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死にたがりのあなたがいちばんすき〜自殺を止めてあげたのに、あの女の子は知らんぷり。もういいって背を向けたら、「いかないで」と泣きついてきた〜  作者: 光
第二章 三奈木光と呼ばれたりしていて【side光】

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第16話 だから、なんでぇ

 稜月ちゃんは、声を殺して唇を噛んでいる。腫れ上がった目元から、とめどなく涙が流れ続けていた。「光……光……」とわたしの名前を呼びながら。


 足の裏をすべらせて、ほんの十センチだけ前に出た。


「稜月ちゃん、聞いて。ごめん、さっきのは嘘っていうか、当たり障りのない言葉で、断ろうって思っただけなの。だからね、絶対に無理だとか、そういうのは違うんだ」

「……光?」


 稜月ちゃんは、伏せていた顔を上げた。


「実は、お付き合いできない理由があるんだ。女の子だからとか……それもないわけじゃないけど、本当はもっと別の、こっちが本命なんだけど、ほら、わたしって今こんな感じじゃない?」


 鳥のように両腕を広げた。平日の昼間だっていうのに私服着て歩いてる。稜月ちゃんとは違う。


「秋から復学しなくちゃいけないんだけど、事情があってしばらく勉強をしてなかった、から」


 動悸がする、視界が回る、喉が渇く、頭から血液が失われていく。目を閉じて、深く息を吸った。胸に手を当てて、呼吸を整えた。

 よし、よし、よし。


「そ、そう、転入試験に向けて、勉強を頑張らなきゃいけないから……それ以外のことは、しばらく忘れたいん、だ」


 笑顔を作った。息が荒くなってて、笑えてる自信はない。


「村に図書館があるでしょ、通って、集中的に勉強したいな、って」


 まばたきする稜月ちゃんの目が、もう乾いていた。赤く染まったままでも、すっかり落ち着いたように見える。その視線が下を向いた。きょろ、きょろと左右に動いて、すぐに上がった。 ニヤけるように口元が歪んでいって、あっという間に顔いっぱいの笑みになった。


「そういうこと。だったらそんなの忘れるくらい、もっともーっと愛してあげる」


 稜月ちゃんは胸の前で握りこぶしを作って、ふーっと荒い鼻息を出した。なんだろ、伝わったのかな、いや伝わってない気がする、ていうか、感情の起伏激しすぎ。


 見つめられて、わたしは三秒後には目をそらすのだった。



 ああ言った手前、その日のうちにわたしは実行に移した。トートバッグに筆記用具と新品のノートだけを突っ込み、おばあちゃんに渡された麦わら帽子を被って図書館へ足を運んだ。


 図書館――分館は出張所に併設されていて、県道沿いにぽつんと建っている。

 古くて狭い建物だけど、学習用の机が設置されているとおばあちゃんに教えてもらった。

 勉強しに行くと伝えると、物静かなおばあちゃんが声を弾ませていた。一緒に行こうかとまで言われてしまったけど、なんとなく場所はわかるので断った。

 最悪スマホのマップもあるし……そういえば。


「稜月ちゃんとまだ連絡先交換してないんだ、なんか変だ、順序が」


 三分に一度しか車が通らない道路の脇を、とぼとぼ歩く。ため息の頻度は、それよりもちょっと多い。稜月ちゃんのことばかりを考える。胸が痛む、気が重い。歩く速度が遅すぎるのは、なにも暑さのせいだけではないのだろうと思う。

 幸い……なのかどうか、その稜月ちゃんの姿はどこにもない。今朝は気まずいまま駅まで行って別れたので、当然だろう。本人は楽しそうにしてたけど。


「……向こうが言い出すまでいいか」


 もう一度歩き出すと、五分もしないうちに図書館に着いた。


 その少し黄ばんだ白い外壁の建物を見ていると、手に力が入った。開かれた門の前まで行って、そこで足が動かなくなった。


 なにもないところに、窓が現れた。中に、わたしがいた。学校指定のサマーニットなんて着て、顔のない友達とハイタッチしてる。最初は笑顔だったのに、こっちに気づいて眉を浮かせた。じーっと見つめられて、見つめ返して、目が合って。向こうのわたしの、口が動いた。


 遠くてなにを言ってるのかわからない。口の動きを眺めてると、やがてチャイムが鳴って、わたしは奥へと消えていった。手を伸ばすと、窓はただの白い外壁へと戻っていた。

 眉間に、染みてくるような痛みがあった。目を閉じて、首を振った。


「余計なこと考えるな、わたし、今は学校のことなんて忘れて……わすれ……」


 右腕が震えだして、反対の手で抑えた。「大丈夫……大丈夫……」おまじないのように唱えた。


「よし……お姉ちゃんちゃんとやるからね……」


 車が数台しか止まっていない駐車場に、ようやく踏み出した。



 中に入って、手短に利用者登録を済ませた。司書さんは一人で、利用者も年配の方が数人いるだけだった。蔵書数は五万弱、学習机も四つしかない。


 けれどこんな様子なので、席が取り合いになるということはなさそうだった。

 今も端っこの一席だけが埋まっていて、他は選び放だ、い。


 その席に座っていた女の子が振り向いて、わたしに手を振った。


「あ、光、やっときたー、こっちこっち」

「な、ま、またこのパターン」


 脇の下がチラチラ見えるくらいに、大きく手を振っていた。ほっぺたがひくついて、肩からトートバッグが落ちていった。


「お弁当作ってきたから、あとで食べようね」


 稜月ちゃんは、わたしに向かってウインクをした。

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