第18話 いつも一緒
お昼になればお弁当を食べて、閉館三十分前に建物を出た。それからわたしの家まで一緒に歩いて、別れた。土日は、そんな二日間だった。
月曜日は休館日なので、家で勉強をすることにした。朝になっても、昼になっても稜月ちゃんは来なくて、逆に変な気分だった。ずっと一緒にいたから、落ち着かないようなところもあった。
家では教材がなくて、勉強は捗らなかった。ずっと身体がそわそわしていて、どんな文字を見ても、ノートを読んでも頭に入ってこなかった。指の爪を噛んでいることに気づいて、気晴らしに外に出た。夏の午後はしんとしていて、わたし以外に動くものはなかった。庭を出て立ち尽くしていると、湯気のような熱気がスカートの中を上ってきた。
家の外にも、稜月ちゃんはいなかった。一瞬、あの子の家の方に行ってみようかなんて考えて、振り払った。今日は休館日だって知ってたから、学校に行ったんだろう。明日になれば、また顔を見せるはず。困ったことに、ほんと、困った。
行く当てもなく、気づけばあの廃寺にやってきていた。ここは静かで、人もこない。真夏なのにひんやりしてるから、時間を潰すのにちょうどいい。どうせなにもやることは、ないけど。
中に入ると、稜月ちゃんがいた。壁を背もたれにして、座っていた。
「あはっ、光来た~。本当に会えるなんて、やっぱり赤い糸で繋がってるのかな?」
五度目ともなると、あまり驚きもなかった。なんなら、もしかしたらいるかもくらいに思っていた。そしたら本当にいた、それだけだった。
「学校はどうしたの? 今日は早かった?」
「んー、いいよ、そういうのは。光のほうがずっと大事だからね」
「大事なわけないでしょ。いつから休んでるの? 家の人は?」
「もちろん、あの日からだよ。あーあ、光のせいで私悪い子になっちゃったぁ」
稜月ちゃんは、くだけた調子で笑った。全然真剣味がない。わたしのせいだなんて、こっちは全然笑えないのに。
よくない気分のまま、稜月ちゃんの隣に腰を下ろした。
すると稜月ちゃんはわたしの腰と、顔を交互に見比べて、こんなことを言ってきた。
「隙間に、手置くのやめたんだね」
手は膝の上にあった。隙間ってなんのことだろう。稜月ちゃんの言ってることは、よくわからなかった。
「ねえ、手触っていい? もう、びっくりしないよね」
「ん、うん、優しくなら……」
重ね合った手を、二人の間においた。
あんまり会話もなく、午後の時間は流れていった。
その翌日からまた勉強の日々は始まった。もちろん稜月ちゃんはいた。親がいるとキッチンが使えないとかで、その日はお弁当抜きだった。残念、じゃなくて、稜月ちゃんは学校に行くべきで……でも、せっかく来てくれるなら、お昼はあった方がいいのかも。なら、たまには、わたしも作ってみようかな。ちょっとくらい失敗しても、美味しいって言ってくれそうだ。
次の日、自分の分と一応、稜月ちゃんの分もおにぎりを握っていった。お昼時、稜月ちゃんは目を輝かせて、それを頬張っていた。塩だけの味付けなのに、おいしい、世界で一番美味しいって、何度も言ってくれた。その日は、一段と暑さが厳しかった。
「はぁぁ、幸せ。毎日ごはん作ってくれるなら、一生学校なんて行きたくない」
「だからそれは絶対だめだって。わたしのせいで留年なんてしたら馬鹿みたいだよ」
「みたいじゃなくて、お馬鹿だもん」
稜月ちゃんは茶目っ気たっぷりに笑った。
次の日は稜月ちゃんが、その次の日はわたしが、そうやって交互にお弁当を持参した。もう少し手の込んだものを作ろうかなと思ったけど、やめておいた。本当に離れられなくなってしまいそうだ、稜月ちゃんが。
稜月ちゃんは、わたしに付き合ってずっと退屈な時間を過ごしていた。本人はそれを
充実していると言うけれど、そうは思えなかった。
稜月ちゃんが休み続けて、もう二週間になる。学校や家庭の事情は知らないけど、平気だとは思えない。ちゃんと言おう、やんわりとじゃなくて、ハッキリと。よし言おう、昼時に言おう、やっぱり帰りに言おう、いや、今日は日が悪いから、明日にしよう。そうしよう。
そして、その明日、金曜日になった。いつも通り、開館時間にわたしは図書館へとやってきた。
いつもと空気が違った。外にいた職員のおばさんが挨拶をしてくれて、それだけだった。
「あれ」
稜月ちゃんが、いない。
日差しの照りつける駐車場にも、日陰になってる入口にも。
見回してみても、やっぱりその姿はどこにもなかった。




