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魔王とドールの地下生活⑥ 第142次畑攻防戦

お楽しみください

 魔法を使えた時が、どれだけ便利だったか……。モノを失った時の悲しみなど、失ってからしか理解できぬ。健康も同じだ。病気にでもならねば、健康のありがたみは分からん。他愛ないものは、失って初めて、宝物となる。

 封印され、長い時が経った今、俺の手元には何も残っていない。

 もし無理やり数えるとすれば、この命と、服と、なけなしのマナを操る力しかない。

 俺が封印される前でも多くの物を手にしているとの実感はあったが、今の俺は、失ったものが多すぎる。残ったものを数えた方が早い。

 魔力のほとんどを失って、そのなけなしの魔力も、ドールを起こした魔法で全て使い果たした。魔力が回復する様子は一向にない。

 ドールに教えているボタニア式魔術ならば使えるだろうが、マナと不仲な俺では、果たしてどこまでできるか。

 何が起きて、俺は人間に負け、封印されたのか。その記憶すら、俺は失った。長い年月によるものなのか、それともこれも人間の仕業なのか。

 そしてなぜ、俺はここまで失って、まだこの命があるのか。

 封印は未だに残っている。弱くはなっているのだろうが、今の俺にとっては十分に強力だ。

 早く封印を割って、外に出て、情報を集めねば。

 そのためには、ドールにボタニア式魔術を習得させ、ドールの魔導回路を使わねばならない。

 また、どれほどの時間がかかるのだろうか。俺にとって時間など他愛ないもののひとつでしかないが、俺はその悠久の時間すら失った可能性がある。

 一から、全てをやり直さねば。

 今、俺の新たに得たモノ。

 この地下屋敷と、機械人形3000式ドールを最大限利用するとしよう。

 そこから、全てを取り戻して見せよう。

 そしていずれ、魔王として。

 この世界に、君臨して見せよう。

 短い眠りから、目が覚めた。


 「おはようございます、フズリナ様」

 おはよう、ドール。レキシカボタニアを読み進めておるのか。寝なくて大丈夫か?

 「はい。我々機械人形オートマタに睡眠は必要ありません。必要なのは、マナとエネルギーのみです」

 そうか……あまり無理しても、体に良くない。定期的に体を休めろ。いくら機械だとしてもな、メンテナンスは必要だろう。

 「……そうですか。かしこまりました」

 ふむ、そうだな。体を休めると言えば……アレがあったな。

 ドールがマナを感知できるようになれば……。

 「どうかしましたか」

 いや、いい。あれがあったとしても、お前が身体を休められる訳ではないからな。いずれでいい。

 「そうですか。では、朝食の準備をしてきますね」

 なかなか優秀なものよ。勤勉なうえに、家事もこなせるとはな。

 さて、俺も何か、仕事をするか。

 ……それに、何か……いや、気のせいか?

 まあ、いい。色々気にしすぎては、夜も眠れん。

 さて、また渓谷の上に登って、日光でも浴びて来るかな。ついでに、洞窟の出入り口付近に自生している植物でも取って来るとしよう。ボタニアの役に立つかもしれん。

 寝室(骨主人どもが使っている物を使わせてもらった)から出て、ドールに一言言ってから行くか。

 「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

 ではな。しばらくしたら戻る。

 料理をするドールの姿は、何と言うか……。背筋はすらっと伸びていて、視線は料理へ一直線に注がれている。淡々と両手を動かし、俺への一言以外は何も発さない。俺が魔界にいた頃の食事を出していたものは、味にこだわるばかりに、時間にルーズだった。それが原因で小競り合いになった事もある。しかしドールの調理する様は、一点の迷いもなく、最適な分量、最適な時間がすべてわかっているようで……

 「どうしましたか、フズリナ様。もう出来上がってしまいますよ」

 あ、いや、すまん。少し見とれてしまっていて、な、ハハハ!

 どれ、少し朝の涼しい風でも浴びてくるとするか、フーハッハッハ!!

 「そうですか。それでは改めて、行ってらっしゃいませ、ご主人様」

 うむ! ではな!


 『地から這い昇って来る朝日は、本当に希望の象徴なのだろうか。天から輝きながら降って来る隕石は、本当に災害なのだろうか』

 『地から昇って来る太陽は、また地に沈む。これは、生まれてきた万物は、同じところから生まれ、同じところに帰るという、そう言う事実の象徴ではないのだろうか』

 『空から降って来る隕石を、大地を滅ぼす災害だという人もいれば、それは天から降ってきた新たなる資源だ。そして宇宙の謎を解き明かすための情報だ、と言う人もいる』

 以上は、俺が封印される前にいくつか見た文献の中にあった一節である。

 全ては人間の書いたものである。

 人間は、同じものについての意見であれ、こうも考え方が違う。

疑問の着眼点や、予想、意見。これら全てが同じである事が、絶対とは言い切れないが、ありえないぐらいに考え方が違う。

 魔族もこうではないとは言わないが、人間に比べてみれば、いくらか考え方が統一されているように思える。

 この考える事が百人百色に違う人間の性質を仮に人間の『自由意志』と呼ぶとして、人間はこの自由意志によって意見の食い違いを生じさせ、争いを起こしてきた。その争いは喧嘩のような小さなものから、国家規模の大戦争にまで発達したりする。

 今俺の目の前に、地面から昇る太陽が映っている。時間が経てば、この太陽は洞窟の出入り口の上部に隠れ、見えなくなってしまうだろう。

 果たして、人間は何を考えていたのだろうか。この魔王が勇者如きに負けるはずがないのだが……記憶がなぁ……。

 太陽を見ていると、何か思い出しそうな……熱……? いや、光? それとも大きなエネルギーか……?

