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超次元勇士ゾーンG(グレート)ロボ  作者: 道化師
第三章次元獣総進撃編 ―前編―
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ただいまといつもの食卓

櫻魅耶さくらみや市の港は、穏やかな海風に包まれていた。

 遥か彼方のリゾートアイランド〘ティル・ナ・ノーグ〙で味わったあの死闘が嘘のように、ここには日常の空気が流れている。大型フェリーからタケルたちがタラップを降りてくると、待っていたのはいつもの、けれど、どこか懐かしささえ感じる港の風景だった。


「んーー!ふぅ…、やっと帰って来たって感じだな!」


 タケルが大きく伸びをすると、隣でケンとモンタもどっと疲れが出たのか、肩を落として息をついた。愛先輩は安堵の表情で空を仰ぎ、母親の翠さんは優雅に微笑んでいる。

 しかし、一行の余韻を断ち切るように、すぐそばでエンジンの排気音が唸りを上げた。迎えの車が、黒い車体を輝かせながら滑り込んで来たのだ。


迎えに来た車にアイドルグループの〘カオスレゾナンス〙三人とプロデューサーとマネージャーが一人ずつ乗り込み、最後に乗り込もうとした美璃が、ふと足を止めた。そして、背後にいるタケルを鋭い眼光で振り返る。


「……ちょっと、あんた」


「あ? な、なんだよ」


 タケルが呆れ顔で返事を返すと、美璃はフンと鼻を鳴らした。その表情には、以前のような険悪さだけでなく、どこか複雑な感情が混ざり合っている。


「勘違いしないで。アンタと馴れ合うつもりなんて、これポッチもないんだから。……でも、まぁ、その……島での立ち回り、ちょっとだけ認めてやらないこともないわ。少しは…///」

「なんだよそれ……最後まで上から目線だな。言っておくけど、あんたこそ、次に会うときはその高飛車な性格、少しは治して来いよ!」

「はぁ!? あんたが私のこと言える立場なの! ……本当、最後まで気に食わないわね///!」


 美璃は顔を真っ赤にして言い返すと、捨て台詞のように「じゃあね、バカ!」と短く告げ、バタンとドアを閉めた。

 黒塗りの高級車が、地面を蹴るように加速していく。車窓から美璃の横顔が一瞬だけ見えた気がしたが、すぐに潮風と排気ガスの中に消えていった。


「……ふん、アイツ、最後まであんな調子かよ」


 タケルは腕を組み、ぶっきらぼうにそう漏らした。だが、その声には、先ほどまでの鋭いトゲは感じられない。むしろ、嵐のような喧騒が去った後の、少し寂しいような、安堵のような響きが混ざっていた。


「……あらあら。タケル君、美璃ちゃんと随分と仲良しになったわね?」


 背後から翠さんが、含みのある笑い声をかけてくる。タケルは「そんなんじゃねぇ!」と慌てて手を振ったが、その耳まで真っ赤になっていることに、愛先輩はクスリと笑みをこぼした。


「ふふ、二人とも本当は気になってるくせに。さ、スクールバスが出るわよ。帰りましょう」


港から市内へ向かうスクールバスは、乗客もまばらな夕暮れ時の運行だった。

 一番後ろのシートに、愛先輩、モンタ、タケル、ケンが並び、その少し前に翠さんが優雅に座る。

バスが港を出発し、市街地へと向かう緩やかなカーブを曲がり始めると、タケル、ケン、モンタの三人の肩の力が一気に抜けていった。人型次元獣との遭遇、そしてゾーンG(グレード)ロボに乗り、巨大化した人型次元獣との死闘――。極限まで張り詰めていた神経が、帰郷の安堵感とともに溶けていく。


「……あー、もう、まじで足が棒だ……」


モンタが座席に深く沈み込み、大型フェリーではしゃいでいた時のような元気も消え失せていた。隣のケンも、窓ガラスに額を押し当てたまま、外の景色を眺めていた。


「最終日は大変だったけど……それ以外は楽しかった、かな〜…」


 愛先輩は、心地よいバスの揺れに身を委ねながら、静かに目を閉じた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――数時間後。


バスのブレーキがキィッと乾いた音を立て、櫻魅耶さくらみや市の主要ターミナルに停車した。


「……んぅ、ふわあぁ〜…。もう着いたのか…?」


 タケルが目をこすりながら体を起こすと、隣でモンタが「うへぇ、ケツが痛い……」と伸びをしながら椅子から転げ落ちそうになっている。ケンは窓に張り付いていた額を離し、ぼんやりと外を眺めていた。


