第九十七章:風のような男
エリオット・フェルナンドは、気ままな料理人だった。
各地を渡り歩き、必要とされれば助っ人に入り、興味がなくなれば次の場所へと消えていく——風のような男。
しかし、今夜ばかりは、その“自由”に影が差していた。
エリオットは店を出た後も特に足早に去ることもなく、のんびりとした歩調で夜の街を歩いていた。
「エリオット。話がある。」
「ん?」
エリオットは振り向くとそこには、カフェ・アルカディアの店主、ルシアス、セレスの三人がいた。
そして、誰もが知る元魔王のルシアスからは「お前の力は特別だ」と告げられた。
「……運命を修正する力、ね。」
エリオットは琥珀色の瞳を夜空に向けた。「もし本当なら、そりゃあ大した話だ。」
「本当かどうかは、お前自身が一番わかってるんじゃないのか?」
ルシアスが笑う。
「お前の料理を食べた者の中には突然人生が変わるやつがいる。それも偶然とは思えないほどにな。」
「……まあな。」
エリオットは肩をすくめた。
「でもな、俺は誰かの運命を変えるために料理を作ってるわけじゃないんだよ。」
「それはわかってる。」
店主は静かに頷いた。
「だからこそ、うちのカフェで働いてみるべきだ。」
「……なぜ?」
エリオットは少しだけ鋭い目を向ける。
「お前の力を狙う者が出てくる。いや、すでにいる。」
ルシアスの言葉にエリオットは眉を上げた。
「貴族、商人……権力を求める者は皆、己の未来を“確実なもの”にしたがる。」
セレスが付け加える。
「あなたの料理が“運命を修正する”のなら、誰もが利用しようとするでしょうね。」
「……はあ。」
エリオットはため息をついた。
「そりゃあ面倒くせえな。」
「だからこそ、お前は“試される”必要がある。」ルシアスは薄く笑う。
「本当に“運命を導く力”があるのか、それともただの偶然なのか。」
「試す?」
エリオットは興味深げに首を傾げる。
「三ヶ月——それだけでいい。」
店主は言った。
「うちのカフェで働いて自分の力を確かめろ。その間は元魔王と元勇者の二人が確実にお前を守ってやれる。」
エリオットは目を細めた。
「俺の力を確かめる、ね……。」
「それにお前も少しは興味があるんじゃないのか?」
ルシアスが意地悪く笑う。
「もし本当に“運命を修正する”力があるなら、その力がどこまで影響を及ぼすのか気になるだろう?」
エリオットは沈黙した。
確かに——考えたことはなかった。
自分の料理を食べた者が不思議なほど“いい方向”へ進むことが多いのはわかっていた。
だがそれが本当に“運命”と関係しているのか?
そして——もしそうなら、俺は一体何者なんだ?
「……おもしれえ。」
エリオットは微笑んだ。「三ヶ月だけだぞ?」
「もちろん。」
店主は笑った。
「三ヶ月後、俺が“やっぱり自由がいい”って言ったら、ちゃんと見送ってくれよ?」
「約束する。」
店主は真剣に頷いた。
「……なら、決まりだ。」
エリオットは銀髪をかきあげながら、カフェ・アルカディアの方へと歩き出した。
「まずは厨房の様子を見せてもらおうか。」
こうして、風のような料理人は一時的にカフェ・アルカディアの厨房に“定着”することとなった——
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