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超次元勇士ゾーンG(グレート)ロボ  作者: 道化師
第三章次元獣総進撃編 ―前編―
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父親として愛する妻と娘の声を聞いて。

――青く澄み渡る空と、それを映し出す広大な海。


〘ティル・ナ・ノーグ〙からの帰路を行く大型フェリーは、白く長い航跡を残しながら、ゆっくりと櫻魅耶さくらみや市の港へと向かって進んでいた。

デッキを吹き抜ける心地よい潮風の中で、その男物の派手な着信音は唐突に鳴り響いた。


「あら……?」


ハンドバッグの中で激しく主張を続けるスマホを取り出したのは、灰坂大佐の愛する妻、灰坂翠はいさかみどりだった。液晶画面に表示された〈“あなた”〉という二文字を見て、彼女は小さく小首をかしげる。いつもは仕事一筋で、自分から滅多に連絡などしてこない堅物の夫からの着信だったからだ。

通話ボタンをスライドさせ、耳元に当てる。


「もしもし、あなた? どうしたの、こんな時間に珍しい――」


『翠か!? 無事か! 無事なのか!?』


受話器の向こうから飛び出してきたのは、普段の冷静沈着な彼からは想像もつかないほど切迫した、怒鳴り声に近い夫の叫びだった。防衛省の極秘会議室で、血の気の引くような人型次元獣の映像を見せつけられていた灰坂大佐の焦燥が、そのまま電波に乗って鼓膜を震わせる。


『今どこにいる! 愛は一緒か!? 例のリゾートアイランドで、次元獣が現れたと報告があった! 』


しかし、そんな国家レベルの危機感に満ちた夫の悲鳴に対し、翠はといえば、全く状況が掴めないといった様子で「へ?」とケロッとした表情を浮かべていた。


「もう、大きな声を出さないでよ、あなた」


翠はクスリと上品に微笑みながら、視線を少しだけ横へとずらす。

そこには、先ほどまでの死闘などまるで嘘だったかのように、穏やかな日常の光景が広がっていた。


「私なら大丈夫よ。愛も、ほら。今、お友達のタケル君、ケン君、モンタ君の三人といっしょに、仲良く海の景色を眺めながら元気に雑談しているわよ」


翠の視線の先では、娘の愛が「あ、カモメが飛んでる!」と指を差し、それをタケルが「おぉ!マジだ、すげえ数だな!」と身を乗り出して見上げている。モンタは売店で買ってきたばかりのフランクフルトを美味そうに頬張り、そしてケンも、この瞬間だけは戦いの緊張から解放されたように、穏やかな笑顔で二人の会話に相槌を打っていた。

誰一人として、怪我どころか、かすり傷一つ負っていない。


「みんな本当に良い子たちねぇ。旅先では確かに、大変なこともあったけれど、誰一人、死んでなんかないわ。だから心配しないで、みんなとっても元気だから♪」


海の輝きに負けないほど明るい声で、無事であることを伝える翠。

その背景からは、楽しげな若者たちの笑い声と、穏やかな波の音だけが聞こえてくる。防衛省の地下で冷や汗を流していた灰坂大佐は、そのあまりのギャップに、電話の向こうでただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。


『あなた? ……もしもし、あなた? 聞こえてる?』


通話の向こうから、妻の翠が少し不思議そうな、けれどどこまでも暢気で穏やかな声が響く。ほんの数秒間の沈黙。だが、防衛省の暗い地下通路に一人佇む灰坂大佐にとっては、それがまるで永遠のようにも感じられた。


「……あ、あともう少しで電波が悪くなるのかな。もしもーし?」


スマホの画面越しからは、カモメの鳴き声と、愛たちの楽しげな笑い声が微かに混ざり合って聞こえてくる。

長い地下通路の片隅。冷たいコンクリートの壁に背をもたれ、灰坂大佐は限界まで張り詰めていた緊張の糸が一気に切れるのを感じた。


「……ッ」


ドッと、信じられないほどの重みが肩から抜け落ちる。


灰坂大佐は思わず、スマホの画面を耳に当てたまま、もう片方の右手で両眼を覆った。大きく息を吐き出し、見上げるはずのない地下の天井――その向こうにあるはずの、娘たちがいる青空を仰ぐように頭をのけぞらせる。

