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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第三章 忘れていたって、覚えていたって【side光】

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第40話 自殺

「そんなことよりね、私、スマホをやっと直したの。光のメアドと電話番号とSNSとラインのアカウントも全部教えて」

「スマ……え、な、なんで、急に」


 稜月ちゃんは遠ざかっていって、手を広げてくるっと一回転した。腰を折って前かがみで、笑顔になった。


「これでお家にいてもおしゃべりできるね。あははっ、嬉しいなあ、もっと早く直せばよかった」

「そ、そうだね、そうだったんだ、へえ、そっかよかった、それよかった」

「だからぁ、早く帰ろう。あっそうだぁ、光のお部屋行ってもいい? 私操作よくわかんなくてぇ、教えてほしいな、いいよね?」

「もちろん全然いいけど……けど……」


 稜月ちゃんはわたしに背を向けて歩き出す。腰の後ろで手を組んで、頭を左右に振って、鼻歌交じりに遠ざかっていく。


 足を止めて、その背中を見つめる。息を吸う、吐き出す、繰り返す。開けっ放しの目が痛くて、乾ききってるのがわかる。脳みそがちっちゃくなって、ぐらぐらに揺さぶられてる。

 下半身は地面に吸い付いたまま、上体が倒れるみたいに突き出していった。


「稜月ちゃん」


 振り向いてくれない。稜月ちゃんは光の線を進んでいく。


「稜月ちゃん! わたし、わたしねっ、今度の入試ちゃんと受けたいって思ってるの、嫌なのはわかるけどね、わかるけど」


 頭が熱い、首が熱い、背中が痛い。ああ、ああ、なんだっけ、なんだ、なに言おうとして、なに、違う、ちが、言わないと、言う、言う、ちゃんと。

 汗塗れの手が握りこぶしになった。


「やっぱり……やっぱり……まだ、なんにも、諦め、たく、な……な……ない、ないの、わたしは。だからね、だから、だからぁ」


 稜月ちゃんが足を止めた。振り向いた。逆光のせいで、顔が暗く見えた。


「悪い子だね、光は。私、ちょっといらついちゃう、そういう言い方されると。なんでいつも私が悪いみたいなの? そういうところ治しなよ、ちょっとひどい」


 前歯の上下ががぶつかって、カタカタと音が鳴った。


「いつ、いつも言ってるけど、そんなつもりわたしない、なくて、怒らせちゃったなら、ごめ、ごめんなさい、でも」

「あのね、私はずっっと光のことだけを思って、光のためだけに言ってるんだよ。そんな状態で無理に学校なんて行こうとしてさ、また悲しいことが起きたら私には耐えられないもん」

「わかってる、わたしが普通じゃないってちゃんとわかってる。でも、でもこのままじゃもっと、もっとわたしは変になっちゃう、おばあちゃんにもみちるちゃんにも、心配かけられない」


 稜月ちゃんはふらりと首を振った。


「私は? 私のことが一番だって言ったよね、なのにどうでもいいんだ。違うとか言わなくていいよ、ちゃんとわかるからさ、光を見てれば」

「入試だけは受けさせて、ほしい、それでダメだったら、わたしにはまだ無理なんだって自分でちゃんと納得するから、おねがい」


 返事はすぐにこなかった。太陽がかすかに沈んで、稜月ちゃんの影が足元にやってくるころに、ようやく声が聞こえてきた。


「ダメだなんて私は言ってないよ。そういうところだよ、治しなよって教えてあげてるの」


 擦れるような足音が響く。


「勝手にしなよ、止めたりなんてしないもん。私の話を聞いてくれないのは、すごくショックだけどね」

「ぁ……それはごめんなさい……反省はする……から……」


 視線が下がって、稜月ちゃんが視界から消えた。むき出しの土に、落ち葉が散乱していた。

 足音が止まった。かたかた音を立てて、葉っぱが飛んでいった。


「反省しなくちゃいけないのは、それだけじゃないよね。ちゃんとしたいって思うなら、順序があるんじゃない?」

「ぇ、じゅん、じょ」


 顔を上げると、稜月ちゃんの肩が目の前にあった。


「あの二人に話しなよ、自分がやろうとしてたこと――死のうとしてたことをさ。嘘つきの光じゃ申し訳ないでしょ、あんなに大事に思ってくれてるんだから」

「それ、は」

「そういうことだと思うなあ、ちゃんとするって」


 稜月ちゃんの頬が、ぐぅっと歪んだ。


「そしたら、気持ちよく試験だって受けられるよね。ね、だからぁ、頑張ってね」


 耳元に唇が近づいてきて、ささやかれる。


「ひ、か、る」


 ふっと息を吹きかけられて、左側に倒れそうになった。

 わたしを見上げる稜月ちゃんは、目を細めて笑っていた。


 どくどくと心臓が音を立てていた。

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