第九十六章:幸運を持たらす料理人
ミステリアスな銀髪料理人ってなんだかそそられるものがありませんか??
王都の朝は澄んだ空気に包まれていた。
「カフェ・アルカディア」は新たな活気に満ちている。
ミリアのホール業務改善、エヴァンの情報管理体制の構築——店は日々進化し続けていた。
しかし、店主は次なる課題を抱えていた。
厨房の強化——。
この店が「情報と交易の中心地」となり訪れる客数も増え続けている。厨房の安定化も急務だった。
今のところ店主が料理を担当し、ルシアスや臨時のスタッフが補助していたが手が足りていない。
「……そろそろ専門の料理人を雇わないとな。」
店を閉めてから店主はコーヒーカップを傾けながらルシアスとセレスに言った。
ルシアスが微笑む。
「厨房を回すのにお前一人じゃ限界があるのは明らかだからな。」
「ええ、しかもこの店の料理は単なる“食事”ではなく、取引や交渉の場を支える重要な要素になっている。ここで提供する料理のクオリティが店の信用にも関わるわ。」
セレスも同意するように頷く。
「前にも話したが気になってる料理人がいる。」
店主は少し考えながら言った。
「今はフリーで働いている料理人だ。お金に困った時だけ臨時で色々なレストランで助っ人として入ってるらしい。
ただ……味が素晴らしいだけじゃなく、彼の料理を食べた人には“良いことが起こる”らしい。」
「……幸運をもたらす料理人?」
エヴァンが静かに眉を上げた。
「噂では祝福系の加護を授かっているとか。」
「加護のある料理人……興味深いな。」
ルシアスは腕を組みながら楽しそうに目を細める。
「名前は?」
ミリアが尋ねた。
「エリオット・フェルナンド。“エリ”と呼ばれている。」
***
エリオットを探すために情報通のエヴァンがすぐに動いた。
「彼の現在の居場所を探るのはそう難しくない。」
そう言って王都の飲食業界に精通する者たちに情報を回した。
そして数日後——。
「エリオットなら最近『月下亭』で助っ人をしてるらしい。」
エヴァンが報告した。
「月下亭か……」
店主は腕を組む。「王都の中でも一流の料理を提供する店の一つだな。」
「ただ、どうやら彼は長くはとどまらないらしい。」
エヴァンは続ける。「数日間だけ働き、また別の店に移る。まるで風のような存在だ。」
「気まぐれなやつってことか。」
ルシアスは口元を歪める。「そういうタイプは自由を好むから組織に属すのを嫌がる可能性があるな。」
「だが、話してみる価値はある。」
店主は決意を固めてセレスとルシアスを伴い「月下亭」へ向かうことにした。
***
「月下亭」の厨房に足を踏み入れるとそこは活気に満ちていた。
料理人たちが忙しなく動き回りスパイスの香りが漂う。
「おいエリ!ソースを頼む!」
「了解〜。」
緩やかな声が厨房の奥から響いた。
そこにいたのは銀髪の青年——エリオット・フェルナンド。
彼は鍋を振るいながらもどこかのんびりとした雰囲気を漂わせていた。
しかし、その手さばきは異常なほど正確で、素材が生き生きとしているように見えた。
「……あいつか。」
店主が目を細めた。
エリオットは周囲に気を配るでもなく、ただひたすら料理に集中している。
そして、料理が完成すると——。
「ほらよ、できた。」
と、特別な感慨もなく皿を出す。
しかし、その料理を口にした客の一人が驚いたように声を上げた。
「これは……!」
他の客たちも目を見開き、喜びの声を漏らす。
「素晴らしい……この後の商談もうまくいきそうだ!」
「本当に不思議なことに、エリの料理を食べると調子がいいんだよな……。」
「……なるほどな。」
店主はエリオットを見つめ、確信を得た。
***
エリオットが厨房を離れた隙を見て、ルシアスは低い声で店主とセレスに囁いた。
「……あの料理人、ただの“幸運をもたらす加護”を持ってるわけじゃない。」
店主とセレスが驚いたようにルシアスを見る。
「どういうこと?」
セレスが小声で問いかける。
ルシアスは腕を組みながらエリオットの方をちらりと見た。
「“運命の餐”——彼の加護は運を与えるだけじゃない。運命そのものを“修正する力”を持っている。」
「……運命を修正?」
店主は眉をひそめる。
「そうだ。」
ルシアスは続ける。「ただ幸運をもたらすのではなく、本来その者が進むべき道に強制的に導く力だ。
つまり、運が良くなるのではなく、“正しい選択”をさせる加護——。」
「……もし、その正しい選択が本人にとって不都合なものだったら?」
セレスが不安げに問う。
「それでも変わる。」
ルシアスは静かに言った。「だから、彼の料理を食べた者の中には“試練に遭う者”も出るのさ。」
店主は少し息を飲んだ。
「そんな力……欲しがる奴がいないはずがない。」
ルシアスはさらに続ける。「エリオットの力を知る者が彼を利用しようと動き出すのは時間の問題だ。」
「……だから、彼にとってもカフェ・アルカディアに来た方がいいってことか。」
店主は理解した。
「そういうことだ。」
ルシアスは微笑みながら言った。「ここなら、俺たちが彼を守れる。」
店主とセレスはエリオットを見つめた。
彼はまだ自分の力の本質に気づいていない。
しかし、それを狙う者が現れた時、彼は“選択”を迫られるだろう。
「……なら、しっかり話をしよう。」
店主は決意を固めた——
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書き溜めていた物語なのですが興味もっていただけていたら反応あるとすごくはげみになります。お願いします。




