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第七十九章:潜入

夜が更け、王都の空には雲が立ち込めていた。

店主は駐屯地の裏手に立ち、ラグナル伍長と並んで警備の状況を確認する。


「機密文書庫への入り口は司令室の奥……だが、巡回が厳しくなっているな」

ラグナルが低く呟く。


「やはり何かを隠しているということか」

店主は冷静に周囲を見回した。


手元には複製した鍵がある。

だが、鍵があっても警備が強化されていれば簡単に入れるわけではない。


「どうする?」


ラグナルが店主を見つめる。


店主は一瞬考え、陽動作戦を決行することに決めた。


「お前に頼みがある」

店主はラグナルに向き直った。


「駐屯地の西側で小さな騒ぎを起こしてくれ。その間に俺は文書庫に侵入する」


ラグナルは少し驚いたがすぐに笑った。

「なるほどな……俺も軍人だからな。王国のためになるなら手伝ってやるよ」


ラグナルは駐屯地の西側へと向かい、店主は東側の影に身を潜める。


しばらくすると——


「おい! 何をしている!?」

「誰か侵入者か!?」


駐屯地の西側で騒ぎが起こり、兵士たちが次々とそちらへ向かっていく。


(今だ……!)


店主はすばやく影から抜け出し機密文書庫のある司令室へと向かった。


廊下には誰もいない。


店主は静かに歩を進め、司令室の奥の鉄扉の前に立つ。


(……この鍵で開くか?)


鍵穴に複製した鍵を差し込み、慎重に回す。


カチリ——


扉がわずかに軋み、静かに開いた。


店主は素早く中へ滑り込み扉を閉める。


文書庫の中にはずらりと並ぶ書類棚があった。

軍の重要な記録が保管されている部屋——その奥にヴィクトールの動きを示す証拠があるはずだ。


(時間がない……急げ)


店主は棚を一つずつ調べ、ベルハルト中佐の関与する書類を探した。


数分後——


「……あった」


店主は一冊の厚い帳簿を手に取った。


そこには王国軍の正式な予算とは別に、ヴィクトール侯爵が独自に軍を動かしている証拠が記されていた。

軍備の購入履歴、雇われた傭兵の名、そして指揮官ベルハルト中佐の直筆の命令書……。


「これは……」


さらに、帳簿の最後にはヴィクトール本人の署名がある文書があった。


それは王国軍の正式な命令を偽装し、ヴィクトールの私兵を「国の防衛部隊」として動かしていた証拠だった。


「これならロイゼル准将も動くしかない……!」


店主は素早く書類をまとめ懐にしまう。


だが、その瞬間——


「誰だ!」


背後から鋭い声が響いた。


振り向くとそこにはベルハルト中佐の側近の一人、オーウェン少尉が立っていた。


「侵入者か……いや、待て……お前は……!」


オーウェンの目が驚きに見開かれる。


「くそっ、バレたか……!」


店主は素早く走り出し部屋を飛び出した。


「待て! 捕えろ!」


オーウェンが叫ぶと数人の兵士が駆けつける。


店主は狭い廊下を駆け抜けながら近道を探す。

駐屯地の外へ出られれば勝ちだが出口は警備が厳しい。


(このままでは逃げ切れない……!)


その時、廊下の角からラグナルが現れた。


「こっちだ!」


ラグナルは扉を開き手招きする。


店主は迷わず飛び込みラグナルが扉を閉める。


「こいつを使え!」


ラグナルは軍服の上着を店主に投げた。


「軍服を着て兵士のフリをすれば駐屯地の裏門から出られる!」


「助かる!」


店主は素早く軍服を羽織り、帽子を目深に被る。


ラグナルとともに兵士たちの間を通り抜け裏門へ向かう。


門番に軽く敬礼すると特に疑われることなく通過できた。


(……成功した)


店主は裏通りへと抜け暗闇の中へと消えた。


翌朝、店主は王城へと向かいロイゼル准将に会った。


「証拠は手に入れた」


机の上に書類を広げるとロイゼルの表情が険しくなった。


「これは……王国軍の正式な命令を偽装している……」


ロイゼルは帳簿をめくり、ベルハルト中佐の署名を確認する。


「これだけの証拠があればヴィクトールの動きを止めることができる。軍内部で動きを封じ、彼の権限を制限することも可能だ」


店主は静かに頷いた。


「この証拠をどう使うかはあなた次第だ」


ロイゼルはしばらく考え込み、やがて決意した表情を見せた。


「……王国軍はヴィクトールを許さない。すぐに軍内で動きを取る」


「ありがとう、ロイゼル准将」


店主は静かに頭を下げた。


軍内部での動きが確定した今、次のステップはヴィクトールに直接圧力をかけることだった。


店主はルシアスとセレスに報告するためにカフェに向かった。

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