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超次元勇士ゾーンG(グレート)ロボ  作者: 道化師
ティル・ナ・ノーグ編
31/36

夜の森に潜む次元獣との遭遇

ケンは無言のまま、ブレスのカバーを跳ね上げた。

カチリ、という硬質な音がケンにとって、平穏な日常に亀裂を入れる合図のようにも聞こえる。

カバーの下から現れたのは、高精細なホログラムを投影する四角型のモニターだ。

青く光るグリッド線が空間に浮き上がり、レーダーが高速で円を描いてスキャンを開始する。


「……っ」


生唾を飲み込み、ケンの指先が操作パネルをなぞると、グリッドの上に幾つかの光点が浮かび上がった。

中央で青く輝く三つの点は、自分たち――タケル、ケン、モンタの現在地。


―――そして。


「……いた!」


タケルが息を呑む。


自分たちの光点からわずか数百メートル。ホテルの敷地の端、生い茂る熱帯の木々が闇を作る斜め森の一角に、脈動するような禍々しい赤い点が静かに鎮座していた。


「間違いない。"次元獣"はここにいる…!」


ケンが画面を指差しながら、奥歯を噛み締めた。


「……なぁ、ケン。これ、他の反応はどうなってる?」


ケンは眉を寄せ、スキャン範囲を広げた。


「……ダメだ。レーダーに映るのは僕たちと、"次元獣"だけだ。ホテルの中にいる愛先輩も、翠さんも、他の観光客の人達も……生き物の反応が、ここには一切表示されないみたいだ」

「……どういうことだよ?」


タケルの問いに、ケンはモニターの数値を読み取りながら答える。


「この《ゾーンブレス》は恐らく、僕の推測だけど、索敵モードつまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。高度な技術でないと、こんな正確に"次元獣"が直ぐに見つかるなんてまず、作れないからね」


静まり返った豪華な客室。


つい先ほどまで、花見さんとメッセージをやり取りしていたスマートフォンの画面は、今はもう暗い。


窓の外に見える穏やかな夜の海も、今は巨大な怪物の口のように見えた。


「しゃあねぇ。行くしかないな!」


ケンが顔を上げ、二人を見据えた。その瞳には、先ほどまでの穏やかな余韻は一切残っていない。戦士の冷徹な輝きが宿っていた。


「だね!ここで指をくわえて待ってたって、愛先輩に被害が出たら一生後悔するもんね!」


モンタが拳を握り込み、自らの《ゾーンブレス》のカバーを開く。


「へへっ、せっかくのベッドで寝る夢は、"次元獣"をぶっ飛ばした後に持ち越しだな!」


タケルも不敵に笑い、同様にブレスを起動させた。


三人の腕で、三つのブレスが共鳴するように唸りを上げる。


座標は確定した。


座標は、ホテルの庭園を抜けた先にある斜めの森。


「座標固定。位相転送、開始!」


ケンの号令とともに、三人は同時にブレス中央の転送スイッチを押し込んだ。


――シュンッ!


空気が爆ぜるような音と共に、部屋の中の気圧が急激に変化する。

三人の体は一瞬で光の粒子へと分解され、豪華なホテルの一室には、脱ぎ捨てられた靴下と、半分閉じかけたリュックだけが取り残された。


―――数秒後。


「……っ、相変わらずこの感覚はまだ、慣れねぇなー」


タケルが湿った土を蹴って着地した。

そこは、ホテルのきらびやかな照明が届かない、鬱蒼とした森の中だった。

背後を振り返れば、ライトアップされた巨大なホテルが遠くに見える。だが、ここには波の音も、宿泊客の笑い声も届かない。

あるのは、不気味なまでの静寂と。

そして、鼻を突くような、焼け付くようなオゾン臭。


「ケン、レーダーの反応は?」


モンタが低い声で尋ねる。


ケンはブレスのモニターを確認し、前方の暗闇を指差した。


「こっち。座標と距離からしてこのまま、真っ直ぐ」


闇の奥、巨大なシダの葉が揺れる。

月明かりさえ届かない森の深淵でタケル、ケン、モンタの三人は慎重に歩いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


