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第百二十三章:999,910

遺跡の奥深く、ひっそりと佇む広間。

騎士とその妻がこれから出産をするフェンリルと生まれてくる子を守るために静かに祈りを捧げていた。


しかし——


外では遺跡の入り口には不穏な気配が漂い始めていた。


「奴らがこちらに向かっている。」

レイヴンが低く呟く。彼は壁際に身を潜めながら遺跡の入り口を鋭い目で見つめていた。


「何人くらい?」

セレスが静かに尋ねる。


「少なくとも十数人。正面から強行突破を狙ってくるのと、裏道にも二手に分かれて潜入しようとしている。」


「結構な人数ね。でも、それなら私たちで十分対処できるわ。」

セレスは腰の剣をゆっくりと抜いた。その剣はかつて魔王を討つために鍛え上げられたもの——勇者の象徴だった。


「正面はセレスに任せて、裏道はレイヴンが制圧する感じだね!」

ミリアが物陰に隠れながら言った。


「あぁ、だが油断はするな。敵はただの山賊や盗賊じゃないはずだ。フェンリルの子を狙うためにそれなりの準備をしているはずだ。」


「……つまり?」


「おそらくフェンリルにも通用するような強力な魔道具をいくつも持ち込んでいる可能性がある。」


「なるほどね。でも、どんな魔道具が来ようと関係ないわ。」

セレスは笑った。

「さっさと片付けましょう。」


レイヴンはそんな彼女を見てかすかに笑う。

「頼もしいことだ。」


——ガンッ!


その時、遺跡の正面扉が強引に蹴破られた。


「剣を持った女?男爵家の騎士だけじゃないのか?だが関係ない。フェンリルの子を渡してもらおうか!」


黒いフードを纏った男たちが次々と遺跡の中に雪崩れ込んできた。


しかし——


次の瞬間、突進してきた男の一人が音もなく吹き飛んだ。


「ぐああっ!」


「何……?」


突如として侵入者の目の前に現れた女性は金色のオーラを放っていた。


「反応が遅いわね。」

セレスが剣を振るいながら不敵な笑みを浮かべていた。


「なんだかこういうの久しぶりね。さぁ、相手してあげるわ。」


男たちの顔に一瞬、恐怖が走った。


「待て……! この女、ただ者じゃない……!」


「こいつ……まさか……!!」


「あぁ、おそらく勇者セレス……!」


「あら?今の私は“元”勇者よ。」

セレスは淡々と言い放つ。

そして次の瞬間、剣の一閃が轟いた。


ズバンッ!!


「ぐあああ!!」


男たちは吹き飛び壁に叩きつけられる。


「やっぱりセレスは強すぎる……。」

ミリアが呆れたように言った。


しかし——


「……アレを使う!」


男は懐から赤黒い魔道具を取り出した。


「多重封鎖結界——発動!!」


次の瞬間、遺跡内に赤い光が広がりセレスの体が一瞬だけ鈍く光った。


「なにかしら……?」


「この結界は対象を大幅に弱体化させるものだ。たとえ神獣フェンリルの力でさえ制限される。お前も例外ではない。」


セレスの動きが一瞬、止まった。


「……なるほどね。」


ミリアが焦る。

「セレス、大丈夫!?」


「ええ。でも私には関係ないわ。仮にも勇者だった私をみくびらないで。」


セレスはゆっくりと剣を構えた。


「——弱体化とは言ってもこれは対フェンリル用に用意した引き算方式の弱体化の結界ね。」

取るに足らない相手を見るような目つきでセレスは言った。


「そうね。フェンリルが100くらいの実力だとしてその魔道具で90を封じたら10の力しか出せなくて大変になるんだろうけど…… 」


「1,000,000の実力の90を封じても999,910の力は出せるのよ。もしかして魔道具をあと1万個くらい持ってきてたりするのかな?」


男たちは戦慄する。


「この女……化け物か!?」


***


一方、レイヴンは遺跡の裏道に潜み敵の動きを冷静に観察していた。


「——3、2、1……今だ。」


次の瞬間、レイヴンの姿が闇に溶ける。


「うぐっ……!?」


「何……? 誰かが……!」


レイヴンは静かに音もなく敵を一人ずつ仕留めていく。


「ぐはっ……!」


「くそっ……どこから……!」


しかし、姿は見えないし音も聞こえない。


「こ……こんなの……戦えるわけが……!」


男たちは恐怖に震え始めた。


「さて、残りは……あと五人か。」


レイヴンはナイフを逆手に持ち直しさらに暗闇に紛れた。


「ひぃっ……!」


「さぁ、狩られる側の気分はどうだ?」


次の瞬間——


「うわああああ!!」


敵の悲鳴が遺跡の闇に響き渡った。


***


「ぐっ……! くそっ……!」


セレスが敵のリーダーを踏みつけて抑え込んでいた。


「フェンリルの子を狙うなんて……貴方たち、本当に最低ね。」


「た、助けてくれ……!!」

男は恐怖に震えていた。


「——殺すか?」

レイヴンの冷たい言葉に、男は叫んだ。


「いや、ま、待ってくれ……!」


「まあまあ、ここで血を流すのはやめようよ。」

ミリアが苦笑いしながら言う。

「でも、こいつらには二度とこんなことをできないように、しっかりと報いを受けてもらわないとね!」


レイヴンが静かに男の目を覗き込んでからミリアに微笑む。

「俺も丸くなったな。こいつは衛兵にでも突き出すか。」


「さあ、行くわよ。」

セレスが剣を収める。


「フェンリルの子供は無事?」

ミリアが騎士夫婦に尋ねる。


騎士の妻は微笑んだ。


「ええ、無事よ。生まれたばかりのフェンリルはすぐには動けないけど今は静かに眠っています。」


「よかった……!」

ミリアは嬉しそうに笑顔でレイヴンとセレスを見た。


こうして、彼らはフェンリルとその子供を守り抜いた——

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