プロデューサーとマネージャーもスタッフも含めて一緒にBBQタイム☆
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「ちょ、ちょっと、 斑鳩さん!涼風さん!瀬戸さん! 勝手に行かないでください!」
三人の後を追いかけてきたロケスタッフの一団とブランドスーツをパリッと着こなした敏腕プロデューサーと数枚のスケジュール表を抱えて血相を変えているマネージャーがタケルたちの前に現れた。
「斑鳩さん、涼風さん、瀬戸さん!はぁ…はぁ…、勝手に、行動しては困ります! 次の撮影の打ち合わせが……」
マネージャーが必死に詰め寄るが、そこでピタリと動きを止めた。
「……ん? なんだ、このいい匂いは?」
プロデューサーも鼻をピクピク、ヒクつかせ、タケルが今まさに焼き上げた、肉に視線を釘付けにする。
「あ、プロデューサーさんもマネージャーさんも。ちょうどいいところに」
陽葵がニコニコと手招きをする。
「ここのコテージで準備が出来るまでの間、一緒にどうですかって誘ってくれたんですよ。ほら、タケル君の焼くお肉、絶品なんです!」
「タケル君……?」
プロデューサーが怪訝そうに、トングを構えて仁王立ちしている少年——タケルを見た。
「……な、なんだよ。おっさんたちも食うのか?」
「おっさ……ッ! 失礼な!私はまだ30代だぞ、少年!」
プロデューサーは一瞬ムッとしたものの、網の上で黄金色に輝く脂、そして炭火の絶妙な遠赤外線効果で表面がカリッと仕上がった肉のビジュアルに、プロとしての“本能”が屈服した。
「……マネージャー。撮影準備、確か…照明の調整にあと30分は掛かるんですよね?」
「え?、ええ。機材の搬入が砂浜で手間取っていますから、それくらいは……」
「よし、せっかくだ。少年、一つ頂こう。仕事の質は、良質な栄養補給から始まるからな」
「調子のいいおっさんだな。ほら、座れよ」
タケルは呆れ顔で、予備のパイプ椅子を蹴り出した。
「ははっ、言うねぇ少年! タケル君…だっけ?その度胸、嫌いじゃないよ」
プロデューサーは苦笑いしながら、高級ブランドスーツの裾を気にする様子もなく、タケルが差し出したパイプ椅子にどっかりと腰を下ろした。マネージャーも、まだ少し不満げな顔をしていたが、鼻孔をくすぐる暴力的なまでに食欲をそそる香りに抗えず、恐る恐る隣に座る。
「じゃあ、遠慮なく……。まずはその、一番いい色に焼けてるやつを頼む」
「はいはい。ほらよ、火傷すんなよ」
タケルは慣れた手つきで、炭火の火力が最も安定している、厚切りの牛タンを二枚、小皿に乗せて差し出した。
プロデューサーが箸を伸ばす。表面には細かな切れ目が入れられ、そこから溢れ出した肉汁が炭に落ちてはジュッと、小気味よい音を立てる。口に運んだ瞬間、彼の目が見開かれた。
「……!!」
言葉が出ない。
噛みしめるたびに、タン特有の心地よい弾力が歯を押し返し、その隙間から凝縮された旨味が怒涛の勢いで押し寄せてくる。
「んん…!美味い!」
「えへへ、だろう♪」
プロデューサーが美味そうに食べてるのを見て、つい自然とニヤけてしまうタケルはトングで次の肉を焼きに大振りのハラミを網の中央へと移動させる。
「えっへん!プロデューサーさん、言ったでしょう? 」
陽葵が、まるでお手柄を自慢する子供のように胸を張る。斑鳩も、いつものクールな表情を少しだけ緩め、静かに肉を口に運んでいた。
「……マネージャー、これ。次のグルメ番組の企画、全部白紙にして彼を呼びたいくらいだよ」
プロデューサーが真顔で呟く。
「ちょっと、プロデューサー! 冗談でも困りますよ。今のスケジュール、1分刻みなんですから!」
マネージャーはそう言いながらも、手元の肉を飲み込むスピードを早めていた。
「いいじゃないですか、少しの休憩くらい。ね、美璃さん?」
涼風が話を振ると、瀬戸は口いっぱいに肉を頬張りながら「んぐっ、んふふ……さいこー……」と、もはや言葉にならない至福の声を漏らしていた。
タケルはそんな大人たちの喧騒をどこ吹く風で、トングを楽器のタクトのように操る。
「おい、おっさん。次はこれだ。タレじゃなくて、この岩塩とワサビだけでいけ」
