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第九十二章:商才ある少女の視点

いつも読んでくださってありがとうございます!

「カフェ・アルカディア」がますます賑わいを増していたある日のこと。


昼のピークタイムを迎え店は混雑の極みに達していた。客たちは次々と席につき商談の声が飛び交う。カウンターの中では店主と臨時のスタッフたちが慌ただしく動き回っていた。


「ワインをもう一本頼む!」

「軽食はまだか?」


次々と寄せられる注文に対応するのがやっとだった。ホールにいる臨時のスタッフたちは一生懸命働いているものの、統率が取れていないため動きがバラバラでどうしても効率が悪い。


「くそ……もう少しなんとかならないのか……。」


店主は額の汗を拭いながら厨房から店内を見渡した。臨時スタッフたちは皆よく頑張ってくれているがやはりプロの接客を学んだ者とは違う。そろそろ本格的なホール担当を雇わなければならない——そう痛感した瞬間だった。


「……無駄が多いわね。」


不意に冷静な声が耳に届いた。


店主が声の方を振り向くと店の隅のテーブルに座っていた一人の少女がじっとホールの様子を観察していた。


淡い栗色の髪を結い上げた美しい少女——ミリア。


彼女は近隣の商家の娘で幼い頃から家業を手伝い、接客や商談の場を幾度となく経験してきた才女だった。普段は実家の商会で働いているが、最近は家業の方針と自身の将来について考えてやや悩んでいるという噂を聞いていた。


「無駄、か。」

店主は興味を引かれカウンターから近づいていった。


ミリアはため息をつきながら店の状況を指摘するように言う。


「見ての通りこの店は商人たちが集う場所になったけど、ホールの回し方がそれに追いついていないわ。」


店主は腕を組みながら眉をひそめる。


「具体的にどういうことだ?」


「まず、席の配置と導線が悪いのよ。」

ミリアは視線を巡らせながら落ち着いた口調で説明を続けた。


「例えばあの商人たち。彼らは重要な取引をしているけど、隣の席の貴族の声が大きすぎて話に集中できていない。交渉の場として機能させるならもっとプライバシーを考慮した席の配置が必要ね。」


店主は改めて店内を見渡した。確かに商談をしている客とただ食事を楽しみに来ている客が入り混じっている。店内の雰囲気が雑然としているのが分かった。


「それに——」

ミリアはさらに指を動かしながら続ける。


「あのホールのスタッフ、動線がバラバラで無駄な歩数が多いわ。効率的に動けるように役割分担を決めるべきよ。例えばメインの注文を取る人、配膳をする人、片付けを担当する人を固定すればもっとスムーズに回るわ。」


「……ほう。」

店主はミリアの言葉を聞きながら感心したように頷いた。


「そしてもう一つ。」

ミリアは鋭い目で店主を見つめる。


「この店は情報と交易の中心になっているけど、それを意識した“ホール運営”ができていないの。単なる飲食の場じゃなくて“取引の場”としての機能を高める必要があるわ。」


店主はその言葉に驚いた。

確かに店の役割はすでにただのカフェではなくなっている。しかし、ホールの運営をその変化に適応させるという発想はなかった。


「……なるほどな。」


ミリアは腕を組み少し意地悪そうに笑う。


「ねえ、店主。商売人にしては詰めが甘いんじゃない?」


「……ぐっ。」


店主は苦笑しながら頭を掻いた。


「確かにお前の指摘は的確だ。ただ、問題は分かっていてもそれを実行するための人手が足りない。」


「従業員を増やそうとしてるの?」


「そうだ。」


店主はミリアをじっと見つめ、少し考えてから言った。


「ここで働いてみる気はないか?」


ミリアは一瞬、目を見開いた。


「……え?」


「お前の観察眼と商才があれば店はもっと良くなる。」


店主は真剣な眼差しで続ける。


「それに、お前自身もこの店の変化を面白いと思っているんじゃないか?」


ミリアは沈黙した。


店主の言葉は図星だった。

彼女はこの店の変化に興味を持ち、商売人としての勘が「ここには何か大きな流れが生まれている」と告げていた。


しかし——。


「……私は今まで自由に商売をしてきたわ。決まった場所で働くなんて考えたこともなかった。」


ミリアはそっと目を伏せ、考え込むように呟いた。


「それに、私は商売を学ぶために生きてるの。もしこの店に入ったら……自由に動けなくなるかもしれない。」


「……そうか。」


店主は静かに頷いた。

ミリアの迷いは理解できる。


彼女は家業を手伝いながらもより広い世界を知るために動き回っていた。そんな彼女がカフェという一つの場所に縛られることを躊躇うのは当然だった。


「でもな、ミリア。」


店主は軽く笑う。


「ここはただのカフェじゃない。ここで働くことがお前にとって新しい学びになるとは思わないか?」


ミリアは店主をじっと見つめた。


「……考えさせて。」


「いいさ。お前が決めたらまた来い。」


店主はそう言い、ミリアに軽く微笑んだ。


ミリアは迷いながらも、そのまま店を後にした——

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コメントもいただけたら返答しますのでよろしくお願いします!

書き溜めていた物語なのですが興味もっていただけていたら反応あるとすごくはげみになります。お願いします。

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