とある個性剥き出しのアンダーグラウンド
人は俺のことを変わり者だという。
だが俺にそんな意識などない。
ただ我を通しているに過ぎない。
同じようなファッションに同じような趣味嗜好。
全体が右だと言えば右だと口をそろえ、
また全体が左だと言えば左だと口をそろえる。
なんと愚かしいことか。
なんと情けないことか。
人とは考える生き物だ。
自分の目で見て
自分の頭で考える。
それこそが
唯一にして絶対の
真実であるはずだ。
ただそれだけのこと。
俺は変わり者ではない。
そもそも同じ人間などいないのだから、
それを無理に追随している周囲こそが
変わり者だと言えるだろう。
そういう訳で今日も俺は――
地面に埋まっている。
「きゃあああああ! 生首ぃいいいい!」
地面から頭だけを出している俺を見て
女が悲鳴を上げて逃げ出した。
逃げ出す際に俺の顔面を
強かに蹴ったりもしたが、
俺は何とも思わない。
他人の視線も
他人の言葉も
他人の行動も関係ない。
俺は俺だ。
地面に埋まりたい以上――
俺は地面に埋まり続ける。
「ぎゃああ! 何コイツ!
スカートの中覗いて、変態!」
俺の頭上を通過しようとした女が
スカートを押さえながら俺の顔面を踏みつけた。
憤慨して去っていく女。
鼻血が止まらない。
だが気にしない。
俺は俺。
やりたいようにやるだけだ。
「おお・・・こんなところにカブが・・・
うぬぅううう・・・抜けん・・・抜けんぞぉお」
俺の首を引っこ抜こうとしたジジィが
肩を落として去っていく。
このもうろくジジィが。
俺はカブではない。
だが気にすることはない。
俺は俺なのだ。
「ぬ? なぜ人間が埋まっている?」
魔族が現れた。
地面に埋まっている俺を見て
不思議そうに首を傾げている。
「まあいい。人間は皆殺しだ」
武器を振り上げる魔族。
俺はその魔族を見て――
嘲笑を浮かべた。
「なんだ? 何がおかしい?」
問う魔族。
俺は肩をすくめ――
いや地面に埋まっているため肩は動かないが
とにかくそんなニュアンスで
魔族に憐れみを視線を向けた。
「俺が恐いか?」
「何だと?」
魔族が訝しそうに首を傾げる。
どうやら図星らしい。
まあどこがどう見えたから
そう判断したかとか
そういう細かいことは言えないが
とにかく図星らしい。
「土に埋まる俺とそれを見下ろす貴様。
すでに勝負は決している。貴様はそれを理解し・・・
だがそれを認めんと暴力に訴えている。違うか?」
「・・・たぶん違う」
動揺を顕わにする魔族。
真理を突かれぐうの音も出ないらしい。
まあ普通にさっきから話しているが
ぐうの音も出ないらしい。
「俺と貴様とでは立つべきフィールド・・・
いや埋まるべきフィールドが違う。
今回は見逃してやる。立ち去るがいい。」
「・・・・・・」
――十分後
「どうだ? これで貴様と俺とは
そのフィールドが同じだ」
首から下を地面に埋めた魔族が、
勝ち誇るようにそう言った。
「ほう・・・魔族にしては気概があるな」
素直に称賛を送る。
魔族だろうと人間だろうと
認めるべき相手には敬意を払うべきだ。
「これで文句はあるまい。
それでは貴様を始末させてもらうぞ」
魔族がそうギラリと瞳を輝かせた
その時――
「にいちゃーん」
一人の少年がこちらに近づいてくる。
「あ、またそんなところに埋まって。
母ちゃんがそろそろごはんだから
にいちゃんを呼べってさ」
「飯時か。よしすぐに行こう」
俺は弟にこくりと頷いて、
地面に埋めていた体をずるりと抜いた。
「え? ・・・あ、貴様待て!
逃げる気・・・おおお!?
体が・・・体が抜けんんんん!」
魔族が左右に首を振る。
どうやら地面から体を引っこ抜くことが
できないようだ。
「素人が。土に埋まる時は
きちんと脱出ルートを確保しとけ」
「にいちゃん。早く行こうぜ」
顔を蒼白にしてもがいている魔族から視線を外し、
俺は弟とともに帰路へとつく。
「きゃあああああ! 生首ぃいいい!」
「なにスカートの中をのぞいてんのよぉおお!」
「カブじゃあ! 引っこ抜けんぞぉおおおお!」
「いやああああ! 蹴るな! 踏むな!
首を引っ張るな! 誰か助けてぇええええ!」
背後から聞こえてくる魔族の絶叫。
それはそれとして弟がふと呟く。
「今日はにいちゃんの好きなカレーだって」
俺は変わり者だと言われる。
だがそんなことはない。
俺は自分に正直に生きているだけだ。
ゆえに――
食べ物の好物は至って平凡だ。
「まじかよ!? きゃほおおおおお!」
弟からもたらされた吉報に
俺は家路への足を速めた。
意味を考えるな。感じるんだ。
ブックマークと評価一件につき、10+2話書いてみたいと思います。
もう少し延長させてやろうという方、
よければブックマークと評価をいただけるとありがたいです。
ブックマークつけるか迷ったときはつけてみましょう。




