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第八十二章:崩壊

ヴィクトール侯爵の顔から血の気が引き、評議会の場で彼の名誉が砕かれていくのを目の当たりにした。


王国の貴族たちは彼を裏切るように冷たく沈黙し、軍の監視下に置かれると宣告された瞬間、彼の未来は閉ざされたも同然だった。


だが、ヴィクトールはまだ終わったとは思っていなかった。彼の脳裏にはこれまで築き上げてきた権力の網が残されていた。金に物を言わせ証人を買収し、証拠を握り潰す。それが彼の常套手段だった。


「……まだ、終わったわけではない」


彼は震える手を握りしめ、自らを奮い立たせた。しかし、その矢先——


「ヴィクトール侯爵!」


評議会の扉が乱暴に開かれ息を切らした兵士が駆け込んできた。その表情には焦燥の色が浮かんでいる。


「なにがあった?」


ロイゼル准将が鋭く問い詰める。


「侯爵の邸宅が……暴徒たちに襲撃されています!屋敷の使用人たちが逃げ出し、財産が略奪されているとの報告が——」


「なに……!」


ヴィクトールの瞳が見開かれる。


彼が長年の権力で牛耳っていた市場の商人たちは、彼が没落すると知るや否や怒りを露わにし、屋敷へと向かったのだった。


商売を妨害され利益を奪われた者たちの憎悪は貴族への恐れを超えていた。


「……馬車を!すぐに屋敷へ戻る!」


ヴィクトールは椅子を蹴るように立ち上がった。しかし、彼の腕を掴んだのはルシアスだった。


「逃げるつもりか?」


「貴様……手を放せ!」


ヴィクトールは振り払おうとするがルシアスは微動だにしない。その目には冷徹な光が宿っていた。


「もうお前には何も残っていない。今さら戻ったところでお前の屋敷も財産も全ては焼け落ちるだけだ」


「黙れ!貴族を舐めるな……!」


ヴィクトールはルシアスを睨みつけるがその目には焦燥と絶望が滲んでいた。


「軍が出動するまでの間にどれほどのものが残るだろうな」


ルシアスが冷笑すると評議会の貴族たちは眉を顰め、誰一人としてヴィクトールを助けようとはしなかった。彼がどれほどの権力を持っていようと、それはもう過去のものだった。


「くそっ……!」


ヴィクトールは怒りと恐怖を滲ませながらももはや抵抗する術を失った。評議会の長老が重々しく口を開く。


「ヴィクトール侯爵。貴様の財産は一時的に凍結される。王国に対する背信行為の調査が終わるまで貴様の自由は制限されるものとする」


「……!」


ヴィクトールは絶望に打ちひしがれその場に膝をついた。全てを牛耳るはずだった彼が今やただの囚人も同然だった。


彼の没落は王国のあらゆる場所に瞬く間に広まった。


***


王都の広場には多くの市民が集まっていた。


「ヴィクトール侯爵が失脚したぞ!」


「王国を食い物にした男の末路だ!」


誰もが歓喜に沸き立ち、カフェの前にも大勢の人々が押し寄せていた。


「これからは安心して商売ができる!」


「ここで飲むコーヒーは格別だ!」


ルシアスと店主はそんな光景を店の奥から静かに眺めていた。


「……これで、一件落着だな」


店主が深く息を吐く。


「まだだ」


ルシアスは唇を引き締めた。


「ヴィクトールは崩れ去ったがその影響はこれから本格的に広がる。奴の圧力で閉じ込められていた市場が開放されればこの王都は新たな時代を迎える」


店主は微笑んだ。


「このカフェも忙しくなるな」


「そういうことだ」


ルシアスはカップを手に取り、一口飲んだ。


「だが、その前にやるべきことがある」


ルシアスの目が鋭く光り、彼は外の喧騒を見つめながら呟いた——

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