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超次元勇士ゾーンG(グレート)ロボ  作者: 道化師
ティル・ナ・ノーグ編
30/37

―不吉な点滅―

黄金色に染まっていた水平線は、いつの間にか深い藍色へと沈み、空には宝石を撒き散らしたような星々が顔を出し始めていた。


「あー……。食った食った。人生であんなに肉を食ったのは家族と一緒に焼肉屋で一緒に食べた時、以来初めてかもしれないよ」


モンタが膨らんだ腹をさすりながら、ホテルの豪華な廊下を歩く。


タケル、ケン、モンタ、そして愛先輩と翠の五人は、アイドルグループ〘"カオス・レゾナンス"〙及びプロデューサーとマネージャーおまけにスタッフ一団と一緒にBBQ(バーベキュー)を終え、ようやく宿泊先のホテルへと帰還していた。


「本当ね。タケル君の焼いたお肉も、アイドルや他の方々達にのみんな大喜びだったね」


愛先輩がクスクスと笑いながらタケルに視線を送る。タケルは少し照れくさそうに、それでも満足げに微笑んだ。


「喜んでもらえてよかったわ。さあ、明日はもう帰る日よ。今のうちに荷造りをしておきなさいね。まだ、リゾート気分で浮かれて、荷物を忘れたりしちゃダメよ?」

「もちろん、わかってます。……じゃあ、愛先輩、翠さん、おやすみなさい」

ケンが代表して挨拶を交わし、三人の少年たちは自分たちの部屋へと入る。


――ガチャリ。


重厚なドアが閉まると、部屋の中はエアコンの心地よい冷気と、静かな間接照明に包まれていた。


「あー…終わっちゃうんだな〜」


タケルがベッドの上に大の字に寝転がる。窓の外には、ライトアップされたホテルのプールと、その向こう側に広がる漆黒の海が見える。


「何言ってるんだよ。GW(ゴールデンウィーク)はまだ、明日の帰りを含めればあと、3日は残ってるだろ。このリゾートアイランド〘ティル・ナ・ノーグ〙に来れるだけでもいい思い出なんだから、さあ」


ケンはそう言いながら、クローゼットから自分のリュックを引き出し、手際よく荷物を詰め始めた。濡れたサンダルをビニール袋に入れ、使い古したTシャツを丸めて押し込む。


「ケンは相変わらず、行動と準備が早いなぁー」


モンタもよっこいしょと起き上がり、散らばったお土産や愛先輩から貰ったキーホルダーなど自分用に買った奇抜な柄のアロハシャツを整理し始めた。

三人はそれぞれ、頭の中でこの〘"ティル・ナ・ノーグ"〙での思い出をふり返りながら。


「ふぅ……。俺もそろそろやるか〜」


タケルがベッドから跳ね起き、自分のボストンバッグを広げた。中には数日間の喧騒と、潮の香りが染み付いた衣類が乱雑に詰まっている。

その横で、モンタは「これ、入るかなぁ」と独り言を漏らしながら、自分用に買ったという、極彩色で巨大なカニがプリントされたアロハシャツと格闘していた。


「モンタ、それ、畳むんじゃなくて丸めた方がスペース空くぞ」


「お、さすがタケル! 」


二人がそんなやり取りをしながら、あーでもないこーでもないと荷物を整理し始めたその隙に、ケンはベッドの端に腰掛け、自然な動作でポケットからスマートフォンを取り出した。

画面の輝度を最小限まで下げ、二人の視線が自分に向いていないことを確認する。

通知欄には、以前からメッセージが届いていた。送り主は、同じ学校の友人であり、この連休中に一人でキャンプへ出かけると言っていた花見さんだ。

ケンは指を動かし始めた。この二泊三日、夢のようなリゾートアイランド〘ティル・ナ・ノーグ〙で過ごした濃密な時間のすべてを、花見さんに伝えるために――。


【ケン】:『花見さん、夜遅くにすみません。今、ようやくホテルに戻って荷造りを始めた所です。この島で本当にいろいろなことがありました。花見さんにどうしても伝えたくて、長くなりますが、

初日に島に降り立った時のあの感覚を、たぶん一生忘れないと思います。

タケルもモンタも、島に着いた瞬間は僕も含め、はしゃいで走り回ってました。特にBBQ(バーベキュー)では、あの有名なアイドルグループ〘カオス・レゾナンス〙の三人とプロデューサーとマネージャーとスタッフの皆さん全員で肉を食べました。特にタケルくんは最初は緊張してたみたいだけど、いざトングを握ったらまるで焼肉屋の店主みたく、「タケルの焼いた肉は世界一だ!」って皆、笑顔で食べながら楽しく、笑いました。

