第七十五章:逆転の戦略
ルシアスがカフェに戻った時、店主とセレスはすでに彼の帰りを待っていた。カウンターには整理された帳簿が並べられ、テーブルにはいくつかの書類が広げられている。ルシアスがいない間、彼らも王国にとってカフェが不可欠であることを証明するために動いていたのだ。
「どうだった?」
セレスが真っ先に声をかけた。
ルシアスは静かにカウンターに腰掛け今までのことを説明する。
「三日間でこのカフェの価値を証明しろ。それがヴィクトールの条件だ」
店主は深く息を吐き、腕を組んだ。
「……つまり、単に存続を願うのではなく、明確な形で王国にとって利益のある場所だと示す必要があるわけだな」
「そういうことだ」
ルシアスは淡々と答えながらテーブルの書類に目を向けた。
「お前たちは何を調べていた?」
「ここ最近のカフェの利用者についてまとめていたのさ」
店主は手元の帳簿を指で弾いた。
「ここを利用する商人の数、軍関係者の訪問頻度、交易における影響……思った以上に、このカフェは王都の経済にとって大きな役割を果たしていたよ」
ルシアスは帳簿をめくり書かれた内容をざっと確認する。
「確かに……王都に出入りする商人たちの多くがここを利用しているな。取引の場にもなっているし情報交換の要にもなっている」
セレスが手元の書類を取り上げながら口を開いた。
「それに私たちが話を聞いた商人の何人かは、このカフェがなくなると困るって言ってたわ」
「当然だな」
ルシアスは冷静に言った。
「交易路の途中にあるこのカフェは単なる休憩所ではない。商人たちが集まり、情報を共有し、取引を決める場所でもある。王国がこの店を潰せば商人たちの不満が高まる」
店主が顎に手を当てながら考え込む。
「となると、我々がやるべきことは明確だな」
「そうだ」
ルシアスは力強く頷いた。
「三日間でこのカフェの存続が王国の利益になると証明する」
セレスは少し戸惑いながらも質問する。
「具体的に何をすればいいの?」
ルシアスはしばし沈黙した後、指を一本立てた。
「まずは商人たちの支持を取り付ける」
「すでにいくつかの商人はこの店の存続を望んでいるが、より多くの支持を得る必要がある」
店主が頷く。
「つまり、この店がなくなったら困ると公に発言してもらうわけだな」
「そういうことだ」
ルシアスはさらに指を二本立てた。
「次に軍関係者への働きかけだ」
「軍?」
セレスが意外そうな顔をする。
「王国軍の一部はすでにヴィクトールと繋がっているが、それ以外の将軍や士官たちにとってもこの店は利用価値がある」
店主が補足する。
「実際、休憩や打ち合わせの場として利用している軍人も少なくない」
「ならば、彼らにこのカフェの存続を支援してもらえばいい」
ルシアスは腕を組み最後に三本目の指を立てた。
「そしてヴィクトールに対して直接的な牽制を仕掛ける」
「牽制?」
「ヴィクトールはこのカフェを潰して交易を支配しようとしているが、その計画に対して“商人と軍の双方が反対している”という状況を作り出せば彼は無理に押し通せなくなる」
セレスが目を輝かせる。
「それってつまりヴィクトールの計画を妨害するってこと?」
「そういうことだ」
ルシアスは不敵に笑った。
「彼にとってこのカフェの存続が王国にとって利益になるどころか、潰すことが不利益になると理解させれば彼は自らこの命令を取り下げるしかなくなる」
店主はニヤリと笑った。
「……面白いな。ならば、早速動き出すか」
「問題は時間だ」
ルシアスは鋭い目を向ける。
「三日間しかない。どれだけ動けるかが勝負だ」
セレスが拳を握りしめる。
「やるしかないね!」
ルシアスは立ち上がり店主とセレスを見回した。
「三つの作戦を同時進行で進める」
1.商人たちの支持を公にするための動き
2.軍関係者への働きかけ
3.ヴィクトールの計画を揺るがせるための情報収集と牽制
「セレス、お前は商人たちへの交渉を頼む。できるだけ多くの商人にこのカフェの価値を公に認めさせろ」
「分かった!」
「店主、お前は軍人たちの動きを探れ。特にヴィクトールとは関係がない高官や士官を探し協力を仰ぐんだ」
「任せろ」
「俺はヴィクトールの計画の綻びを探しに行く。影で動いている勢力を暴き直接的な圧力をかける」
ルシアスは店の扉を開け、冷たい夜風を感じながら静かに言った。
「三日間……決着をつけるぞ」
そして、彼らの戦いが本格的に始まった。




