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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第三章 忘れていたって、覚えていたって【side光】

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第24話 愛情をたっぷり込めました

 お出かけ当日。水着はみちるちゃんに用意してもらって、あとは約束を果たすだけだった。


「だし大さじ四杯……レシピだとこれでいいはず、だよね?」


 四時に起きて、夜のうちに献立を考えておいたお弁当作りに取り組んだ。稜月ちゃんが喜んでくれる塩おむすび二つに、卵ふりかけのおむすびも二つ。切り込みを入れたウインナーをぱぱっと焼いて、ほうれん草のおひたしも作った。おばあちゃんが育てたミニトマトも添えて、最後にだし巻き卵に挑戦。あっちが超甘口だから、上品な風味を目指すことにした。


 四角いフライパンに卵液をちょっと垂らして、焼けたら菜箸ですくい取る。フーフー冷ましてから、手のひらに乗せた。


「卵の薄皮、味見は……自分でするしかないよね」


 はむ、と口に放り込んだけれど、舌が分厚くなってる感じがして、いまいち味がよくわからない。濃すぎるってことはないと思うし……お料理サイトが間違ってなければ、きっと平気。


「平気だよね? って、そっか稜月ちゃんならなんでも……甘えてないって、本当だよ?」


 自分の乾いた笑い声が、台所に響いた。


 気を取り直して、フライパンに卵液を注いだ。ジュージューいってるのを、巻いて、継ぎ足して、また巻いて、ちょっと失敗して、液がなくなるまで繰り返した。


「卵焼きっていうより羽根つき餃子みたい、お料理が久しぶりすぎた、稜月ちゃん許して」


 だし巻き卵をお弁当箱に詰めて、余った分はお皿に移して、完成。彩りもバランスも悪くない、我ながら及第点くらいの出来はある。シェフになったつもりで、腕を組んだ。

 ミニトマトに付着した水滴が、朝日を受けてキラッと輝いた。ちゃんと作れた、稜月ちゃん喜んでくれるかな、くれるよね、絶対。早起きして良かったなあ。


「おっとっと、いつまでも感激してる場合じゃない、他の準備もしないと。ええと、お弁当の方はこれでぜん……ぶ、じゃないよねえ、わかってる、ちゃんと覚えてるから」


 ――愛情たっぷり込めた、という稜月ちゃんの声が聞こえた。まだ、込めたつもりはない。具体的になにをするかよくわからないけど、一番楽しみにしてるんだろうなって気がする。


 おろそかには出来ないぞ、わたし。稜月ちゃんは一週間頑張ったんだから、こっちも頑張らないと。とは言っても、どうしたものか。付箋でメッセージでも貼っておく? でも一緒に食べるしな。お弁当箱を抱きしめる……蓋にキスする……そういえば花に声を掛けるとよく育つって聞いたことあるな。


 ……よし。


 手品師みたいに両手を広げて、ニコニコっと笑った。


「わたしのお弁当、お、おいしくなーれ」


 そのとき、背後に人の気配を感じた。


「光、もう出るのかい?」


 おばあちゃんの声だった。


 二の腕がピクピクする。十本の指がかくついている。笑顔が張り付いたまま振り向こうとして――無理。


「そ、そう、他の準備あるから!」


 エプロンも外さずに、わたしは台所から飛び出した。


「このだし巻き、薄口だね」


 ずっこけそうになってると、後ろから明るい声が聞こえてきた。



 約束の七時ピッタリに扉がノックされた。


「よし……よし……今日は恥ずかしいところは見せないぞ、頑張るぞ、頑張るぞ」


 玄関で待っていたわたしは、跳ねるように立ち上がった。


 外に出ると、レースのワンピースを着た稜月ちゃんがいた。砂浜のように真っ白で、笑顔がいつもよりもちょっぴり眩しかった。


「あ、かわいい……お洋服」

「光も、ね」


 顔が熱くなって、目を逸らした。いつも着てるようなキュロットスカートと無地のシャツ。中学生みたいな格好で、あんまりかわいくない。今度お洋服も買いに行けたらいいな、稜月ちゃんと。


「早くっ、遊ぶ時間がなくなっちゃうよ」

「ちょ、稜月ちゃ、もー」


 手を取られ、前のめりに外に出る。「いってきまーす」振り返って声を張り上げると、ふたつ返事があった。

 左手にビーチバッグを、右手にやわらかな手をそれぞれ握りしめて、ふたり並んで狭い庭を飛び出した。


 山のように入道雲そびえる夏空が、わたしたちの村に広がっていた。



 おしゃべりしながら歩いて、たっぷり時間をかけて駅に来た。切符を買って、改札で駅長さんにスタンプを押してもらった。


「おや、今日はお出かけかい? 楽しんで」


 手を振ってくれたので、頭を下げた。そうしていると稜月ちゃんが先に行ってしまったので、小走りで追いかけた。


「次は、三分後だね。よかった、タイミング悪いと四十分は平気で待たされるもん、ド田舎って酷くない?」

「はは、一分の遅刻が死活問題だね」


 額に浮いた汗を拭った。こっそり自分の胸に手を置いた。


 意外と落ち着いてる。ちょっと息切れが早い気がするけど、大丈夫。この調子だったら、たぶん行ける。この間は過剰に反応しすぎた、いざ来てしまえば、なんとかなるんだ。これなら、学校だって――


「あ、そうそう、ずっと光に聞きたいことがあったんだよね」


 稜月ちゃんはわたしではなく、線路を見ていた。


「ふたりでここに来れてね、思い出したんだけど」


 鼓動が早くなった。思い出すって、なにを。


「どうしてあのとき、初めて会った日、光は一人だったの?」

「え、きゅ、急になんの……話?」

「親御さんとか、付き添ってくれる人はいなかったの?」


 耳の奥が、キリキリと痛みだした。

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