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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第三章 忘れていたって、覚えていたって【side光】

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第30話 わたしの幸せな日々

 夏休みまで、残り一週間。朝は稜月ちゃんを駅まで送っていて、図書館で勉強して、時間になれば迎えに行った。


 でも、このところ、稜月ちゃんの帰りが遅い。早く会いたいのに、先週までと同じ時間には帰ってこなくなった。四時には駅についてるのに、六時半まで待ったこともあった。


 またいじめがひどくなってるのかなって心配して聞いてみたら、稜月ちゃんはただ「学校の事情、光には関係ないから」と言った。どこかやつれていて、話していても上の空な感じだった。


 火曜日も水曜日も木曜日も、長い時間一人で駅にいた。復習しようと思ってノートを開いても、胸が苦しくて一切手につかなかった。


 金曜日、また稜月ちゃんはいつもの時間に帰ってこなかった。空が暗くなって、ホームの電気が付いても、なかなか会えなかった。胸に空いた穴が自分よりもおっきくなって、気づいたら切符を買っていた。

 学校の最寄りまで行ってみよう。もしかしたら苦しくて一人泣いてるのかもしれない。ならわたしが、側にいてあげなきゃ。稜月ちゃんが、そうしてくれたみたいに。


 けど、結局、その切符を使うことはなかった。気動車を待っていたら、下り列車から稜月ちゃんが降りてきたのだ。


「あれ、光、なんで中にいるの」


 制服どこも汚れてない。顔色も今日はそんなに悪くなさそう。手にも足にも傷はないし、顔も平気。ローファーは、大丈夫ちゃんとしてる。リュックも、よかった。


「稜月ちゃん、おかえりっ」


 一メートルの距離を駆け寄ると、稜月ちゃんは首をかしげた。


「ねえ、なん……なんで笑ってるの?」

「えっ」頬を触った「あ、うーんとね、ちょっと寂しかったから」


 そういうことを言うと、余計笑顔が止まらなくなった。くねってると、ショルダーストラップにかかった稜月ちゃんの手が目に入った。


 最近繋いでないなあ。自分から言ってみようかな、でも、まだお付き合いしてるわけじゃないし、こっちからは、悪いかも。でも、でもなあ。


「ふぅん、光も寂しいとかあるんだね。じゃあね」


 稜月ちゃんはぷいっと顔を背けて、改札口へ向かおうとした。


「あ、あ、待ってよ、置いてかないで」

「どこか出かけるんじゃなかったの?」

「行かない、行かない、わたしはどこにも行かないよ」


 稜月ちゃんは上半身を舐め回すようにわたしを見た。くすぐったくて、ちょっとぞくっとした。


「なんかさ、最近の光、ちょっと変だよね。雰囲気変わったっていうか、髪切ったとか?」

「ううん、変わってない、髪は切ってないし、中身だってずっと同じだよ」

「そう。本当に変わってないなら、別にいいんだけど」

「稜月ちゃんこそ、最近あんまり元気ないよね。あ、そうだ、明日お買い物に行かない? 新しいお洋服がほしいんだ、あと、たまには外でご飯とかも、いいかなって」


 稜月ちゃんは顎に指をあてて、天井のプレハブを見た。


「うーん、疲れちゃってるんだよね、私。学校なんかに無理矢理行かされてるせいでさ」

「あ、あ、じゃあ、全然、全然いいの、村で遊ぼう、いつもみたいに」


 稜月ちゃんの顔に、にたぁと笑みが浮かんだ。


「あれぇ、光は私と遊びたいんだ。最初はあんなに嫌がってたのに。別に、家で寝ててもいいんだけど」


 ズキズキと胸の奥が痛む。寝てるなんてもったいない、せっかくのお休みなのに。でも疲れてるのが本当なら休んでもらうのも……あ、そうだ。


「じゃ、じゃあお家に行ってもいい? 寝てる横で勉強してるから」

「……ほんとに変わったね。でもうちはダメ、ほかのとこにしよ」

「う、うん、そうしよ、そうしよ」


 稜月ちゃんはまた改札口に身体を向けた。

 後頭部を見つめながら後ろを歩いていると、改札を越えたところで背中側に手が伸びてきた。


「ん」


 一瞬なんのことかと悩んで、すぐにピコンと電球が光った。まるで子供に伸ばすみたいなそれ。でもいい、手、繋げる。


 ぎゅっとした。


 稜月ちゃんは早歩きで自転車が置いてある草むらを目指していた。横に立つんじゃなくて、犬みたいに引っ張られる。ねえ、今日は歩いて帰らない? 自転車は明日回収しようよ。


 そんな提案をしようとして、迷って、なんとか胸のうちに押し留めた。



 八月二十日、お盆明けのその日が、転入試験の日取りに決まった。わたしの境遇を先方に伝えると、学校側も快く受け入れてくれた。もちろん点数は必要だけど、ちゃんと勉強しているから、きっと大丈夫。試験とは別の日に面接もあるけど、本命は筆記の方。


「おばあちゃん、カレンダーに丸つけてもいい?」

「えぇ、ふふなんだいこの子は、別に構わないけどね」

「ありがとう、おばあちゃん」


 赤ペンの蓋を取ると、きゅぽっとかわいい音がした。

 カレンダーに赤丸をひとつ。頑張るぞ、と書き添えて。


 寝転がって雑誌を読んでいたみちるちゃんが、顔を上げた。


「あれ光、学校決めたのか。なーんて、聞かなくてもわかってるけどな」


 にへへと意地悪くみちるちゃんは笑った。


「うん、稜月ちゃんと一緒。距離も近いし、このあたりだと無難かなって」


 想像する。稜月ちゃんと並んで歩くわたし。同じセーラー服を着て、手を繋いで歩く。もう駅で、後でねなんて言わない、帰りが遅くて苦しくなることもない。おんなじ、一緒。


「おーいそこで浸ってる乙女。お前今、それっぽい理由付け足したろ、白状しろ~」

「してないよっ、ああ、みちるちゃん、もう」


 立ち上がったみちるちゃんが、絡みついて、脇の下をこちょこちょしてくる。おじさんみたいに、グヘヘ、なんて言いながら。


「こいつぅ、お姉さんに隠し事は禁止だぞ、言え、言ってしまええ」

「ちが……もう、やめてよぉ、くすぐったいからぁ」


 なんかもうほとんど抱きついてるみたいだった。賑やかで、楽しくって、笑顔は隠せなかった。


 まん丸のお月さまが覗く部屋に、笑い声だけが響いていた。

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