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第六十五章:デザート

「デザート……か」


ルシアスはカウンターの奥で腕を組みながら考え込んでいた。


スープ、オムライスと挑戦し、思った以上に上手くいった。

次は甘いものに挑戦するという流れになったが、正直なところ甘味というものに対して特別な関心を持ったことはない。


それなのに──


「ルシアスがデザートなんてねぇ……」


セレスが興味津々にこちらを覗き込んでいる。


カフェの隅でくつろいでいる彼女の姿を見て、ふとパンケーキを頬張っていた時の表情を思い出す。

あの時の満足そうな顔が妙に記憶に残っていた。


「……フン、甘いものは戦場では不要だったがここでは違う」


「まぁ、戦場でケーキ食べてる余裕なんてないしね」


セレスがくすっと笑う。


「デザートはカフェの要だからな」


店主が軽くカウンターに寄りかかりながら言う。


「それに、セレスが美味しそうに食べていたのを見て少しは作ってみたくなったんじゃないか?」


「……違う」


ルシアスはそっけなく答えるがどこか視線をそらした。


店主はそんな彼の態度を見て、くくっと笑う。


「じゃあ、まずは何を作るか決めないとな」


「デザートと言っても色々あるけど……どうする?」


セレスが興味津々にルシアスを見つめる。


「……甘すぎるものは好きではない」


「それなら、ちょっと大人向けのスイーツにするか?」


店主が提案する。


「例えばビターなチョコレートを使ったデザートとか?」


「チョコレート……」


ルシアスは少し考え込む。


「チョコレートなら甘さの調整もできるしな。カカオの苦みを活かせば甘ったるくなりすぎない」


「なるほど……それならいいかもしれない」


「じゃあ、シンプルにガトーショコラにするか?」


「ガトーショコラ?」


「チョコレートとバター、小麦粉、卵を使った焼き菓子だ。しっとりと濃厚な口当たりで大人の味にもできる」


「それなら作ってみよう」


ルシアスは即座に決断する。


「おっ、やる気だね!」


セレスが嬉しそうに声を上げた。


「では、さっそく始めるか」


ガトーショコラへの挑戦


「まずは材料の準備からだ」


店主が材料をカウンターに並べる。


「チョコレート、バター、砂糖、卵、小麦粉……」


ルシアスは一つ一つの材料を手に取りながら確認する。


「チョコレートはしっかりと湯煎で溶かす。バターも一緒に溶かして滑らかにするんだ」


「ふむ……」


ルシアスは小さな鍋に湯を張り、その上にボウルを置く。


チョコレートの塊を入れると、ゆっくりと溶けていく。


「この工程はなかなか興味深いな……」


「火魔法で一気に溶かしたら?」


セレスが冗談めかして言うとルシアスは苦笑した。


「そんな雑なことはしない」


「ちゃんと料理に向き合ってるってことね」


セレスは感心したように微笑む。


次に、卵と砂糖をボウルで混ぜる工程に入る。


「ここで空気を含ませることで焼き上がりがふんわりするんだ」


店主が手本を見せながら説明する。


ルシアスはボウルを持ち泡立て器を動かし始める。


「……これ、結構腕にくるな」


「まぁ、ずっと戦ってきた魔王様なら余裕でしょ?」


セレスがニヤリと笑う。


「……当然だ」


ルシアスは淡々と混ぜ続けるがやはり地味に腕が疲れてくる。


「よし、次に溶かしたチョコレートを加えて混ぜる」


ルシアスは慎重にボウルの中へチョコレートを流し込む。


「混ざってきたら小麦粉をふるいにかけて加えるんだ」


粉を入れると生地が次第にもったりとした質感に変わっていく。


「おお、なんかそれっぽくなってきた」


セレスが嬉しそうに見守っている。


「さて、型に流し込んでオーブンで焼くぞ」


店主がオーブンの温度を調整する。


ルシアスは生地を慎重に型に流し入れ、表面をならしてオーブンへ。


焼き上がりと試食


「30分ほど焼けば完成だな」


オーブンの中で生地がふくらみ始める。


カフェの中にはチョコレートの甘く香ばしい香りが広がった。


「うわぁ……いい匂い……」


セレスがうっとりとした表情で香りを楽しんでいる。


ルシアスはその姿を横目で見ながらふと口元を緩めた。


「そろそろ焼き上がるぞ」


店主がオーブンを開けるとふんわりと膨らんだガトーショコラが姿を現した。


「おお……」


ルシアスは思わず感嘆の声を漏らす。


「いい感じじゃない!」


セレスも目を輝かせている。


しばらく冷ましてから一口サイズに切り分け粉砂糖を軽くふりかける。


「では、試食だな」


ルシアスがフォークを手に取る。


「んんっ……!!」


セレスが一口食べると目を大きく見開いた。


「しっとりしてて、濃厚……! でも甘すぎなくてすごく食べやすい!!」


「ほう……」


ルシアスも自分の作ったガトーショコラを口に運ぶ。


──たしかに、悪くない。


「これは店のメニューに加えてもいいかもしれないな」


店主が満足げに頷く。


「ルシアス、すごいじゃない!」


セレスが嬉しそうに笑いながら言う。


ルシアスは照れ隠しのようにそっぽを向きながら静かに呟いた。


「まぁ……食べるなら、また作ってやる」


「えっ、本当!?」


「俺が作る以上、完璧なものにしなければならない」


──だが、それ以上の言葉は飲み込んだ。


カフェの空気は、どこか甘い香りとともに穏やかに満ちていた。

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