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第六十六章:初めての提供

「……本当に出すのか?」


翌日、ルシアスはカウンターの奥で腕を組みながら店主を見つめた。


「お前が作ったんだから、お前が出すんだろ?」


店主は軽く笑いながら答える。


「いや、そういうことではなく……」


「もうオーダー入ったよ!」


セレスが注文票を持ってカウンターに走ってくる。


「えっ、本当に?」


「うん!『新メニューって書いてあったから試してみたい』って!」


「……なるほど」


ルシアスは自分の前にあるガトーショコラの生地を見つめる。

昨日焼き上げたものを適度に冷やし、食べやすいサイズに切り分けていた。

粉砂糖を軽くふりかけ、仕上げにカフェ特製のクリームを添える。


「お前が出せばいいだろう?」


店主が軽く言うとルシアスは眉をひそめる。


「俺が運ぶのか?」


「自分が作ったものを自分の手で提供するのがここでは普通のことだ」


「ふん……」


ルシアスはカウンター越しにセレスを見る。

彼女は期待に満ちた表情で頷いた。


「……分かった」


ルシアスはプレートを手に取り、客の席へと向かった。


客は中年の男性と若い女性だった。

楽しそうに話しながらくつろいだ様子で店内を眺めていた。


「お待たせしました」


ルシアスは淡々とした口調でガトーショコラを置く。


「おお、新メニューのやつか!」


男性の方が目を輝かせる。


「すごくいい香り……」


女性の方も嬉しそうに息を吸い込んだ。


「カカオの風味を最大限に活かすようにしました」


「へぇ……こんなに濃厚な香りははじめてです。すごいですね!」


「……まぁな」


ルシアスは少しだけ誇らしげに口元を引き締めた。


「じゃあ、さっそく……」


女性がフォークを手に取り、ガトーショコラを口に運ぶ。


「……!!」


彼女の目が大きく見開かれる。


「すごい……! しっとりしてて、口の中でとろける……」


男性も一口食べると驚いたように頷いた。


「これはすごいな……カフェで出るレベルじゃないぞ」


「えっ、本当?」


セレスが嬉しそうに近づいてくる。


「このチョコレートの苦味と甘さのバランスが絶妙だし、クリームがまた合う……」


女性はうっとりとした表情で続ける。


「誰が作ったんですか?」


「彼よ!」


セレスが自慢げにルシアスを指差す。


「えっ、この方が?」


女性が驚いた顔でルシアスを見る。


「……俺が作った」


「すごい……お店の人かと思ったら!見た目はすごく戦士っぽいのに……!」


「まぁ、そういう事情があってな……」


ルシアスは何となく視線を逸らした。


「でもこんなに美味しいスイーツを作れるなんてすごく意外です!」


「……意外、か」


ルシアスは小さく呟いた。

自分が作った料理を誰かが“美味しい”と言ってくれる。

それがこんなに違和感なく受け入れられるとは思わなかった。


「ルシアス、すごいじゃない!」


セレスが笑顔で言う。


「……ふん、当然だ」


ルシアスは少し照れくさそうにカウンターへ戻る。


「どうだった?」


店主がカップを拭きながら尋ねる。


「……悪くないな」


ルシアスは静かに答えた。


「ふふっ、やっぱりルシアスも料理好きになってきたんじゃない?」


セレスがからかうように言うとルシアスは肩をすくめた。


「料理は面白いが、まだ好きとは言えん」


「じゃあ、もっと作ってみたら?」


「……そうするか」


ルシアスは静かに微笑んだ。

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