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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
最終章 もう一度、あの顔を見せて

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第47話 こんな地方都市のなにが楽しい

 長い時間を、ぼーっと過ごした。光はいろいろ話していたけれど、あんまり覚えてない。


 電車を乗り継いで、県の中心駅に着くまでにたっぷり二時間半はかかった。改札を出て道幅の大きい駅前広場に出ると、光は少しげんなりしたように言った。


「思ったより遠かった」


 背中を丸めて腕をだらんと下げて、夢遊病みたいな光だ。


「都会育ちの感覚。こんな場所に来るだけで苦労するなんて、初めてでしょ」

「こんなってことはないけど……車買おっか」

「わー、無免許運転。見つかればバッチリ退学だね」


 ウインクすると光は乾いた笑いを漏らした。


「冗談はこれくらいにして……一応、行きたい場所は見繕ってきたんだ、徒歩で行ける範囲でね」

「裏の方にあるホテル?」

「それは後でね」

「え」


 光はなにも言わず、顔を逸らした。鼻の穴が少し開いていて、二回連続するまばたきを繰り返していた。


 咳払いをして、光は元の穏やかな表情に戻った。


「で、えっと、稜月ちゃんはどこかある?」

「あー……全然。考えてもない」


 ぐるりと周囲を見回した。


 近代的な建物が立ち並ぶけど、特別活気があるわけでもない。路面電車の走る地方都市。地元とも言い難い、距離感のある街。魅力なんてない寂れた場所。


「そっか、じゃあ今日はわたしに任せて」


 なにも言われずに、片手を取られる。手のひらと手のひらを合わせて、迷子の子供のように握りしめられる。


「ん」


 強く握る。一瞬意識が手だけになって、その体温も指紋すらも感じ取れるような気がした。


 エスコートしてくれるみたいに歩き出す光。遠くを指差して、カフェに行きたい、なんて言って笑ってる。やっぱりデートスポットを調べてきたんだ。光のくせに。

 遅れて私も歩き出す。「そこ知ってる」なんてこの口は言ってる。


 外気温よりもあったかくて、ちょっとピリッとする肌の感覚。抱いてるときみたいな、あの感じ。

 最低最悪の光。意味わかんない光。ありえない光。あんまりにも普通すぎるデート。どこに連れて行かれたって、予想外のことはなんにも起きない。


「世界一美しいカフェなんだって、楽しみだなぁ」


 起きないけど。

 光はとっても嬉しそう。


 肩に頬を寄せて、腕に抱きつくようにして歩いた。頭の中が軽くなって、まるで雲の上を散歩しているみたいだった。


 太陽光が路面に反射して、光を煌めかせていた。



 そのカフェのある環水公園で、光は見るもの聞くものすべてに特別な感傷でもあるかのように反応していた。なんでもない運河を見てはしゃいで、散歩中の犬を見て「かわい~」なんて腰砕けになって、深呼吸しては「夏の香りがする」なんて言い出す。


 水門の見えるカフェに着いて入店待ちの列を見ると、率先して整理を担当していた店員に何分待ちか聞きにいく。だいたい三十分待ちくらいだって聞いただけなのに、なぜか和やかな雰囲気でやっぱり光は笑顔だった。


「ありがとうございます!」


 ハツラツとお礼を言いながら、腰を折って深くお辞儀する女子高生なんて、光くらいしか知らない。


 そういうことをするたびに手が離れて、また繋ぎ直す。どれだけ強く握っても、ことあるごとに離れていく。だからテラス席についてからは、椅子をずらして真横に座った。ストローを落としたから、新しいのを貰いにいかずに、光のを使わせてとせがんだ。すぐにきれいに拭き取ったそれを譲ってくれて、自分は新しいものを取りに行ってしまった。手から滑って飲み物をこぼすと、ふきんを貰ってきて、ふくらはぎから足の裏まで拭いてくれた。


「こんなところつまんない」って言うと、嫌な顔ひとつせずに「なら、そろそろ出よっか」って平然と答えてくる。苦しそうだったり、申し訳無さそうだったり、ごめんねとすがってくることも、もうなかった。噛み跡だらけの紙ストローも、くしゃくしゃのプラカップも光がゴミ箱に捨ててくれた。


 腕を組んで、お店を出た。見えるのはつま先や灰色の床ばかり。「美味しかったです」なんて光が誰かに言っているのを聞くと、結んだ唇が膨らんだ。そんな挨拶いらないじゃん。


 早歩きすると「わ、わ」光は前のめりになった。


「い、稜月ちゃん、そう焦らないで」

「普通に歩いてるだけ」

「いて、いてて、引っ張らないでってば~」

「引っ張ってない」


 階段を降りて、水辺のウッドデッキを進んだ。光の腕を引っ張りながら。



 光に懇願されて、木陰にあるベンチに座った。ずっと胸の中はくもり空で、なんか気分がよくない。暑いし、子供の声はうるさいし、目の前を頻繁に人が通り過ぎるし、最悪。


「なんでこんなとこ。せっかく街に来たのに」


 トートバッグを降ろしている光に背中を向けた。ベンチがぽつぽつと並んでて、なんかうざい。年寄りだったりカップルだったり、利用者層が定まってないのもムカつく。全員いなくなればいいのに。


「ごめんねぇ、本当は涼しい場所が良かったんだけど、いいところが思いつかなくて」

「なにそれいいところって、私を楽しませてくれるんじゃなかったの」

「うぅ、えっとね、これは嫌かもしれないって思ったんだけど……お願い、お弁当作ってきたから、食べてほしい。あのときよりは上手にできたと思うから、ね」


 あのとき、お弁当、海でのことか。

 なんともなさそうだったけど、ちゃんと気にしてたんだ。

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