胸を締め付けていた鉄の帯が、ようやく解けた。冷や汗でシャツが背中に張り付いている。防衛省のトップエリートであり、数々の修羅場をくぐり抜けてきた男が、今、ただの一人の父親として、崩れ落ちんばかりの安堵に震えていた。


「……ああ、いや、すまない。聞こえている、翠。……そうか、みんな無事なんだな」


極力、いつもの厳格で冷静な声を作ろうとしたが、どうしても声の端が微かに震えてしまう。


『ええ、本当にみんな元気いっぱいよ。愛なんて、リゾートで怖い目にあっていたはずなのに、いまはタケル君たちと一緒に仲良く楽しんでもう、すっかり笑顔になっちゃって』

「…そ、そうか。タケル君、ケン君、モンタ君……と言ったか。三人が一緒にいてくれたんだな」


灰坂大佐は、妻の口から出た少年たちの名前を脳裏に刻み込んだ。


リゾートアイランド〘ティル・ナ・ノーグ〙を襲った、あの恐るべき人型次元獣。そして、それを遥かに凌駕する巨体へと膨れ上がった。傭兵からの極秘映像や、動画サイトに溢れかえる一般客のパニック映像を見る限り、あの島はまさに地獄絵図と化していたはずだった。

そんな極限状態の中で、娘とその友人たちが怪我一つなく生き残れたこと自体が、奇跡に近い。


『ええ。あなたも今度、三人に顔を合わせたら、ちゃんとお礼を言ってちょうだいね?』

「あ…ああ、分かった。櫻魅耶市に戻ったら、一度、その三人にお礼を言わねばならんな。……翠、愛に代わってくれ」


『はーい。ちょっと待ってね。――愛、お父さんからよ〜♪』


ガサゴソと妻のスマホが移動する音が聞こえ、やがて聞き慣れた、少し照れくさそうな娘の声が響いた。


『もしもし…お父さん? 珍しいね。お父さんから連絡するなんて、どうしたの?』


「愛……!」


娘の声を聞いた瞬間、灰坂の胸に再び熱いものが込み上げる。だが、彼はそれを強引に飲み込み、あえて厳しい父親の口調を装った。


「お前たちがいた島で、"次元獣"が現れたらしいから、会議が終わって、急ぎ心配で電話を掛けたんだが…」


『うん、私とお母さんは大丈夫だよ。あの、巨大ロボット――ゾーンG(グレート)ロボが来てくれて、次元獣を倒してくれたからね!』


愛の言葉に、灰坂の眉がピクリと跳ねた。

やはり、あの島に現れた謎の巨大ロボット――ゾーンGグレートロボは、民間人を巻き込むことなく、明確に次元獣だけを排除したのだ。


「……その、ゾーンGロボとやらは、お前たちのすぐ近くに現れたのか?」


『うん! まさに目の前って感じ! 凄かったんだよ、地響きがして、でも、私たちを守るように戦ってくれたの。だから、あのロボットは絶対に悪いやつじゃないよ、お父さん!』


純粋にロボットを信じ、擁護する娘の言葉。


「わかったわかった。その話は帰ってから詳しく聞こう。フェリーが港に着いたら、寄り道をせずに真っ直ぐ家に帰るんだ。いいな。とにかく、気を付けて帰ってくるんだぞ」


『はーい。じゃあね、お父さんもお仕事頑張ってね!』


「ああ…」


ブツリ、と通話が切れた。


静寂が戻った地下通路で、灰坂大佐はスマートフォンをポケットに収めると、深く、長く息を吐き出した。

衣服に染み付いた電子煙草の香料の匂いが、現実に引き戻す。


「無事でよかった……。だが、問題はこれからだ」


彼の視線が、冷徹な軍人へと戻る。


これまで出現した次元獣第1号、第2号とは明らかに異なる、人型サイズから巨大化を遂げる新たな次元獣。そして、未だ謎が多いゾーンG(グレート)ロボ。

色々と考えねばならないことは山積しており、頭の整理にはまだ少し時間がかかりそうだった。科学者チームも、内閣府の寺崎高官も、これから本格的な調査と対策に乗り出すだろう。だが、今日の会議は終了している。


「……帰ろう。我が家へ」


灰坂大佐はカツンと長い地下通路を軍靴の音を響かせながら歩いた。


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