
「ま、とりあえず。今日の授業は、確か一時間目は数学だったかな?」
ケンがカバンから時間割表を頭の中に呼び戻しながら問いかける。その質問に、タケルが「うげっ」と分かりやすく顔をしかめた。
「マジかよ、GW明けて、久しぶりの登校からのいきなり一時間目が数学かよ〜…」
「数学か〜…。せっかくの好天が台無しだねー」
タケルが嘆き、モンタが肩をすくめ、ランドセルのベルトをギュッと引き直す。彼らにとって、GWの余韻をかき消すかのような時間割は、ある意味でいつもの日常という帰還合図でもある。
校門の前まで来ると、そこにはいつもの光景があった。生活指導の先生が、少し厳しそうな表情を浮かべて立っている。それでも、生徒たちが近づくと「おはよう、しっかり歩いて校門を通りなさい」と、低く響く声で声をかけてくる。
「「「おはようございます!」」」
三人は声を揃えて挨拶をした。先生が軽く頷くのを確認し、彼らは校門を潜り抜ける。アスファルトの上で鳴る、慣れ親しんだ上履きの足音が、学校という閉じた世界へと彼らを導いていく。
「おはよう! タケルくん、ケンくん、モンタくん!」
背後から声をかけてきたのは、クラスメイトの女子グループだ。彼女たちもまた、GWの思い出話に花を咲かせながら、賑やかに昇降口を目指している。
「あ、おはよう! 休みはどうだった?」
タケルが穏やかに振り返り、自然な笑顔で会話を繋ぎ、テスト範囲や給食のメニューといった、地に足の着いた話題へとスムーズに思考を切り替えていく。
昇降口に入ると、湿り気を帯びた廊下の匂いと、大勢の生徒たちが立てる微かな騒音が耳をくすぐった。下駄箱で自分の靴を脱ぎ、上履きに履き替える。連休の間に溜まった埃をパタパタと払い落とすと、不思議と心の中の「“特別”」が、また少しだけ心の奥深くに隠されたような気がした。
「さーて、教室行って机に突っ伏して……」
「いや、ちゃんと数学と向き合おうよ…」
タケルが冗談めかして言った言葉に、ケンがそれに軽口で返す。
三人にとって、今の日常がどれほど退屈で、数学の証明問題がどれほど難解でも、彼らには共有された誰も言えない秘密がある。それが、三人を繋ぐ見えない強固な絆でもある。
遠くから、チャイムの音が聞こえ始める。それは連休の終わりを完全に告げ、新しい一日の始まりを告げる合図だ。三人はランドセルを背負い直し、階段を駆け上がっていく。
窓から差し込む五月の光が、三人の背中を優しく照らしていた。平凡で、騒がしくて、愛おしい。そんな学校生活が、また、始まるのだ――。