それから、島のあちこちを巡った。

エメラルドグリーンの海、白い砂浜。

愛先輩とそのお母んもリゾートを満喫しています。

モンタが買った変なアロハシャツには流石に笑いました。

でも、一番心に残ったのは、この島、〘"ティル・ナ・ノーグ"〙と呼ばれている理由が少しだけわかった気がします。

時間は確かに過ぎているのに、ここにいる間だけは、明日が来るのが怖くないような、不思議な全能感があった。

この思い出があるから、連休が終わっても僕たちはまた頑張れるんだと思う。

花見さんのキャンプはどうでしたか?

また学校で、詳しい話を聞かせてほしいです』


ケンが「送信」ボタンをタップ。

すると直ぐに画面に『既読』に変わった。

こんな時間まで起きているのか、と驚く間もなく、スマートフォンのバイブレーションが短く震える。


(返信がきた…!)


思わず呟きそうになり、慌てて口を閉ざす。背後ではタケルが「俺の靴下、片方どこ行った!?」と騒いでいる。

届いた返信は、ケンの長文に比べれば短く、それでいて彼女らしい落ち着きを感じさせるものだった。


【花見】:『ケン君、お疲れ様。

素敵な報告をありがとう。文面から、君たちがどれだけ充実した時間を過ごせたのかが伝わってきて、私も少しだけその島に行ったような気分になれたよ。

石谷くんのお友達が焼いた肉食べてみた方よ』


【花見】:『私のキャンプ?

実は、もう昨日のうちに撤収して、今は自宅にいるんだ。

今日は一日中、机に向かって勉強をしていたよ。

静かな部屋でノートを広げていると、キャンプで聴いた風の音や焚き火の爆ぜる音が、遠い昔のことみたいに感じる。

リゾートアイランドで満喫している、石谷くんたちとは対照的に、私は一足早く“日常”に戻ってしまったみたい。

でも、君のメッセージを読んで、もう少しだけ連休の余韻を楽しもうと思える気がするよ。

残りの3日間、安全に気をつけて帰ってきてね』


【花見】:『追伸(ついしん)、お土産話、楽しみにしているよ。』


「ふぅー…」


ケンは、画面の向こう側にいる花見さんの穏やかな微笑みを想像し、熱くなった胸を落ち着かせるように深く息を吐いた。


しかし、その安らぎは、左手首から放たれた異質な光によって一瞬で打ち砕かれる。


(……えっ?)


袖口から漏れ出す、鋭く、規則的な点滅。それは、このリゾートアイランド〘ティル・ナ・ノーグ〙に上陸してから一度として反応を見せなかった、対次元獣用のデバイス――《ゾーンブレス》の警告灯だった。


「嘘…!なんで!」


ケンの顔から血の気が引いていく。

このブレスが反応しているということは、すぐ近くに、"次元獣"が存在していると言う事になる。


「ん?どうしたケン?そんな 魂抜けたような顔して」


タケルが丸めた靴下を手に振り返る。

モンタもまた、極彩色のカニ柄アロハを抱えたまま、怪訝そうにこちらを見ていた。


「……二人とも、これを見て!」


ケンが左腕を突き出す。

暗闇の中で激しく明滅する紅い光は、平和なホテルの客室にはあまりにも不釣り合いで、凶々しかった。


「なっ……! なんで今さら……!?」

「"次元獣"反応!?」


タケルとモンタの表情が瞬時に強張る。


先ほどまで語り合っていたBBQ(バーベキュー)の余韻も、連休の浮かれた空気も、瞬時に霧散した。


窓の外に広がる、宝石を撒き散らしたような美しい星空と、静まり返った漆黒の海。


その美しさの裏側で、現実の境界線が音を立てて軋み始める。


花見さんから届いたばかりの、「()()()()()()()()」というメッセージが画面上で虚しく光っていた。


「……ケン、タケル」


モンタがアロハシャツを放り投げ、三人は揃って視線と顔を見合わせる。


静寂に包まれていたはずのリゾートアイランド〘ティル・ナ・ノーグ〙が今、絶望へと変貌しようとしていた――。




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