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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
最終章 もう一度、あの顔を見せて

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第46話 駅は死に場所のはずじゃないの?

 寂れた駅のホームは、蝉の声くらいしか聞こえてこない。日陰になっているベンチに、私と光は並んで座った。


 金網の向こうに生えたひまわりを、光はじっと見つめていた。膝の上に手を重ねて、ぷらぷら揺れるだけのそれを、飽きもせず眺めている。血色のいい横顔。どうせ汗で崩れるのに、メイクはばっちり。

 余裕ありげに振る舞って、外面を気にして、そんなのらしくない。光はもっと光じゃないと、光じゃない。


 顔を見てるだけで、頭が締め付けられる。ふと目が合うと、微笑みを向けられる。


「ひまわり、咲いてるね」

「そうだね」

「今日も暑いね。あとどれくらいかなー、あ、電車じゃなくて気動車だって知ってた?」


 そんなことを言って、光は突然笑い出す。


「あはは、知らないわけないか。稜月ちゃんはここで育ったんだもんね」


 私から視線を外した光は、背もたれよりも上にあるボードに頭を付けた。こっちを見ずに、空を見ていた。


「なに、笑ってるの」


 光は目を瞑った。鼻で息を吸って口から出すような、そんな動きをした。


「なんでかな、なんでだろ、そこで暮らしてるから、かな」

「なにそれ、もっとわかりやすく言って」


 五秒も経ってから、光はようやく私を見た。


「稜月ちゃんはずっとここにいたのに、わたしは知らなかったかもしれないんだなって、思って」

「また、変なこと言ってる。知らない方が良かったって? そうだよね、光はこんな村に来たくなかったもんね」


 光のいない方を見た。屋根の切れ目があって、向こう側は日光でギラギラしていた。錆び付いた鉄柱は、赤と白が混じり合っていて小汚い。駅名のプレートは、文字が掠れている。


「うん、本当は来たくなかったよ。けど、今は好き、大好き」


 耳に声が届くと、身体の奥がぶるっと震える。暑さが増す。口がもぞもぞと動く。


 光の顔は見ない。


「なんで」

「えー、あはは、あぁ、こんなことばっかり言ってるな、わたし。そうだなぁ、えへへ」


 一瞬の間があって、耳元で囁かれる。


「稜月ちゃんが生まれた場所だから、かな」


 くすぐったい。背筋が震える。鼻から荒い息が飛び出していく。

 そんなことばっかり、言って。なんで、ちっとも見てくれないくせに、私のことばっかり。


「そう、なんだ。死に場所にならなくて、よかったね」


 首を振る。線路を探す。そう、あのへん。


「あのあたりだっけ、飛び込んだの。この村じゃ自殺なんて聞いたことないし、私がいなかったら今でも噂になってるよ。運が良かったよね、光は」

「うん。神様がきっとわたしを助けてくれた、馬鹿なわたしを、見捨てないでいてくれた」


 きゅうっと頭が熱くなった。振り向いて、光を見た。


「違う、神様なんかじゃない、光を助けたのは私、私なんだよ、もう忘れたの?」


 光はゆらりと首を横に振った。


「忘れないよ、一生忘れない。だから嬉しいの、わたし」


 軽く目を伏せて、光は笑い声を漏らした。口元を片手で覆って「ごめんね」と言いながら。

 胸が深く沈んでいく。全身の筋肉がだらんとして、力が入らない。


 笑い止むまで、脱力しながら光を見つめていた。



 光と並んで座って、電車に揺られた。流れていく景色を、ぼんやり眺める。


 私を見て光は笑ってる。おしゃべり、色々してくれる。あれしたい、これしたい、あそこに行きたい、部活やバイト――私は「そうだね」って返す。一瞬きょとんとした表情を見せてから、アンパンみたいに頬を丸めて光は頷く。

「うん、楽しみだね」って。


 足元が揺れる。頭がふらふらする。がたんがたん、音は繰り返される。

 トンネルに入ると、正面の窓に自分が映った。ちょっと口を開けて、股の間に両手を下ろしている。露出する肩口は、肌色。なめらかなフォルムが、内側に丸まってる。


 私、人間、かわいい服なんて着て、こんなところにいる。鉄の箱で、運ばれてる。どこに行くんだろう。こんなものに乗って、私と、光は。


 光は手元のスマホをいじって、海に行ったときの写真を見せてくる。枠の中、上目遣いでしおらしい光と、笑顔を浮かべた私。水着のふたり。インカメで切り取られた一コマが、残っている。


「もっと盛れたよねー」なんて、光は言ってる。


 光は指先で髪をいじって、トンネルを出る頃に、腕を伸ばしてスマホを構えた。


 カシャッと音がして、また切り取られる。スマイルって言われたのに私の表情は硬くて、嫌味みたいに光はピースしてる。


 画面を見たまま、光は言う。


「静かにしてると、稜月ちゃんってお人形さんみたいだよね」

「馬鹿にしてるの?」

「ううん、かわいいなって。今度、そっち系のお洋服とか着てみない?」

「着ない。なにそっち系って、意味わかんないし」


 光から目を切って、電車のドアを見た。かわいいって、なにそれ、いつも口ばっかり。本当は思ってないくせに、「……もっとマシなこと言ってほしい」

「ふぇ? マシって?」


 とくっと胸が跳ねる。声、出てたんだ。ざわざわ、そわそわ、また敏感になる。じっとしてるのに、してられない。足の指が、丸くなる。

 股を開いて、閉じて、姿勢を変えて、椅子に座り直す。


 光は肩を寄せてきた。二の腕がくっついて、ちょっとへこんでる。半袖の下で、肌が張り付いている。今日の光はちょっと湿っぽい。じとっとして、それでいて冷たい。


「ねえ、やっぱり具合悪い? なにかあった?」

「なんでもない。今日の光、ちょっと暑苦しい」


 一瞬だけ光を見て、すぐにまたドアへと目を戻した。感度の高い胸が、心臓の音を大きくしていた。


 触れ合った左腕が熱すぎて、そればかりが気になった。

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