 ダメだ、まるで夢のように思い出せん。思い当たるのだから記憶はあるのだろうが、ハッキリ思い出すのは、今は無理なようだ。

 そろそろドールが食事を完成させているだろう。いくつか植物を摘み、戻るか。


 「お帰りなさいませ、ご主人様。また油断しましたか? 体中に汚れがついていますよ」

 あ、いや、まあ、これはな……油断したよ。それで落ちた。言い逃れできんな。

 それよりドールよ、洞窟の入り口付近に生えていた植物をいくつか摘んできた。後でこれでまた、実験をするとしようぞ。

 「かしこまりました。お食事はもうすべて並べ終わりましたので、ごゆっくりどうぞ。今日のメニューは卵スープと温野菜です」

 なんと!!! またあの素晴らしい食事を味わえるというのか……素晴らしいぞ、ドールよ。

 「それは勿論、世界一の家政婦機械人形オートマタと自負していますので。お代わりが欲しくなった時は、また呼んでください。私は農園の様子を見てきます」

 おう、分かった。励むと良い。

 それでは……いただきます。

 いやあ、このような食事は、ドールを失ってしまえばもう味わえぬかもしれぬなあ……。


 魔王、食事中……


 ふう、うまかった。うまい食事は何度食ってもうまい。お代わりをしようか……だがドールがまだ戻って来ない。農園の様子を見て来ると言っていたが、それほど時間のかかるものでもあるまい。俺は10分と少しで全て食べ終わったから、そろそろ戻ってきてもいいと思うのだが。

 ……? 何か、大きな音と走る音が聞こえるな。それに次いでこの付近のマナの減少を感じるのだが……。

 その時、大きな音を立てて、リビングのドアが開け放たれた。その原因であろう直径十五センチほどの石が飛んできたので受け止めた。結構な威力だったので椅子から落ちそうになった。手が少しばかり痛い。

 「この害獣が――――ッ!!」

 鬼と見まがえるほどの気迫をしたドールが、部屋に飛び込んできた。

 ドール!? 一体どうした!? 害獣って俺の事!?

 「いつもいつも畑を食い荒らして!! 今日と言う今日は許しませんよ!!」

 うわっちょ、そんな石とかほうきとか投げるでない! 俺がなんかしたか!? 謝るから!

 「フズリナ様!! フズリナ様の足元に害獣が!」

 え?

 と、足元を見てみたら、もぐらがいた。害獣ってこいつか?

 「動かないでくださいフズリナ様!」

 お、おう分かった。

 ドールが姿勢を低くして、机の下のモグラにターゲットをロックオンした。

 「ふッ」

 短い呼吸の後、電光石火の如く、ドールが机の下を通り抜けた。そしてその手には、モグラがしっかりと捕獲されていた。

 「ようやく捕まえましたよ、この害獣が……」

 ドールが俺の後ろに移動したので、なんか俺がチェックメイトされたみたいになっている。

 マジで何が起きとるんじゃ。理解が追い付かん。

 な、なあドール。いったい何が……。

 「ああ、申し訳ありませんご主人様。農園の様子を見ていたら、畑を荒らす害獣と邂逅してしまいまして。それで、こうやって捕獲した次第でございます。お食事の邪魔をしてしまい申し訳ありません」

 あ、いや別にいいんじゃが……。

 なんか目が怖い。初めて見たぞドールのこんな邪悪な目。今にも人を殺めそうじゃ。機械人形がしていい表情じゃない。

 な、なあ、そのモグラは、今後どうするつもりだ?

 「それは、決まっているでしょう? 火にくべて、助けてくれと懇願するところを、笑顔で」

 待て待て待て待て! 邪悪すぎるなお前!? 害獣、いやモグラに親でも殺されたか?

 少し考え直せ! と言うか落ち着け!

 「何を仰るのでしょうか。私はいつだって冷静です」

 うーむ……それは大抵冷静じゃない奴が言うセリフだと思うんだが……。

 ていうかそんな単純に拷問だとか抹消するみたいなのは、あんまりよくないと思うが……。

 「魔王が言うのですか」

 いや、まあ……。

 「ですが……そうですね。以前、地上で過ごしていた頃……今回と同じように畑で害獣と出会ったことがありました。その時は奥様に、見逃すように言われました」

 奥様って言うのは、あの骨主人の婦人の事か。

 「『モグラだって生きているんだから、優しくしてあげて』と、言われました。……そうでした、あれ以来、私は思考プログラムを改め、駆除ではなく、畑の防衛へと態勢をシフトしたのです。どうやら思考プログラムが上手く作動していなかったようです」

 「あの時、あの言葉を発した奥様があまりにもお美しかったので、私はモグラを逃がしてあげました。あの時の感情は……トキメキと言うものだったのかもしれません」

 「他にも、奥様は家畜たちの食物を荒らしたタヌキたちにも優しくしてあげていました。私がタヌキに火をつけたときには、熱心に介抱をしてあげていました。そのタヌキたちの子孫とは、今も抗争を続けております。この害獣モグラも、地上で出会った個体の子孫で、今も第142次畑攻防戦を繰り広げております」

 おーい、戻ってこーい…………。

 これほど害獣に対して物思いに耽る機械人形とは……高性能なのかどうか分からなくなってきたな。

 とりあえず、お代わりは頼めなさそうだ。

いいねができなくなっていたようなので、できるように修正しました。

あとタイトルに原作の作品の名前を追加しました。

二次創作を許可してくれたYASUDAさん感謝


また次回もお楽しみください。

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