第九十五章:エヴァンの決断
未来のキーマンとなるのでしょうか?
王都の夜は静かで涼しい風が屋敷の窓を揺らしていた。
エヴァンは一人、書斎でワインを傾けながら考え込んでいた。
「カフェ・アルカディア、か……。」
店主とルシアスが持ちかけた話は興味深かった。
軍を離れてからの日々は穏やかだったがどこか満たされないものもあった。
情報を整理し、戦略を立て、王国の未来を左右するような決断をサポートしてきた日々。
それが突然途絶えたとき、自分は何をしていいのか分からなかった。
「……俺が商売の世界で通用するのか?」
カフェは確かに王都の情報が集まる場所になっていた。
しかし、それはあくまで“商人の世界”だ。
戦場とは違うルールが支配する世界。
自分の経験がそこで本当に役立つのか……。
軍と商売の違い、そして自分の役割——。
その考えが頭から離れなかった。
***
翌朝、エヴァンはある人物を訪ねた。
かつての上官、ガルシウス。
王都の防衛を指揮し国王からの信頼も厚い将軍。
現在も軍の中枢にいる彼の元を訪れるのは久しぶりだった。
「……珍しいな。お前がここを訪ねてくるとは。」
ガルシウスは訓練場の片隅で部下たちを見守っていた。
彼はエヴァンに軽く視線を向けると近くの椅子を指し示した。
「話があるんだろう?」
エヴァンは黙って座ると一息ついて口を開いた。
「ルシアスと店主に誘われた。」
ガルシウスの表情がわずかに緩む。
「ほう……カフェ・アルカディアか。」
「お前が俺を推薦したらしいな?」
「ああ。」ガルシウスは頷く。
「お前は優秀な情報参謀だった。軍にいた頃もどんな小さな情報も逃さず分析して戦略を立ててきた。だが、戦場だけが情報の戦いではない。」
エヴァンは沈黙したままガルシウスの言葉を待った。
「王都の経済は戦場と同じだ。」
「……経済が戦場?」
「そうだ。」ガルシウスは腕を組みながら続ける。
「商人たちは取引を通じて勢力を広げ、貴族たちは陰謀を巡らせ、軍は常にその均衡を見極めながら動く。情報を制する者が王都を制すると言ってもいい。」
「……。」
「お前の役割は変わらん。お前は戦場で情報を扱っていたが今度は“商業という戦場”で情報を扱うだけのことだ。」
「……俺にできるのか?」
「できるかどうかではない。」ガルシウスはゆっくりと微笑む。
「お前は“やるべきかどうか”を考えているんだろう?」
エヴァンは息を詰まらせた。
「……。」
「お前がこのまま静かな生活を続けたいならそれもいい。誰もお前を責めはしない。だが、もし再び自分の能力を活かし動き出したいと思うなら——。」
ガルシウスはエヴァンの目をじっと見つめる。
「カフェ・アルカディアはお前にとって最高の“戦場”になるはずだ。」
その言葉が、決定打になった。
エヴァンの中で、迷いが少しずつ晴れていくのを感じた。
***
夕刻、カフェ・アルカディアの扉が静かに開いた。
忙しく立ち回るミリアやセレスの姿が見え、店主とルシアスがカウンターで話していた。
店主が顔を上げエヴァンと目が合う。
「……決心はついたか?」
エヴァンは一度目を閉じ、そして静かに頷いた。
「——俺にやらせてくれ。」
ルシアスがにやりと笑い、店主は満足げに頷いた。
「ようこそ、カフェ・アルカディアへ。」
こうして元軍の情報参謀——エヴァンが「カフェ・アルカディア」の一員として迎え入れられた。
彼の参入によって、カフェはさらに“戦略的な拠点”へと進化していくことになる——。
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