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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第三章 忘れていたって、覚えていたって【side光】

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第27話 愛情をたっぷり込めたお弁当

 奥ゆかしいのかと想像していたら、露出の多い大胆な感じだった。セパレートタイプで、布面積なんて下着くらいしかない。お腹丸出し、太もも丸見え、胸の谷間はセクシーに過ぎる。これなんだ。稜月ちゃんの水着姿だ。ほんのり赤面しながら「どうかな」と聞かれても、わたしは「カワイイと思う」くらいしか言えないのだった。


 茶色の砂浜、緑色の海、日本海の荒波。ビーチというよりも入江で、幅は五十メートルもないんじゃないかと思う。足跡は二人分しかなく、海の家なんてあるわけもない。


「どこでこんな場所見つけてくるんだろ」


 みちるちゃんから貰った花柄のワンピース水着を着て、押し寄せる波を眺めた。映画のオープニングロゴみたいに、岩にあたって飛沫が弾け飛んでいた。


 稜月ちゃんは海に入る前に「待って、これがないと死んじゃう」と言ってベッド型の浮き輪を膨らませ始めた。半分ほど空気を入れたところで、顔を真っ赤にしてギブアップ宣言されたので、後を引き継いで完成させた。


 稜月ちゃんは、海に入るとベッドの上にぺたんと座ってるだけだった。


「水は私の天敵だって、要チェックだぞ」


 そんなことを言って、稜月ちゃんは人差し指を立てた。


「なのに海に行きたがるなんて、超チャレンジャー」


 顎を半分浸して、わたしはぷっかりぷっかりと浮いていた。


「んー、人が少ないところから始めよっかなって、光もそっちのほうがよかったでしょ?」

「あ……ん……ぷはっ」


 鼻まで沈んでしまい、慌てて顔を上げた。犬みたいにぶるぶる顔を振って、塩っ辛い水滴を吹き飛ばした。


「ゔぇ……からい」

「あはは、なに赤くなってるの? かわいー」


 海水のせいで、鼻の中がひりひりした。



「お待ちかねの、お弁当タイーム!」


 しばらく遊んで海から出ると、稜月ちゃんはくるくる回って両手を上げた。


「はは……元気そうでなにより」


 軽く身体を拭いて、カーディガンを羽織って、レジャーシートに座った。保冷バッグから、アルミのお弁当箱を手に取った。半分ほど出したところで、勝手に手が止まった。

 なんだか今朝より重たい。本当においしくなったかな、傷んでないかな、口に合うかな、愛情不足だって怒られないかな。


「ハァリー、ハァリー、光の手作りランチボックス、カモンカモン」

「なんで急に英語?」

「興奮!」

「……あんまり期待しすぎないでね」


 お弁当箱を取り出して、ブルーシートの上に広げた。おにぎりも、ひとつひとつラップを剥がした。最後にお箸を取り出して準備完了、しちゃった。


 稜月ちゃんはしいたけみたいな目になって、鼻息を荒くしていた。前のめりになっていて、今にもお弁当に涎が垂れてきそうだった。


「お口に合うかわからないけど、精一杯がんばったつもり……め、めしあがれ」

「いただきまーす、はむ、ん」


 目にもとまらぬ速さでだし巻きを口に含んだ稜月ちゃんは、箸を咥えたまま固まった。風船がしぼむみたいに笑顔が消えて、真顔で咀嚼していた。


 ざぶん、ざぶんと波の音だけが聞こえていた。


 箸を持つ右手が太ももに落ちて、稜月ちゃんは貧乏ゆすりのように先っぽを振った。


「んー、これ光が作ったの?」


 薄っすら笑みを浮かべて、稜月ちゃんは首を傾げた。


 口を開けてもすぐには声が出なくて、塩味の空気が流れ込んできた。


「ぁ……えと、一応、そう、焼いただけなんだけど、わたしがちゃんと作ったよ」

「ふうん……そっかぁ」


 稜月ちゃんの視線が、弁当箱に向けられた。薄く目を閉じていて、口元に笑顔はない。それをただの物として見ている、そんな目。


「あの、あんまりだった……かな?」


 胸が、つねられたような痛みを訴えていた。


「頑張ってくれたのはわかるけど――あ、飲みもの貰っていい?」


 稜月ちゃんはわたしが返事をするよりも早く手を伸ばして、コップに水筒の麦茶を注いだ。


 頭が重くて、お茶を注ぐ手元しか視界に入らない。目が熱くて、青いチェックのレジャーシートが滲んで見えた。


「どしたの? 光も食べなよ、お腹減ったでしょ」


 稜月ちゃんの投げ出した箸が、シートに転がった。先端と先端が重なって、段になっていた。

 震えそうな声を、抑える。息を吸って、また吸って、吸って。下を向きながら、吐いて。


「わたしね、四時に起きてお弁当作ったの、稜月ちゃんのために」

「そうなんだ、うれしー。その気持ちだけでお腹いっぱいだよ」

「でも、美味しく、なかったんだよね、わかるよ、わかる、へたっぴだもん、だから、だからね」


 短い呼吸。どくどく身体を血液が巡る。動悸、めまい――強く目を閉じて、全部飲み込んだ。歯をかっちり合わせて、砕けるほどに噛み締めた。


「だから――」


 目を開ける。顔を上げる。稜月ちゃんを見る。


「次はもっと頑張るね」


 微笑んで、みる。


 両手を後ろにおいて身体を支えていた稜月ちゃんは、目をパチパチさせていた。気が抜けたような顔で、わたしを見つめていた。


「こっちはわたしが貰うから、おにぎりだけでも食べてほしいな。味は前と変わってないと思うから、ね?」

「あ、うん、もらっちゃおっかな」


 身体を起こして、稜月ちゃんはおにぎりに手を伸ばした。


 それをかじりながらも、稜月ちゃんはずっとこっちを見ていた。あまり、楽しくなさそうに。

 ひときわ大きな波が岩にぶつかって、わたしはウインナーをかじった。

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