プロデューサーの前に差し出されたのは、美しいサシが入ったサーロインの塊。強火で一気に表面を焼き固め、アルミホイルで包んで数分間寝かせておいた。
プロデューサーはタケルに言われた通り、少量のワサビを乗せて口に放り込む。
脂の甘みが舌の上で溶け出し、ワサビの爽やかな辛みが後味をキリリと引き締める。
「う、美味い……!」
プロデューサーが震える手で二切れ目に伸ばす横で、マネージャーもまた、理性の堤防が決壊していた。
「……んんっ! プロデューサー、これ、本当に照明の調整が終わるまででいいんですよね? 撤収の合図が来ても、私は動ける自信がありません……」
「マネージャーまで骨抜きかよ…」
タケルが呆れ顔をしながらも今度は網の端でじっくり焼いていた特製のスペアリブを皿に並べていく。その光景は、もはやロケの合間の休憩ではなく、海辺の高級プライベートレストランの様相を呈していた。
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そうこうしているうちに、コテージ側での準備を終えたケン、モンタ、そして愛先輩と母親の翠さんが、大量のサイドメニューを抱えて戻ってきた。
「おーい、タケル! 野菜スティックと特製ダレ、それに翠さん特製のキンキンに冷えた麦茶も持ってきた……って、うわっ!?」
ケンの目が飛び出さんばかりに見開かれる。
「なんだこの人数! 何か、知らない人達まで混ざってる?!」
「あ、ケン君。準備ありがとう! ちょうど今、プロデューサーとマネージャー、あとスタッフの一団の皆さんにもタケル君の肉の虜になってたところだよ〜♪」
陽葵が楽しそうに駆け寄り、重たいボウルを受け取る。
翠は驚きつつも、そこは肝の据わった大人の対応を見せた。
「あらあら、賑やかでいいわね。スタッフの皆さんも、お仕事大変でしょう? 遠慮せずに召し上がってくださいな。お野菜もたっぷりありますからね」
「す、すみません……お邪魔しております……」
恐縮するスタッフたちだったが、翠さんの穏やかな笑顔と、タケルが次々と焼き上げる肉の暴力的な香りに、一人、また一人とパイプ椅子を引き寄せていった。
「美璃、口の横にタレがついてる」
律が呆れたようにハンカチを差し出すと、美璃は「ふぇ? あうぅ、ありがと……」とはにかみながら受け取る。その光景を逃さず、カメラマンの一人が反射的に私物のデジカメのシャッターを切った。
「……おい、今の見たか? 普段の瀬戸さんにしては絶対に見せない、最高に良い表情だぞ!」
「ああ。この肉のお陰かもしれないな」
プロデューサーは満足げに頷きながら、翠が持ってきた麦茶を喉に流し込む。
「タケル君、そして灰坂さん。急な乱入だったが、最高の持てなしに感謝致します。……よし、全員! 腹は満たされたな!?」
プロデューサーの号令に、スタッフたちが一斉に背筋を伸ばす。
「この後の撮影、予定を変更する! 予定していたガチガチのポージングはやめだ。このコテージを使って、今この最高の空気感をそのまま映像に収める。準備、15分で完了させろ!」
「「「はいっ!!」」」
プロの顔に戻ったスタッフたちが、一糸乱れぬ動きで機材のセッティングへと散っていった。
「……嵐みたいな人たちだったわね」
翠さんが少し笑いながら、空いた皿を片付け始める。
「でも、タケル君の焼いたお肉のおかげで、みんなあんなに笑顔になって。……私、今日の撮影、すごく素敵なものになるような気がする…」
美璃が海風に髪をなびかせながら、遠くの水平線を見つめて呟いた。
タケルは最後に残った炭を整え、トングを置く。
「ま、おっさんたちの仕事の邪魔になんなきゃいいけどな」
ぶっきらぼうに答えるタケルだったが、その視線の先には、準備が整いつつある特設セットの中で、今まで見たこともないような眩しい表情で笑い合う律、美璃、陽葵の三人の姿があった。
夕暮れが近づき、空がオレンジ色に染まり始める。
最高の食事の後に待っているのは、彼女たちがアイドルとしての"本業"で見せる輝きの時間だ。
海辺のバーベキューから始まった、この不思議な交流は、誰も予想だにしなかった最高の思い出の1枚となった――。




