第九十一章:人手不足と新たな仲間探し
祝宴の翌朝「カフェ・アルカディア」は朝早くから活気に満ちていた。
王との謁見を経て店の影響力がさらに広がり、新たな商人や貴族が次々と訪れるようになっていた。
店主はカウンター越しに店内を見渡しながら溜め息をつく。
「……忙しくなったな。」
「ようやく気付いたのか?」
ルシアスがカウンターに肘をつきながら、からかうように笑う。
「前からそれは分かってたけど今日になって本格的に実感したよ。」
店主は苦笑しながら次々と注文を受ける店員たちに視線を送る。
「こっちはコーヒー三杯!あと軽食も!」
「ワインと果実タルトを!」
「注文の通しが追いつかないわ!」
臨時で手伝ってくれている近所の知人たちは忙しさに必死に対応しているが、それでも明らかに人手が足りていない。
店主は軽く頭を掻きながらセレスに目を向ける。
「やっぱりそろそろちゃんとした従業員を雇わないといけないな。」
料理を運んで戻ってきたセレスは頷いた。
「このままじゃ一時的な人手不足じゃなくて、店の運営自体が回らなくなるわよ。」
「俺は別にいいが店主よ、お前はそろそろ体を壊すぞ?」
ルシアスは半ば呆れたように店主を見た。
「まあ、俺もずっと厨房に籠りっぱなしじゃ体がもたないしな……。」
カフェが成功して繁盛するのは嬉しいことだ。
しかし、それが経営に支障をきたすほどの忙しさとなれば根本的な解決策が必要だった。
「具体的にどうやって人を雇うんだ?」
ルシアスが興味深げに尋ねる。
店主は考え込んだ。
「普通なら求人を出して募集を募るんだが……」
店主は腕を組みながら、店の特性を考える。
「うちの店はただのカフェじゃない。情報と交易の拠点でもある。となると、信頼できる人間じゃないとダメだ。」
「まあ、情報を扱う以上は適当な人間を入れるのは危険だな。」
ルシアスも納得するように頷いた。
セレスも真剣な表情になる。
「そうね。私たちの動きを知る者は多くなったけどそれを外部に漏らさない人間が必要よ。」
「普通に募集して不特定多数から選ぶのはリスクが高いな。」
ルシアスは指でカウンターを軽く叩きながら考える。
「お前の信頼できる知人や、カフェの常連たちに『信頼できる働き手』を紹介してもらうのはどうだ?それなら、ある程度人間性が保証された者が来るだろう。」
店主は頷いた。
「なるほど、それなら信頼できる人材を確保しやすいな。」
「なら、さっそく動くか?」
ルシアスが立ち上がる。
「待って。まずは具体的な役割分担を考えましょう。」
セレスが止めた。
「確かに今まで臨時で働いてもらってたけど、正式な従業員を増やすならそれぞれに合った仕事を割り振る必要があるわ。」
「ふむ……確かに。」
店主は顎に手を当てた。
「まずは厨房担当が必要だ。」
店主が言う。
「今は俺がほとんどやってるが、料理や飲み物を作る人間を一人雇いたい。」
「なら、料理の経験がある者がいいな。できればこの店の雰囲気に合う料理を作れる奴だ。」
ルシアスが補足する。
「そして、ホールスタッフも必要ね。」
セレスが続ける。
「お客さんが増えてきた以上、接客に慣れた人がいたほうがいいわ。」
「となると、厨房スタッフ1名、ホールスタッフ1名……できればもう1人くらい欲しいな。」
店主は考え込む。
「なら、もう1人は『情報管理』の役割だな。」
ルシアスが提案する。
「店で交わされる商談や情報のやり取りを整理できる人間がいれば俺や店主の負担も減る。」
「……なるほど、それもありだな。」
店主は納得する。
「厨房担当、ホール担当、情報管理担当の3人を新しく雇うってことね。」
セレスがまとめる。
「それで決まりだな。誰か心当たりはあるか?」
ルシアスが尋ねると店主はしばらく考えた後、ポンと手を打つ。
「……一人、心当たりがある。」
「ほう?」
ルシアスが興味深そうに身を乗り出す。
「気になってる料理人がいる。今はフリーでお金に困った時だけ臨時で色々なレストランで助っ人として入ったりしているそうなんだが、味も素晴らしいが料理を食べた人はなぜかその後に良いことが起こる不思議な料理人らしい。噂では祝福系の加護を授かっているとか。」
「それは面白いな。料理の腕も信頼できるのか?」
「ああ、間違いない。」
「なら、早速連絡を取ってみましょう。」
セレスが言う。
「問題はホール担当と情報管理担当だが……」
「それは商人や常連たちに聞いてみればいい。」
ルシアスはにやりと笑う。
「意外と店に通ってる客の中に腕のいい人材が隠れているかもしれんぞ?」
店主はその言葉に思わず頷いた。
こうして、「カフェ・アルカディア」は本格的に従業員の増員に向けて動き出した。
王都の市場は変革の時を迎え、店の役割もさらに大きくなっていく。
店主は微笑みながら、店の看板を眺めた。
新たな仲間が加われば、店はさらに賑わいを増し、王都最大の情報と交易の拠点としての地位を確固たるものにするだろう。
そして、それがどんな出会いを生むのか——




