第百二十七章:ミリア、実験台になる
カフェ・アルカディアの厨房の奥、ルシアスの作業台には様々な魔道具が並べられていた。通信魔道具のクリスタルが微かに光を放ち、スキンケアローションの瓶には淡い金色の液体が揺れていた。
「さて、試作品が完成したわけだが——」
ルシアスは悪戯っぽく口元を緩めてミリアを見た。
「ミリア、お前に試してもらうぞ。」
「えっ!? なんで私が実験台なの?」
ミリアは驚いた表情を見せる。
「お前が一番リアクションが分かりやすいからだ。」
ルシアスは笑いをこらえつつ答えた。
「ひどい!」
「まぁ、嫌なら他を探すが……。」
「いや、やる! どうせなら私が一番に体験して宣伝に役立てるんだから!」
ミリアは拳を握りしめて商人としての気合を入れた。
「よし、ではまずこれだ。」
ルシアスが差し出したのはペアリング型通信魔道具だった。小さなクリスタルがペアになっていて淡い青い光を放っている。
「この魔道具は1日1回1分間だけだが、1,000キロ以内なら連絡が取れる。さぁ、試してみろ。」
「えっと、どうやって使うの?」
「簡単だ。手で握って相手のことを思い浮かべて念じるだけでいい。」
ミリアはクリスタルを手に取って誰を思い浮かべようかと考えた後、ふとレイヴンの顔が頭をよぎった。
(べ、別にそんな意味じゃないからね!ただ一番近くにいたから……!)
「……んんっ!」
ミリアが目を閉じて念じた瞬間、もう一つのクリスタルがカフェの奥で光を放った。
「——っ!?」
「お、おい!」
突然光を放ったクリスタルに驚いてレイヴンが飛び上がった。周囲の皆が驚いて彼を見つめる中、レイヴンはクリスタルを手に取った。
「えっ、これってもしかして……ミリア?」
「うわっ!声が聞こえた!」
ミリアは目を開き、驚きと喜びで声を上げた。
「お、お前……俺に繋いできたのか……?」
レイヴンは驚いていた。
「いや、別に深い意味はないってば!ただの実験だし!」
ミリアは少し慌てた様子で答える。
周囲の視線が微妙に意味ありげになり二人は目を逸らした。
「ふっ、どうやら通信魔道具は問題なさそうだな。」
ルシアスは笑いをこらえながらメモを取った。
「さて、次はこれだ。」
ルシアスが次に差し出したのは二日酔い回復ドリンクだった。琥珀色の液体が小さな瓶に収められている。
「えっ、でもお酒飲んでないよ?」
「心配するな。ただのハーブ飲料だから害はない。味の確認をしてくれればいい。」
「そ、そう?じゃあ、いただきます!」
ミリアは瓶の栓を開けて一口飲んだ。
「んっ……!?」
「どうだ?」
「なんだか体がポカポカしてきた……これ、本当に二日酔い用?普通に元気になるんだけど!」
「副次効果として疲労回復効果もあるからな。飲みすぎた翌朝だけじゃなく、疲れた時に飲んでも効果がある。」
「これなら絶対に売れるよ!」
ミリアは目を輝かせた。商人として確信した目だった。
「よし、最後だ。」
ルシアスが取り出したのはスキンケアローション《アルカディア・ミスト》だった。透明な瓶に金色の液体が輝いている。
「肌に直接つけてみろ。乾燥にも効くし魔力を含んでいるから血行も良くなる。」
「はーい!」
ミリアは両手にローションを垂らし頬に塗ってみた。
「わぁ……!スッと馴染んでべたつかないしほんのり温かい!」
「ハーブの香りが心地いいだろう?」
「うん!これなら冬の乾燥にも困らなさそう!」
「ふむ、よし、これで全てのテストが完了だな。」
ルシアスは満足げに頷いた。
「うん!どれも本当に使いやすくて便利だった!」
「宣伝のためには、お前が実際に体験した感想を祭りでも話すといいだろう。」
「任せて!これでカフェ・アルカディアの名前をもっと広めるんだから!」
ミリアの元気な声に、皆が笑みを浮かべた。
***
その夜、カフェ・アルカディアの庭ではシルヴァが静かに月を見上げていた。
ミリアはその隣に座り、レイヴンも無言で横に立っていた。
「ねえ、今日はちょっと恥ずかしかったな……。」
「通信魔道具のことか?」
「う、うん。なんかびっくりしちゃったかも……。」
ミリアはもやもやした気持ちになっていた。
レイヴンは少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐに視線を逸らした。
「……それなら、これからも必要な時はいつでも使えばいい。」
「えっ?」
「お前の声が聞こえるのは悪くないからな。」
「っ……!」
ミリアの胸が一瞬で高鳴った。
「べ、別にただの実用性の話だし!レイヴンって本当に意地悪。」
ミリアは頬を膨らませたが、心の中はなぜか温かかった。
月の光に照らされる庭で、シルヴァが「くぅん」と小さく鳴き、二人を優しく見守っていた——。




