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第七十八章:闇に隠された証拠

店主は王城近くの駐屯地へと足を運んだ。

軍内部におけるヴィクトールの影響を暴くためには、ベルハルト中佐が握る情報を掴む必要がある。


ジェフリーから手に入れたリストには、ベルハルトが最近接触した軍人や傭兵の名が並んでいた。

そこには明らかに不審な動きをしている者たちの名前がいくつか記されている。


「こいつらの中にヴィクトールの私兵を統括している人物がいるはずだ……」


店主は駐屯地の近くに立ち建物の様子を伺った。

門番は二人、武装した兵士たちが常に巡回している。正面突破はやめた方がよさそうだ。


「……ならば、内側から情報を引き出すしかないな」


彼は以前カフェに通っていたラグナル伍長のことを思い出した。

ラグナルは駐屯地の管理を担当しており内部の動きにも詳しい。

もし彼が今も変わらず公正な軍人であるなら協力を得られる可能性がある。


店主は駐屯地の裏手へ回り、見張りのいない場所を選んで敷地内へと忍び込んだ。

すぐに人気のない倉庫へと身を潜める。


しばらく待つと夜の巡回が始まり兵士たちが入れ替わる。

そのタイミングを見計らい店主は倉庫の影から現れた。


「……ラグナル、いるか?」


低く囁くと奥から鋭い目つきの男が姿を現した。

軍服を着崩したその男は一瞬警戒したが、店主の顔を見て驚いた表情を浮かべる。


「お前……カフェの店主じゃないか。どうしてこんなところに?」


「お前に頼みがある」


店主は素早くヴィクトールの動きとベルハルト中佐の不審な動きについて説明した。


ラグナルはしばらく考え込んだ後、小さく息を吐いた。


「……ベルハルトの動きが怪しいとは思っていた。だが、軍の中では誰も明確な証拠を掴めていないんだ」


「お前ならそれを見つけることができるか?」


「簡単にはいかないが……一つだけ心当たりがある」


ラグナルは低く声を落とした。


「ベルハルトが頻繁に使う“機密文書庫”がある。そこに軍の命令書や取引の記録が保管されているはずだ」


「場所は?」


「駐屯地の地下、作戦司令室の奥にある小部屋だ。ただし警備は厳しいし、鍵も軍の高官しか持っていない」


店主は腕を組みながら考え込む。


「鍵を持っているのは誰だ?」


「ベルハルト本人と数名の側近だけだ」


「つまり鍵を手に入れるか、別の方法で中に潜り込むしかない……」


店主は小さく笑った。


「そっちは俺がなんとかする。お前はもしもの時のために外で見張っていてくれ」


ラグナルは苦笑した。


「お前、軍人じゃないのになかなか肝が据わってるな」


「カフェを守るためだからな」


ラグナルはしばらく考えた末に頷いた。


「いいだろう。協力してやる。ただし見つかったら俺は知らないぞ」


「それでいい」


店主は素早く倉庫を抜け出し機密文書庫への侵入計画を立て始めた。


機密文書庫へ入るには鍵を手に入れる必要がある。


店主はジェフリーのリストに載っていたベルハルトの側近の一人、オーウェン少尉に目をつけた。

彼は警備の緩い時間帯に宿舎に戻ることが分かっている。


「少尉から鍵を奪う……いや、それではすぐにバレるな」


店主は慎重に動くことにした。

オーウェン少尉が駐屯地の酒場へ行くタイミングを狙い、酒に酔った彼を巧みに誘導して隙を突いて鍵を複製する計画を立てた。


翌晩、店主は駐屯地近くの酒場でオーウェン少尉が来るのを待った。

しばらくすると酔いの回った少尉が数人の部下とともに入ってくる。


店主は慎重に近づき偶然を装って彼と会話を交わした。


「お前は……カフェの店主じゃないか?」


「久しぶりだな、オーウェン。今夜は奢らせてくれよ」


「おう、それはありがたいな!」


店主は巧みに酒を勧めオーウェンの意識が緩むのを待った。

やがて少尉が酔いに任せてコートを脱ぎ、腰にぶら下げていた鍵をテーブルに置く。


(……今だ)


店主は巧みに鍵を取り上げ、手の中で素早く型を取る。

それが済むと何食わぬ顔で鍵を元の位置に戻した。


「おい、店主……もう一杯持ってこい……」


「もちろんだ」


店主は笑顔を作りながら立ち上がった。

鍵の複製ができればあとは機密文書庫に忍び込むだけだった。


鍵の準備が整ったところで店主は次の行動に移った。

ガルシウスの名を借りロイゼル准将へ面会を申し込むのだ。


王城の軍本部でロイゼル准将と対面した店主はカフェの存続をかけた戦いのこと、ヴィクトールの私兵についての疑惑を語った。


「……つまり、私に協力しろと言うのか?」


ロイゼルは鋭い視線で店主を見つめる。


「貴方のような実務派の軍人なら王国がヴィクトールの私利私欲に支配されることを望まないはずだ」


店主は毅然と言い放つ。


「証拠があれば貴方は動くと言った。ならば、我々はその証拠を掴みに行く」


ロイゼルは沈黙し、やがて小さく頷いた。


「……よかろう。証拠を持ってこい。それが本物なら軍を動かす準備をしよう」


「感謝する」


店主は静かに頭を下げた。


こうして、店主はベルハルト中佐の秘密を暴く準備を整えた。

機密文書庫への潜入、そしてロイゼル准将を動かすための証拠集め。


これが成功すればヴィクトールの計画を揺るがせることができる。

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