「さあ、皆、起きて。着いたわよ」


 翠さんが優雅な所作でシートベルト

を外すと、愛先輩も「ふぁぁ〜…」と口元を押さえて小さくあくびを漏らした。


 バスから降りると、夜風が火照った肌に冷たく心地よい。ターミナルの明かりが、どこか現実味を薄れさせていた。


「……それじゃあ、俺たちはこっちだから。愛先輩、翠さん、リゾートのお誘い、本当にありがとうございました!」

「ええ、気をつけて帰るのよ」


 翠さんは慈しむような眼差しで三人を見つめ、最後は柔らかく微笑んだ。愛先輩も、眠気眼をこすりながら小さく手を振る。


「三人とも、また明日ね! 」


 タケル、ケン、モンタの三人は「おう!」「はい」「愛先輩ま、また///!」と三人、それぞれ愛先輩に返事を返し、三人散り散りに自分たちの自宅へと帰路した。


街が薄暗い影を落とす中、一人、タケルの足取りは戦いの緊張から解放されてもなお、どこか地に足がつかないような浮遊感を孕んでいた。


 視界の端に映る街灯が、点滅しながらチカチカと不穏なリズムを刻んでいる。まるで、自分の不安定な心境を映し出しているかのようだった。

タケルは、リゾートアイランドの島――〘"ティル・ナ・ノーグ"〙での次元獣との戦闘を思い返した。

ゾーンG(グレートロボの装甲が紙のように引き裂かれ、メイン回路が火花を散らしてショートしたあの瞬間――タケルは初めて、「“死”」という現実の輪郭を間近で見た気がした。


「…まさか、あそこまで攻められるなんて、な…」


足を止め、タケルは呟くと無意識にポケットの中で拳を握りしめていた。


足取りは先ほどよりもずっと力強い。重力に身を預け、リズム良く(あゆ)みを進める。そうしてしばらく歩き続け、ようやく見慣れた我が家の明かりが視界に入った。


――ガチャン。


鍵を開け、ドアを押し開けると廊下の向こうから聞き慣れた明るい声が飛んできた。


「あら、お帰りなさい、タケル! 」


ドアを開けた先で待ち構えていたのは、柔らかい光と、圧倒的なまでの日常の香りだった。

出迎えたのは、まるで姉かと思わせるような、若々しくも艶やかな美貌を湛えた母親――竹澤仔冬(たけざわこふゆ)だ。その長い黒髪は動くたびに揺れ、すらりとした肢体を包むエプロン姿は、どこか浮世離れした華やかさを放っている。


「お母さん、ただいま。…って、うわっ!?」


タケルが靴を脱ぐ暇も与えず、砂夜子はタケルの頬を両手で挟み込み、ぐいぐいと左右に押し潰した。


「い、いだいだい! お母さん、ちょっと待って! 鼻! 鼻が潰れるってば!」

「あらあら、ごめんなさいねえ。尊があまりにも日焼けした顔が珍しかったから、つい。ねえ、尊。リゾートは楽しかった?」


仔冬は、ホワホワとした天然のオーラを全身から放ちながら、タケルの顔を離した。彼女の瞳はいつもどこか夢見心地で、この殺伐とした現代社会に生きているとは思えないほど、のんびりとした空気を纏っている。


「ああ、めちゃくちゃ楽しかったぜ!にひひ♪」


そう言うとタケル満面の笑みを見せる。すると、廊下の奥からドスドスドス!という、いかにも重量感のある足音が響いてきた。現れたのは、これまた豪快な笑い声を上げるタケルの父親――竹澤鉄男たけざわてつおだ。


「おう、帰ったか! 尊! 随分と肌が真っ黒焦げているみたいだな! ガハハ!」


鉄男の豪快な笑い声が、廊下を震わせた。まるで地響きのようなその威圧感は、先ほどまで仔冬が作り出していた"柔らかな日常"を瞬時にかき消し、一気に体育会系の空気に塗り替える。


「親父、ただいま。……って、いきなりそんなに肩を叩くなよ、脱臼するって!?」


鉄男は大きな掌で、タケルの肩をパシン、と派手に叩いた。その衝撃でタケルの体がふらりと傾く。しかし、それは決して乱暴なわけではない。父親なりの、愛情表現を通り越したスキンシップなのだ。


「なーに、細かいことは気にするな! さあさあ、飯だ飯だ! お母さんがお前の大好物を作って待ってるんだぞ。早く手を洗って来い!」


鉄男はそう言うと、満足げに鼻を鳴らし、再びドスドスと足音を立ててリビングへと向かっていった。後には、少し呆れたような、しかしどこか嬉しそうなタケルが取り残される。


