第八十九章:祝宴の夜
王との謁見を終えて城の重厚な空気から解放された店主、ルシアス、セレスの三人は「カフェ・アルカディア」へと戻ってきた。
扉を開けた瞬間、店の馴染み深い香りと活気に包まれる。
カフェにはすでに多くの商人や貴族たちが集まり活発な商談が行われていた。
テーブルの上には帳簿や地図が広げられ、ワインや紅茶を片手に交渉が進められている。
「……ふむ、これは想像以上の賑わいだな。」
ルシアスが腕を組みながら店内を見渡し薄く微笑む。
「やっぱりね。王が動いたとなればみんな慎重になるかと思ったけど、逆に勢いが増してるわ。」
セレスはカウンターの奥へ向かいながら店の様子を観察する。
「王が俺たちを潰さなかった以上、この店に集まることが“安全”と判断したんだろう。」
ルシアスは無造作に椅子へと腰を下ろし、興味深げに天井を仰ぐ。
店主は微笑みながらもすぐに厨房へ向かった。
「……じゃあ俺たちはその期待に応えてやらないとな。」
カフェの活気と商談の熱気
店主が厨房に立っている間にも店内では次々と取引が成立していく。
「この場所なら余計な干渉を受けずに取引ができる。」
「情報がすぐ手に入るのは大きいな……もう王城よりも信頼できる。」
「ここでの交渉が王都全体の市場を動かすなんて誰が想像しただろう?」
店主は料理の準備をしながら店内の活気に耳を傾けた。
すでに「カフェ・アルカディア」は王都最大の情報と交易の中心地としての役割を果たしつつある。
店主はエプロンを外しながらふとルシアスとセレスに視線を向けた。
「そろそろ閉店だ。」
店主が声をかけると店員たちが次々と片付けを始める。
客たちも次第に店を後にし、静けさが戻る頃には店内には店主、ルシアス、セレスの三人だけが残っていた。
「やれやれ……なんだか長い一日だったな。」
ルシアスが椅子に深く腰を掛けて足を組みながら呟いた。
「まあ、無事に終わったんだからいいじゃない?」
セレスはカウンターに腰掛けてグラスを軽く揺らす。
店主は満足げに頷き厨房へ向かうと静かに火を灯した。
「じゃあ、今夜は“特別な料理”で祝おうか。」
「お?」
ルシアスが目を輝かせる。
「店主のとっておきの料理……これは期待していいのかしら?」
セレスも興味津々の様子で店主を見つめる。
「もちろんさ。今日は色々とあったからな。俺たちの勝利を祝う夜くらい贅沢しないと。」
厨房から漂う香ばしい香りが店内に広がる。
店主が取り出したのは大きな骨付き肉。
それを鉄板の上で焼きローズマリーとガーリックの香りが立ち昇る。
「おお……これは見事なステーキだな。」
ルシアスが立ち上がり、厨房を覗き込む。
「これだけじゃないぞ。」
店主は笑いながら、次々と料理を運ぶ。
新鮮な野菜とハーブとチーズをふんだんに使ったサラダ、カフェ・アルカディア特製魚介スープ、シナモンと蜂蜜を使ったパイなどがテーブルに並んだ。
「……なるほどな。」
ルシアスは腕を組みながら目の前に並べられた料理を眺める。
「まるで“王の宴”だな。」
「まあ、俺たちがこの王都を動かしてるんだ。これくらいは当然さ。」
店主は自信ありげに微笑んだ。
セレスは嬉しそうにナイフとフォークを手に取りにっこりと笑う。
「じゃあ……いただきましょうか。」
三人はテーブルを囲み祝杯を上げた。
「この数ヶ月でずいぶん遠くまで来たな。」
店主がしみじみと呟く。
「まったくだ。」
ルシアスはグラスを傾けながら満足げに肉を頬張る。
「でも、まだ終わりじゃないわよ。」
セレスはスープを飲みながら真剣な表情で言う。
「カフェ・アルカディアはこれからもっと大きくなる。それに伴って私たちに向けられる視線も増えていく。」
「だからこそ今夜くらいは余計なことを考えずに楽しめばいいさ。」
店主は静かに笑い、ルシアスのグラスにワインを注ぐ。
「まあ、そいつは悪くないな。」
ルシアスは微笑むとグラスを軽く掲げる。
「じゃあ、改めて乾杯といこうか。」
三人はグラスを鳴らし笑い合った。
その夜、「カフェ・アルカディア」には温かな灯火と、三人の笑い声が静かに響いていた——。




