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第八十七章:謁見

王都の朝靄が晴れ、陽光が城壁を黄金色に染める頃、店主、ルシアス、セレスの三人は王城へと足を踏み入れていた。


広大な城門を抜けて整然とした衛兵たちの視線を感じながら彼らは悠然と回廊を進む。

城内に響くのは革靴が大理石を踏みしめる音のみ。


「王室に招かれるとは大したものだな。」

ルシアスが皮肉げに笑いながら、店主の横を歩く。


「それだけ『カフェ・アルカディア』が王都にとって無視できない存在になったってことね。」

セレスが微笑みながら言う。

「私たちの影響力がどれほどのものか、王自ら確かめたいのよ。」


「さて、王というのはどんな男なのか……興味が湧いてきたな。」

ルシアスは不敵な笑みを浮かべ漆黒のマントを翻した。


この数日で「カフェ・アルカディア」は、王都最大の商談と情報の拠点として確固たる地位を築いた。

商人たちが取引を行い、貴族たちが密談を交わし、軍や官僚たちまでもが情報を得るために訪れる場所となったのだ。


——当然、王がそれを見過ごすはずがない。


城内の扉が開かれ一人の宦官が現れた。

「店主殿、ルシアス殿、セレス殿、国王陛下がお待ちです。」


三人は互いに軽く視線を交わし扉の向こうへと進んだ。


謁見の間は荘厳な雰囲気を湛えていた。

巨大なシャンデリアが輝き、壁には歴代の王の肖像画が並ぶ。

その中心に位置するのはグランヘイム王国の支配者——国王アウレリウス。


玉座に鎮座するアウレリウスは金髪に紫の瞳を持つ威厳ある男だった。

その目は静かに三人を見据えまるで獲物を狙う猛禽のようだった。


「よく来たな。」

低く響く声が、静寂を切り裂く。


店主は軽く頷き、王へ視線を向けた。

「陛下直々にお呼びいただき、光栄です。」


そう言いつつも店主は表情を崩さず慎重に王の反応を伺った。

アウレリウス王の態度は友好的なものでも敵対的なものでもなかった。

彼はただ何かを見極めるように店主を観察していた。


「——そちらの男が、ルシアスだな。」

王の視線がルシアスへと向かう。


「そうだ。」

ルシアスは微笑した。


「ほう……貴様の評判は王都中に広まっている。」

王は興味深げに目を細めた。

「ヴィクトールを追い落とし、商人たちをまとめ、今や王都最大の交易拠点を築き上げた男が“従業員”とはな。」


「すべては店主の決断の結果だな。」

ルシアスはさらりと受け流しながら、店主へと目を向けた。


王は微かに笑い、次にセレスへ視線を向けた。

「そなたは?」


「元勇者のセレスです。店主の友人であり補佐役でもあります。」

彼女は優雅に一礼する。


「なるほど……」

王は一度ゆっくりと目を閉じ、再び開いた。


「まずは確認しておこう。」

アウレリウス王は玉座から腰を浮かして静かに言葉を紡いだ。


「貴様たちはこの王都で何を目指している?」


その問いに店主とセレスはルシアスを見つめる。

この場でどう答えるか、それが王との交渉の第一歩となる。


ルシアスは一歩前に進み、静かに答えた。


「秩序を作ることだ。」


その言葉に王は微かに眉を動かした。

「秩序、か。」


「ヴィクトールの崩壊によって市場は混乱している。」

ルシアスは続ける。

「商人たちは新たな拠点を求め交易の流れは不安定になった。そしてそこに必要なのは新たな“秩序”。」


「……それが“カフェ・アルカディア”というわけか。」

王は顎に手を添えながら呟いた。


「ああ。」

ルシアスは頷く。

「王都の商人が集まり、情報を交換し、商談を成立させる場。経済の中心が乱れれば、王国全体が揺らぐ。俺たちはそれを防ぎたいだけ。」


王は沈黙しながらルシアスを見つめた。

その視線は相手の言葉の裏にある真意を見抜こうとするかのようだった。


「つまり王国の安定を望んでいるということか?」

王の問いにルシアスは即答しなかった。


少し間を置きルシアスが口を開く。

「——安定は結果でしかない。」

彼はゆっくりと前に進み、王と真正面から向き合った。

「俺たちは“変革”を望む。」


その言葉に王の瞳が鋭く輝いた。


「変革……?」

アウレリウス王の声が低く響く。


「旧き体制に囚われていた王都の交易を新たな形へと進化させる。」

ルシアスは微笑を浮かべながら続けた。

「貴族だけが利益を独占するのではなく、商人たちが公平に競い、王都の発展を促す——そんな仕組みを作るのが“カフェ・アルカディア”の役割だ。」


王の表情は変わらなかったが、謁見の間にいた廷臣たちがざわめき始めた。


「ほう……なかなか面白い考えを持っているな。」

王はゆっくりと微笑み椅子に深く腰掛けた。


「では聞こう。貴様たちが作る“新たな秩序”が、この王国にとって利益となるのか——それとも脅威となるのか。」


王は二人を見つめ、静かに問いかけた。


ルシアスは深く息をつきゆっくりと口を開く。

「それはそちらの出方次第だな。」


王は微かに目を細めた。

「ふむ……」


こうして、王と元魔王、そしてカフェの店主の対話が始まった。


次なる展開が、王国の未来を大きく左右することになる——。

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