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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第三章 忘れていたって、覚えていたって【side光】

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第25話 やめない、絶対に

「え、えとお、や、なんて、り、理由は、はな……話したと、思って」


 冷や汗で、身体が冷たい。親、家族、妹、そうか稜月ちゃんにはちゃんとまだ、嘘ついてた。言わないと、でないと、わたし、わたしは。


「んー、もちろん覚えてるけど、まだ詳しいことは……あれ、どうしたの? 具合でも悪い?」

「う、ううん、うん、なんでも、なんでもないよ、一人だったのも同じ、なんでもなくて、なくて、ただ事情が都合が」

「顔青いよ、唇白いよ? 本当に平気? お出かけやめる?」


 列車が到着します、というアナウンスが聞こえた。目を細める稜月ちゃんの肩を、掴んだ。


「やめない、絶対にやめない。今日は、ちゃんとやるから、心配しないで」

「そう……ならいいんだけど」


 稜月ちゃんは目を伏せた。

 気動車が滑り込んでくるのと同時に、その顔が上がった。


「絶対に無理はしないでね、お出かけ楽しくないのは嫌だからね」


 喉に突き刺さった針ごと、つばを飲み込んだ。


「もちろん、大丈夫、わたしは普通だよ」

「そっか」


 稜月ちゃんは頬が一センチだけ上がるくらいの笑顔を浮かべて、わたしの右手を掴んだ。

 列車のドアが開いて、わたしは、震える右足を踏み出した。



 長椅子の端っこに、稜月ちゃんと並んで座った。ビーチバッグを抱きしめて、浅い呼吸を繰り返した。軽い貧血のような状態、だけど、なんとか、まだ、耐えられた。

 車内は空いていて、正面の座席もからっぽだった。そのことを話すと「おっきな駅で乗り換えるから、着くまでにちょっとずつお客さんは増えてくると思うよ」と稜月ちゃんは言った。


 その言葉通りに、次の駅で五人、そのまた次の駅で十人と、徐々に車内の密度は上がっていった。数に比例するように心臓の音が大きくなった。


「夏休みになったら、花火大会には絶対行こうね、もちろん夏祭りも、あんな村でも意外と人が――また顔色悪いよ? 電車苦手だっけ?」


 否定しようとして、やっぱり、頷いた。隠し事ばかりじゃ、よくないから。


「う、うん、ちょっとだけ、人が多いと特に……」

「でも、光は遠くから一人で来たんだよね、あのときは平気だったんだ」

「あのとき……わたしは……」


 稜月ちゃんと出会った日。長い時間をかけて、わたしはこっちにやってきた、はず。なのに、あれ、おかしいな、どうやって来たんだっけ、なんにも思い出せない。

 ずっとわたしの身体は変なのに、なんであのときだけ、なんで。


「なに悩んでるの? まさか忘れちゃったとか言わないよね」

「あ、あはは……それ、そのとおり、ずっと寝てたのかな、なんかよく思い出せないや」


 下を向くと、髪の毛が垂れ下がった。笑顔を浮かべているつもりなのに、胸の中はセメントで固められている。あの日、危なかった稜月ちゃんをわたしが助けた、そこからのことだけがはっきりと思い出せる。まるで、あの瞬間に生まれたみたいに。


 がたん、がたんと線路を踏む音が響いていた。楽しそうな家族連れの声と、混ざり合いながら。



 三番線、ドアが閉まりますと聞こえて、軽快なメロディが流れた。


 稜月ちゃんの手を握りしめたわたしは、線路がいくつもある駅のホームに立っていた。スーツを着た大人、部活道具を背負ったジャージ姿の中高生、おしゃべりする女の子、スマホを見つめる若い男性。この場所に溢れた人が、気流のようにうねっていた。


 乗り物酔いみたいに、目の奥がツンと痛む。足元が常に揺れていて、それがきもちわるい。身体の感覚が遠くて、稜月ちゃんと繋いだ汗ばむ右手しかわたしはいなかった。


「えーと、あ、あっち」

「あ、あ」


 稜月ちゃんに手を引かれて、階段を上った。五十段もないのに、頂上につく頃には息は上がりきっていた。前に進んでいるのか、後ろに落ちているのか、わからない。目の前で動く繋ぎ目を、ただ追いかけた。


「んー、十分くらい待つみたい」


 ふいに稜月ちゃんの声が頭に侵入してきて、わたしは別のホームにいることに気づいた。さっきと同じくらい人がいて、列車を待つ人で列ができていた。


「ね、光、光ってば」

「え、あ、え?」

「栄養失調みたいな顔してる。ほら、あそこベンチが空いてるから、ちょっと休もう」


 手を引っ張られて、誘導されるままにベンチに座った。空いていた席はひとつだけで、左右に知らない人間が座っていた。

 視界が狭くて、稜月ちゃんしか、ちゃんと見えなかった。眉を寄せて、わたしを見つめていた。


「い、稜月ちゃん、わたし座ってるより、立ってたほうがいいかも」

「ダメ、そんな具合悪そうにしてるんだから。そうだ、冷たい飲み物買ってくるね、ちょっと待ってて、絶対に動いちゃダメだよ」

「え、だ、だいじょぶ、水筒が――」

「絶対だよ!」


 繋ぎっぱなしだった手が、離れた。

 稜月ちゃんの背中は雑踏の中に消えていき、わたしだけが残された。


 なんで行っちゃうの、行かないで、隣にいて、飲み物なんていらない。

「うっ……うぅ……」

 目に涙が滲んでるのがわかった、それだけはわかった。

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