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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第一章 白線の外側で笑っている

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第5話 あぁ、だめ、なにこれ、すっごい、すごい

「大丈夫だから、な、すまん、ちゃんと話せばよかった、もうここはいいから、別のところを」


 その手が、光の肩に触れた。


「ひっ……」


 光の上半身がねじれた。肘で手を弾いて、目の前とみちるの顔を何度も何度も往復するよう見た。締りのない口からベロが見えていて、目を凝らすと涎が糸を引いてるのがわかった。


 拳に力が入った。手、指、脇の下、肘、汗でまみれてべたべたになった。


「ぁ、あ……す、すまん、待ってろ水、水持ってくるから」


 みちるが急に部屋から出てきた。素足をバタバタさせてこっちに向かって廊下を駆けてくる。


「やばっ」


 頭を引っ込める。身体を丸くする。四つん這いになって壁沿いを急いで戻る。やばいやばい見られたらめんどくさい、なんて言おうなんて言おう、心配してたって――玄関まで戻っても、結局声をかけられることはなかった。


 廊下にみちるさんの姿はなかった。真っすぐ行ってキッチンに向かったのか、あーよかった。

 土間で屈んでいると、緩んだ関節にまた汗の気持ち悪さを感じた。



 外に出て、引き戸を閉めた。適当な壁を背もたれにして、ひといきつく。


「危なかったぁ……」


 息を吐いて、顔を上げた。ひさしの切れ目から、トゲだらけの太陽が見えた。


「なんかすごかったなあ……あんな反応するんだ……へぇ……」


 どくん、どくんとリズムよく心臓の音が聞こえる。崩れ落ちた光が目の前に現れる。心の抜けたあの顔。抜け落ちたあの顔。涎も涙も唾も全部液体垂れ流しにしたあの顔。やっばぁ。さっきと同じだ。


 皮膚を撫でられるような震えがやってきて、足の付け根で内側に溶けていった。止まっているとまたどんどん呼吸が早くなって、腰回りが痙攣した。

 あぁ、だめ、なにこれ、すっごい、すごい。


 一度、お腹の中の空気を全部吐き出した。内股になった足で、壁を頼りに建物を回り込んだ。あの部屋、どこだっけ、光がいたの。こっち、たぶんそう、あのあたり。


 胸を抑え、腰砕けになりながら、その部屋の前までやってくる。カーテンが閉まっていて、中はよく見えない。けど、縁の下側から覗き込むと、ほんの少しだけ様子がわかった。

 物がほとんど置かれてない薄暗い和室、テーブルすらもないそこに、横に長い台座が置かれていた。それと、人の足があった。白の短い靴下を履いた誰かが、台座の前で立ち尽くしていた。暗い、けど光じゃない、あんな靴下履いてなかった。じゃあみちるさんか、おばあさんか、どっちでもいっか。そんなことより。


 縁側にほっぺたをくっつけて覗き込む。ガラスに目を付けて、そうして、ようやくそこに置かれているものがわかった。

 写真がある、みっつ。箱がある、これもみっつ。整然と並べられていて、お茶碗らしきものや、みかんみたいなものが置かれていた。


 身体の芯をなにかぬるっとしたものが降りていった。足に力が入らなくなって、その場で座り込んだ。


「やっぱり……光はそうだったんだ……うふ……うふっふふふ」


 不規則なリズムで、夏の虫が鳴いていた。混ざり合うそれに耳を澄ませながら、肉が震えるような感覚にしばらく浸っていた。



 寝て覚めて支度をして制服を着て、だらだら歩きながら村唯一の小売店へとやってきた。太陽光のせいで意識が霞む。ヒビの入っただだっ広い駐車場を横切って中へと入る。なんでこんなとこに立ってんのかな、もっと近場にしとけって。昨日から自転車駅におきっぱだし。


 重いガラス戸を開けると、ぬるい空気が胸元に飛び込んできた。涼しくない、なんかぬめっとしてる。扇風機回ってるし。

 カウンターに目をやる。


「らっしゃ……って、あれほんとに来たんだ」


 一瞬腰を上げたみちるさんが、すぐパイプ椅子に座り直した。


「一度入ったからには最低三点な、冷やかしお断りだから」


 そう言って、みちるは手元に視線を落とした。なんだその態度、人がわざわざ苦労してきたのに。

 そこら辺を探して、適当に見繕う。チューインガム三つをカウンターに叩きつけた。


「光のことを教えてください」

「うわっ、直球。もう少し雑談しようとかそういう気ねえの?」

「いい天気ですね、タバコの銘柄たくさんありますね、繁盛してますか?」


 顔に力を入れて、笑顔を作る。見つめてると、みちるさんは椅子を軽く倒しながら、目を据わらせた。

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