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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第二章 三奈木光と呼ばれたりしていて【side光】

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第17話 食べ物の味なんて

 外のベンチに座って、お弁当を突っつくことになった。


「勉強とは……」

「光?」


 ぼーっとして、腰がずり落ちていく。樹冠の隙間から漏れる光が、眩しかった。


「学校行くのめんどくさいなーって思ったから、電車には乗らなかったの。それでね、たまたま今日は親が家にいないから、おべんと作ってきちゃった、食べてほしいな」


 お尻に力を入れて、座り直した。だめだ光、流されるな、これじゃ本当にカップルみたいだ。断ったはずなのに。


「じゃなくて。わたし、勉強しに来たんだけど」

「知ってるよ。でも、食べてからでもいいでしょ。あ、お昼とってきちゃった? でもいいよね、頑張って作ったんだし、食べられるでしょ」


 稜月ちゃんは保冷バッグから弁当箱を取り出して、テキパキと包みを剥がしていく。


「まあちょっとくらいなら……ちがくてね、勉強、勉強するのわたし、わかるでしょ?」

「うん、だから一緒にしようかなって。毎日来るんでしょ? やっと明日土曜日だから、またお弁当作ってくるね」

「今週ずっと休んでた気がするんだけど……」


 そんな質問を無視して、稜月ちゃん鼻歌交じりにお弁当を広げた。弁当箱は、かわいらしいピンク色で、なかなかの大きさだった。


「お弁当なんて普段は作らないんだよ。光のためにすっごく頑張ったから、ちょっとくらいは手つけてほしいな。お話はあとで聞くから」


「ね?」と上目遣いで圧をかけてくる。いじらしい瞳には、不安と期待が同居しているように見える。断ったら、また泣き出しそう。


 のけぞりながらも、頷いていた。


「わ、わかったよ、あんまり感想は期待しないでね、苦手だから」

「うん!」


 稜月ちゃんは、わたしの三倍くらい大きく頷いた。


「へたっぴで、恥ずかしいんだけど」


 口ごもりながら、稜月ちゃんは蓋を開けた。中は二段重ねになっていて、上段には卵焼きと、タコさんウインナーが並べられていた。下段にはぎっしり詰め込まれた白米と梅干し。


「あれ、意外と普通」言って「あ」っと口を押さえる。

「こういうの……嫌だった? 逆にかわいいかなって思ったんだけど」

「違う、違う違う、ちょっと想像と、違っただけ、いい意味で」


 もっとカラフルな世界が広がっているものと思っていた。逆にというのはよくわからないけど。

 あんまり慣れてなさそうだ。卵焼きは焦げていて、ウインナーは足が十六本もある。ご飯は圧着されすぎているし、もう少し彩りがあったほうがいいのかな、とも思う。


 けど、その不格好がむしろ一生懸命。そんな、稜月ちゃんのお弁当。


「見た目は悪いけど……愛情だけは誰にも負けないから、食べてほしいな」

「う、うん、じゃあ、貰うね。えっと、お箸は――」

「ここ」


 いつの間にか稜月ちゃんは箸を手にしていて、卵焼きをつまんでいた。


「はい、あーん」


 手を添えて、わたしの口へと運んでくる。なんのつもり、って、わかるけど、恥ずかしい。

 ぷるぷるする卵焼き、見つめてくる稜月ちゃん、口を開けているわたし。

 わたし? そこは嫌だって言うところじゃないの? ちょっと、あ、あ。


「あ、あーん? はむっ、む」


 さきっちょを咥えて、そのまま口内へと招き入れる。もぐっと一噛みすると、砂糖の甘さが広がった。卵のふわふわと、歯を溶かすような風味が溶け合って調和している。

 甘すぎるくらいに甘い卵焼き。砂糖の量を間違えている。見た目と違って、中身は想像通り。


 なのに、それは。


「お……おい……しい……?」


 そうこぼすと、稜月ちゃんは頬をほころばせた。


 どんどん箸がやってきて、餌を与えられる雀みたいに、わたしはパクパクし続けた。

 あんまりにも濃い味付け、不慣れってレベルじゃない、普通なら胸焼けして喉がカラカラになる。カラメルのような卵焼き、希釈し忘れためんつゆみたいに濃いウインナー、潰れたお米。稜月ちゃんの味は、なぜかちょうどいい。


 舌を破壊される美味しさに、ちょっぴり涙が滲んできた。



 次の日も、その次の日も稜月ちゃんは図書館に来た。というか、いた。開館時間に合わせても、少し遅らせて行っても、必ず先に着いていた。

 稜月ちゃんは視聴覚コーナーで映画を見ていたり、わたしの隣で本を読んでいたりした。たまにあくびをしていて、あまり楽しそうには見えなかった。勉強はというと、一秒たりともしているところを見なかった。


 不思議なことにスマホを使っているところを見ない。まさか、今どきの女子高生が持っていないなんてことはないだろう、と思って聞いてみた。


「うん、持ってたんだけど画面が割れちゃって、それから買い替えてないんだよね。どうせ使わないし、いいんだけど」

「え、友達とか家族とか、平気なの?」

「友達なんてひとりもいないからね、親もどうでもいいし。って、前に言わなかったっけ?」


 稜月ちゃんは、首をかしげた。そういえば、そんなこと言ってた気がする。


「光がいれば、なんでもいいよね」


 そう言って、稜月ちゃんは腕に絡みついてきた。わたしは身体の反応をこらえて、そっと稜月ちゃんを遠ざける。そしてまた机に向かった。

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