第27話 愛情をたっぷり込めたお弁当
奥ゆかしいのかと想像していたら、露出の多い大胆な感じだった。セパレートタイプで、布面積なんて下着くらいしかない。お腹丸出し、太もも丸見え、胸の谷間はセクシーに過ぎる。これなんだ。稜月ちゃんの水着姿だ。ほんのり赤面しながら「どうかな」と聞かれても、わたしは「カワイイと思う」くらいしか言えないのだった。
茶色の砂浜、緑色の海、日本海の荒波。ビーチというよりも入江で、幅は五十メートルもないんじゃないかと思う。足跡は二人分しかなく、海の家なんてあるわけもない。
「どこでこんな場所見つけてくるんだろ」
みちるちゃんから貰った花柄のワンピース水着を着て、押し寄せる波を眺めた。映画のオープニングロゴみたいに、岩にあたって飛沫が弾け飛んでいた。
稜月ちゃんは海に入る前に「待って、これがないと死んじゃう」と言ってベッド型の浮き輪を膨らませ始めた。半分ほど空気を入れたところで、顔を真っ赤にしてギブアップ宣言されたので、後を引き継いで完成させた。
稜月ちゃんは、海に入るとベッドの上にぺたんと座ってるだけだった。
「水は私の天敵だって、要チェックだぞ」
そんなことを言って、稜月ちゃんは人差し指を立てた。
「なのに海に行きたがるなんて、超チャレンジャー」
顎を半分浸して、わたしはぷっかりぷっかりと浮いていた。
「んー、人が少ないところから始めよっかなって、光もそっちのほうがよかったでしょ?」
「あ……ん……ぷはっ」
鼻まで沈んでしまい、慌てて顔を上げた。犬みたいにぶるぶる顔を振って、塩っ辛い水滴を吹き飛ばした。
「ゔぇ……からい」
「あはは、なに赤くなってるの? かわいー」
海水のせいで、鼻の中がひりひりした。
「お待ちかねの、お弁当タイーム!」
しばらく遊んで海から出ると、稜月ちゃんはくるくる回って両手を上げた。
「はは……元気そうでなにより」
軽く身体を拭いて、カーディガンを羽織って、レジャーシートに座った。保冷バッグから、アルミのお弁当箱を手に取った。半分ほど出したところで、勝手に手が止まった。
なんだか今朝より重たい。本当においしくなったかな、傷んでないかな、口に合うかな、愛情不足だって怒られないかな。
「ハァリー、ハァリー、光の手作りランチボックス、カモンカモン」
「なんで急に英語?」
「興奮!」
「……あんまり期待しすぎないでね」
お弁当箱を取り出して、ブルーシートの上に広げた。おにぎりも、ひとつひとつラップを剥がした。最後にお箸を取り出して準備完了、しちゃった。
稜月ちゃんはしいたけみたいな目になって、鼻息を荒くしていた。前のめりになっていて、今にもお弁当に涎が垂れてきそうだった。
「お口に合うかわからないけど、精一杯がんばったつもり……め、めしあがれ」
「いただきまーす、はむ、ん」
目にもとまらぬ速さでだし巻きを口に含んだ稜月ちゃんは、箸を咥えたまま固まった。風船がしぼむみたいに笑顔が消えて、真顔で咀嚼していた。
ざぶん、ざぶんと波の音だけが聞こえていた。
箸を持つ右手が太ももに落ちて、稜月ちゃんは貧乏ゆすりのように先っぽを振った。
「んー、これ光が作ったの?」
薄っすら笑みを浮かべて、稜月ちゃんは首を傾げた。
口を開けてもすぐには声が出なくて、塩味の空気が流れ込んできた。
「ぁ……えと、一応、そう、焼いただけなんだけど、わたしがちゃんと作ったよ」
「ふうん……そっかぁ」
稜月ちゃんの視線が、弁当箱に向けられた。薄く目を閉じていて、口元に笑顔はない。それをただの物として見ている、そんな目。
「あの、あんまりだった……かな?」
胸が、つねられたような痛みを訴えていた。
「頑張ってくれたのはわかるけど――あ、飲みもの貰っていい?」
稜月ちゃんはわたしが返事をするよりも早く手を伸ばして、コップに水筒の麦茶を注いだ。
頭が重くて、お茶を注ぐ手元しか視界に入らない。目が熱くて、青いチェックのレジャーシートが滲んで見えた。
「どしたの? 光も食べなよ、お腹減ったでしょ」
稜月ちゃんの投げ出した箸が、シートに転がった。先端と先端が重なって、段になっていた。
震えそうな声を、抑える。息を吸って、また吸って、吸って。下を向きながら、吐いて。
「わたしね、四時に起きてお弁当作ったの、稜月ちゃんのために」
「そうなんだ、うれしー。その気持ちだけでお腹いっぱいだよ」
「でも、美味しく、なかったんだよね、わかるよ、わかる、へたっぴだもん、だから、だからね」
短い呼吸。どくどく身体を血液が巡る。動悸、めまい――強く目を閉じて、全部飲み込んだ。歯をかっちり合わせて、砕けるほどに噛み締めた。
「だから――」
目を開ける。顔を上げる。稜月ちゃんを見る。
「次はもっと頑張るね」
微笑んで、みる。
両手を後ろにおいて身体を支えていた稜月ちゃんは、目をパチパチさせていた。気が抜けたような顔で、わたしを見つめていた。
「こっちはわたしが貰うから、おにぎりだけでも食べてほしいな。味は前と変わってないと思うから、ね?」
「あ、うん、もらっちゃおっかな」
身体を起こして、稜月ちゃんはおにぎりに手を伸ばした。
それをかじりながらも、稜月ちゃんはずっとこっちを見ていた。あまり、楽しくなさそうに。
ひときわ大きな波が岩にぶつかって、わたしはウインナーをかじった。