鬱蒼と茂る熱帯の木々。その巨大な葉が、わずかな夜風に揺れてガサガサと不気味な音を立てる。

ケンの《ゾーンブレス》から放たれる青い光だけが、三人の緊張した面持ちを冷たく照らしていた。


「……なぁ」


不意に、タケルが間の抜けたような、それでいて深刻な声を漏らした。

「なんだよ、タケル。今は索敵に集中したいんだけど」

「いや……すっげー大事なこと、今さら思い出しちまってさ」


タケルは片手に持ったスマートフォンの、お世辞にも明るいとは言えないLEDライトを見つめる。


「俺たちさ……出発前に、万が一のためにって100均で買った"LED懐中電灯"……。あれ、ホテルのリュックの中に置いてきたわ」

「ハァ〜〜…」


ケンの、魂が抜けるような深いため息が森の湿った空気に混ざる。


「あれ、わざわざ電池の予備まで用意したんだよね~…」

「わりぃ……。なんかリゾートの浮かれ気分で…」

「終わったこと言ってもしょうがないだろ! 」


ケンは額を押さえ、天を仰いだ。


「あ、モンタ、足元気をつけて。スマホのライト、なるべく低く構えて。光が漏れすぎると逆に見つかるから」

「了解……。でも、なんかこの森、変な臭いがするね」


モンタが鼻をひくつかせた。それは潮風の香りではなく、電子回路が焼き切れたような、鼻を突くオゾン臭だった。


「……ッ!」


突然、先頭を歩いていたケンの肩が跳ね上がった。

彼は無言のまま鋭いジェスチャーで、背後の二人に「止まれ」と指示を出す。

三人は息を殺し、近くの巨大なシダの茂みに身を沈めた。


「……何か、聞こえる」


ケンの囁きに、タケルとモンタも耳を澄ませる。


――チューチャッ……、クチャ……。


湿った肉を弄るような、生理的な嫌悪感を催させる音が、数メートル先の闇から聞こえてきた。

三人は顔を見合わせ、頷く。

意を決して、タケルが震える手でスマートフォンのライトをその音の方向へ向けた。

光の輪が闇を切り裂く。

そこで最初に照らし出されたのは、無機質なホテルの警備員の制服だった。

だが、その中身は見るに堪えないものだった。

皮膚は茶褐色に干からび、まるで数十年も砂漠に放置されたミイラのように萎縮している。生気を完全に吸い取られたその遺体の傍らには、落とされた警棒が空しく転がっていた。


「……うわっ」


モンタが口を押さえる。

そして、その遺体の奥。

背中を丸め、何かに貪りついている“影”がいた。

人型ではある。だが、その背中には異常なほど発達した棘のような突起が並び、不自然に膨らんだ筋肉が脈動している。


「…あれが…"次元獣"…?」


ケンの声が震える。直感が警鐘を鳴らした。


「二人とも、ゆっくり……ゆっくり下がるんだ。一旦離れて、いいか、音を立てるなよ」


タケルとモンタは必死に頷いた。


一歩、また一歩。


心臓の鼓動が、静まり返った森の中で爆音のように響いている気がする。

だが、運命というやつは、いつだって最悪のタイミングで牙を向くものだ。


「……よし、あと少し。モンタ、後ろに小さな枝があるから気を付け――」


ケンの警告が、あと一秒早ければ――

あるいは…。


―――パキッ!!!


乾燥した熱帯樹の枝が、モンタの体重で見事に真っ二つに折れた。

その音は、静寂に包まれた森の中で、まるでライフル銃の発射音のように響き渡った。


「――あっ」


モンタの顔が、文字通り土色になる。


「お、おまっ……! モンタぁあぁぁあぁ!?」


タケルが悲鳴に近い声を上げる。


「しっ、静かに! 刺激しちゃ――」


ケンの制止も虚しく。


ゆっくりと、貪り食う音が止まった。

屈んでいた“影”が、ギチギチという不快な関節音を立てながら、ゆっくりとこちらを振り向く。

ライトの光が、その怪物の全貌を暴き出した。

体表は、光を吸い込むような漆黒の皮膚。その上を、禍々しい紫色の燐光が血管のように走り、脈打っている。

そして顔の中央――。

巨大な、深紫色の双眸が、射抜くような鋭さで三人をとらえた。


「グオォォォオォォオォ……ッ!!!」


森全体を震わせるような、金属音を混ぜた雄叫び。

"次元獣"が立ち上がると、その身長は約180センチぐらい。


「……見つかっちゃったぁぁぁ!!!」


モンタが叫ぶ。


「当たり前だろ! どんなベタなミスしてんだよ!?」


タケルも叫び返す。


「口喧嘩してる場合か! 二人とも!逃げるよ!」


ケンの叫びと同時に、"次元獣"の脚が地面を爆ぜさせた。

黒い旋風が、三人の少年を飲み込もうと迫り来る。


「ちくしょう、100均のライトがあれば目潰しくらいはできたのに!」

「バカ! 今更言っても、もう遅いよ!」


タケル、ケン、モンタの三人は急いで迫り来る"次元獣"から逃げ走った。




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