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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第一章 白線の外側で笑っている

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第6話 勝手に死なないで

「こまりんってそんな感じだったんだ。見てるだけじゃわかんなかった」

「どういうつもりですか、私別に変なことしてる気ないですよ」

「言葉に滲み出てんだよなあ……まあいいけど」

「これからは気をつけます。それで、光のことなんですけど」

「……あたしのいとこに一体なにをしようとしてるんだよ」

「えー、やだなぁ、仲良くなりたいってお話しましたよね」

「そりゃそうなんだろうけど、すげえがっついてくるからさ。合コンの野郎連中みたい」


 舌打ちを口に力を入れて抑える。いちいちムカつく言い方するなこの女。


「そんなふうに見えちゃいますかあ? でも、変な気持ちなんてないんですよ、ほんとに光のこといいなあって思って、けど、ほらあの子自分のこと話してくれないじゃないですか」

「話したくないんだろ。じゃああたしが言うことでもねえよ」


 抑える、舌打ち。

 手をついてカウンターに身を乗り出す。


「お願いします……本当にお願いします」


 頭を下げる。目を瞑る。前歯が擦れてしゅるしゅると音を出す。


「ほんとにほんとに知らなきゃダメなんです、光のこと、私が」


 ギっとパイプ椅子が鳴いた。


「そこまでする理由は? 昨日会ったばっかりだろ」

「それはそうです、そうですけど」


 顔を上げた。みちるさんの、目を見る。


「あの子のことが……好きなんです、あ、あ、別にそういう意味じゃなくて……人として、いいなって、それじゃ駄目ですか、これだけじゃ信じてもらえませんか」


 みちるさんの目が、斜め下を向いた。


「理由としちゃ三流だな、そんなんであたしが身内の秘密を話すかって言われたら、話さねえよ」


 沈黙。みちるさんは自分の手元なんかを眺めている。なにかないかな、仏壇を見たことを……いやそれはまずい、他になにか、そうだ。


「……光、駅で泣いてたんです」


 みちるさんの顔が、ゆっくりと上がった。小さく口を開けて、私を見ている。


「本当に涙を流してたのかはわかりません、でも、線路を見つめて、暗い顔をしてたんです。心がどこにもないような、今すぐ消えちゃいそうな、そんな感じで。だから声をかけさせてもらったんです、放っておけないって」

「それ、本当か……いや、まあ、疑うことでもねえけどよ」

「お願いします。私のお願い、聞いてくれませんか、あんな顔」頬の上がぴくっと跳ねた「もう、見たくないんです」


 結んだ口に力を入れる。喉を引き締める。表情を変えないようにして、見つめ返す。

 また沈黙。みちるさんは目を伏せて、顔を上げて、「はぁぁ」と地面に吹きかけてるみたいな深い溜息を吐いた。


「あいつを傷つけないって約束するか。下手なこと言ったら承知しねえぞ」

「はい、約束します」


 見つめ合う。数秒経って、みちるさんはまた深い息を吐いた。


「わかったよ、聞け。光が自分で言い出すまで誰にもバラすんじゃねえぞ、いいな?」

「はい」


 頷くと、ようやくみちるさんは、渋々といった感じに話し始めた。


「……ちょっと前に震災があっただろ。あいつは……光の家族はその被災者なんだ」

「震災……」


 みちるさんは少し顔を伏せて、目を左右に動かしている。言葉が出てくるのが遅い。


「家族が、な、亡くなったんだ、あいつを残して。しばらく避難所にいて、最近こっちに来た、そういう事情だよ」

「どうして向こうに残ってたんですか? ご家族を探してたとか」

「鑑定には時間がかかるんだよ、遺体のな。それ以上聞くんじゃねえぞ」


 沈黙。なにも聞こえなくなった頃に、言った。


「そう、だったんですか……だから光はあんなに……」

「あんなにじゃねえよ、あいつなりに頑張ってんだ。あんま変なこと言うなよ」

「はい、約束します。そういえば学校は」


 学校はっていうか、光はどこだ。転校してきてる、昨日の今日で、だったらいいけど、じゃなかったら、今は。ぐる、ぐると目が動いて、最後にみちるさんを見た。


「光はいま、どこにいるんです、家ですか? 家ならいいんです、家ですよね?」


 みちるさんは眉間にシワを寄せた。


「ぁぁ?」斜め上を見たまま、みちるさんは黙り込む「あ、この辺を散歩するとかって言ってた。馴染みねえから気になるって」

「散歩……」

「なんだよ急に、なんか気になることでもあんのか」

「いえ、別に。ただ、今どうしてるのかなーって気になって。案内するって約束してたものですから。あ、どこらへん歩くとか、なにか聞いてませんか?」

「どこらへんってもなあ」


 また変なところを見つめて悩みだす。早くしろ。もういいかなこいつ、どうせなんも知らないだろうし、人のいないところ探せば「あ、そうだ」

 みちるは拳で手の平を叩いた。


「暑くなってきたら森の方に行ってみたらってばあちゃんが――」

「ありがとうございました」


 ガラス戸を見る。歩き出す、早歩き、走る。やばい死んじゃう、くそう、順番間違えた。ああ、光、もうちょっと我慢してもうちょっと、死なないで。


 戸に全力疾走、身体をぶつけて押し開ける。後ろからみちるさんの声が聞こえる。


「おーいこれ買うんじゃなかっ……んだってんだよあいつ」


 駐車場の途中まで走って止まって、首を振る。どっち、光はどっち、森、森って言ったらいっぱいある、曖昧なんだよ。舌打ち。でもそうだ、そんな遠くはないでしょ、家のそば、だから。


「あっち」


 振り返って、店より離れた奥に広がる木の集まりを見た。青空の下で、生い茂ってる。あそこに光がいる。

 いかなきゃ。


 巻き込んだ親指をぐっと握りしめ、駐車場の外にまた走った。

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