「まったく……相変わらずだな、親父は」


タケルは苦笑しながら、ようやく靴を脱ぎ、リュックを脇に置いた。廊下の向こうからは、すでに美味しそうな匂いが漂ってきている。それは、タケルが長旅の疲れを忘れ、心の底から“帰るべき場所”言わば実家に帰って来たんだな、と、改めて安心を感じさせる。


手洗いを済ました後、リビングの方へと向かうと、そこには食卓に所狭しと大皿が並んでいた。中央には鉄男が好む豪快な唐揚げの山と、仔冬が腕によりをかけた彩り豊かな季節野菜の煮物。漂ってくるのは、懐かしい醤油と出汁の混ざり合った、この家特有の馴染み深い匂いだ。

食卓を囲む三人の時間は、いつも通り、騒がしくも温かかった。


「で、どうだったんだ。旅行は」


鉄男がビールジョッキを片手に、少しだけ目を細めて尋ねる。その眼差しには、父親としての厳しさと、それ以上に深い好奇心が同居していた。


「最高だったよ。海も綺麗だったし、水族館とか、アトラクションとか色々回ったぜ!にひひ♪」


タケルは箸を動かしながら、堰を切ったように島での事を語り始めた。


青い海、眩しい太陽、そして砂浜で拾ったという小さな貝殻の土産話。仔冬は「まあまあ、そうなの♪」と相槌を打ちながら、実の息子の話を最後まで聞き入る母親。


それは、竹澤家にとっていつもの光景。


タケルは箸を休めることなく、次から次へと思い出を紡いでいく。その表情は、日焼けした肌と相まって、どこか一回り成長した男の自信に満ちているようにも見えた。


父親の鉄男はと言えば、ビールを喉に流し込むたびに「ガハハ!」と豪快に笑い、タケルの島での思い出話に合いの手を入れる。その大らかな笑い声が、食卓を温かい空気で満たしていた。


しかし、ふと、仔冬が箸を置き、その夢見心地な瞳を少しだけ細めた。


「そう言えばね、尊」

「ん?」


仔冬の静かな声が、場の空気をわずかに凪がせる。


「尊が行っていたその…〘ティル・ナ・ノーグ〙?だったかしら、ニュースで観たのよ。ホテル近くで“次元獣”が現れたとかで、騒ぎになってたんだけど……怪我とか、しなかった?」


その言葉が出た瞬間、鉄男の笑い声が止まった。ジョッキを置く音が、食卓の上のわずかな静寂を強調する。二人の親の視線が、タケルへと突き刺さった。そこには、いつもの天然な仔冬の姿はなく、母親として実の息子の事を心配するうえで直接、聞いてきた。

それに対してタケルは、揚げたての唐揚げを口に運んでいた手を止める。

タケルは、頬張っていた唐揚げをゆっくりと咀嚼し、飲み込んでから、事もなげに肩をすくめて見せた。


「あー、その話か。まあ、確かにちょっとバタバタはしたよ。実はさ、一緒に行ってた愛先輩と、そのお母さんの翠さんとは途中で人混みにはぐれちゃってさ。スマホも通じにくくなってたから、しばらく冷や冷やしたんだ」


タケルは努めて明るく振る舞いながら、グラスの麦茶を一口飲んだ。


「でも、ケンとモンタが一緒だったからさ。なんとか無事にホテルから避難して、逃げ切れたんだよ。怪我ひとつしてないし、本当に全然平気だぜ。にひひ♪」

ゾーンG(グレート)ロボに乗って戦った、という事実は伏せ、ただの“避難”として語る。自身の腕に隠された《ゾーンブレス》の冷たい感触を確かめ、タケルは親たちに心配をかけまいと、わざと少年のように笑ってみせた。


鉄男はタケルの言葉を聞くと、ふうっと大きく息を吐き出し、再び豪快に笑い飛ばした。


「ガハハ! そうかそうか! ケンとモンタと一緒だったなら安心だな。あいつらもすっかり頼もしくなったもんだ。大事なくて本当に良かったぞ、尊!」


仔冬もまた、先ほどまでの真面目な眼差しをふわりと解き、いつもの夢見心地な優しい母親の顔に戻った。


「そう……本当に良かった。尊の身に何かあったら、お母さん、もうどうしていいか分からなくなっていたわ。……本当によかった♪」


食卓には再び、唐揚げを揚げる音や、鉄男のジョッキを置く音が混ざり合い、夕食の楽しい時間が戻ってきた。三人はその後も、島での些細なエピソードを話し合い、笑い声の絶えない時間を過ごした――。








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