第百二十二章:遺跡の秘密
「……で、その遺跡に行きたいって?」
店主は呆れた表情でミリアを見つめた。
「そうだよ!」
ミリアは力強く頷く。
「騎士とその奥さんが行方不明になっているなら助けに行かないと!」
「だが、どこまで本当の話かも分からんだろ。」
エヴァンが腕を組む。
「単なる噂かもしれないし、もしかしたら既に戻ってきているかもしれん。」
「そうね。でも、もし本当に何か異変が起きているとしても、私たちなら解決できるかもしれないでしょ?」
ミリアはどうしても行きたいようだ。
「……お前は本当に厄介ごとを拾うのが得意だな。」
ルシアスが小さく笑う。
「でも、ミリアの言うことも一理あるわ。」
セレスが静かに言った。
「放っておくのも気になるし……何かの事件が起こっているなら今動くべきかもしれない。」
「まぁ、ミリアが行くと言ったら誰が止めても聞かんだろうしな。」
ルシアスが肩をすくめた。
「……ならば、せめて同行者は慎重に選べ。」
「私は行くわ。」
セレスが即答した。
「俺も行こう。」
レイヴンが静かに名乗りを上げる。
「レイヴン?」
ミリアが驚いたように振り返る。
「……ミリアが行くなら俺もついて行った方がいいな。」
レイヴンは淡々とした声で言う。
「お前はよくも悪くも考えるより先に動くタイプだ。俺がいれば多少なりとも危険を避けられるだろう。」
「レイヴン……!」
ミリアは嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、お前が行くなら安心だな。」
エヴァンが少し笑いながら言う。
「遺跡探索ならレイヴンが一番向いてるからな。」
「セレスもいるなら万が一ということもないだろうが念のため気をつけろよ。遺跡は長年放置されていて崩れかけてる場所もあるはずだ。」
店主が忠告する。
「了解! すぐに準備して出発しよう!」
こうして、ミリア、セレス、レイヴンの三人は“銀狼の遺跡”へと向かうことになった。
***
王都を離れ、森の奥へ進むと、“銀狼の遺跡”と呼ばれる古びた城跡が姿を現した。
「これが銀狼の遺跡……!」
ミリアは目を輝かせながら見上げた。普段は冒険と縁がなかったミリアはとても楽しそうだ。
巨大な石造りの遺跡は年月を経て苔むしており、崩れた壁や朽ちた塔が静かにたたずんでいる。
しかし、その荒廃した姿にもかかわらずどこか神聖な雰囲気が漂っていた。
「これは……。」
レイヴンが目を細める。
「何か感じたの?」
セレスが尋ねる。
「遺跡の中に誰かがいる気配がある。」
レイヴンは地面にしゃがみ注意深く足跡を確認する。
「それと足跡があるな。おそらく二人分……。」
「騎士と奥さんのもの?」
ミリアが身を乗り出す。
「おそらくな。でもそれだけじゃない。」
レイヴンの目が険しくなる。
「大きな獣のような足跡もあるな……しかも、これは……」
「狼……?」
セレスが呟いた。
「でも狼にしては大き過ぎる……。」
「行こう。慎重にな。」
レイヴンが合図を出して三人は遺跡の奥へと進んだ。
遺跡の中は静寂に包まれていた。
崩れかけた回廊を進むと奥の広間には暖かな光が差し込んでいた。そして——
そこにいたのは、一組の男女。
騎士とその妻だった。
「いた!」
ミリアが駆け寄ろうとする。
しかし、レイヴンが素早く手を伸ばして彼女を制止した。
「……待て。」
「えっ?」
「様子がおかしい。」
騎士と妻は驚いた様子でこちらを振り返った。
「あなたたちは……?」
騎士が警戒心を滲ませながら尋ねる。
「王都であなたたちが行方不明になったって聞いて探しに来たの!」
ミリアが答える。
騎士とその妻は少し困ったような表情を浮かべた。
「……そうか。だが、私たちはここに用があって滞在している。帰ることはできない。」
「え、どういうこと?」
ミリアは二人がここで何をしているのか気になってしょうがなかった。
「お前たちのことは知っている。カフェ・アルカディアの者だろ?そうだな、お前達なら話しても大丈夫か……」
騎士は少しだけ躊躇しそして静かに言った。
「ここは——フェンリルの巣だ。」
「フェンリル……?」
その名にレイヴンの表情が険しくなる。
「森の神獣の……?」
「そうだ。」
騎士は頷いた。
「この遺跡はかつてフェンリルが住んでいた場所。そして……今でも30年に一度、出産のために戻ってくる。」
「そんな場所にどうしてあなたたちはいるの?」
ミリアの疑問は深まる。
妻がそっと微笑んだ。
「それは、私たちの一族は代々フェンリルの出産を手伝ってきたの。」
「えっ!?」
ミリアとセレスが驚く。
「私の一族が代々仕えている男爵家の先祖が、昔この遺跡の近くで凶暴な魔獣に襲われたことがあってな。」
騎士が静かに話す。
「命の危機に瀕したその時にフェンリルが現れて助けてくれたんだ。フェンリルからしたらただの気まぐれだったんだと思う。ただ、それ以来フェンリルと時々交流するようになり、そして30年に一度フェンリルが出産する時期に手伝うことが一族の決まり事になったんだ。」
「そんなことが……。」
ミリアは神獣と交流する人達がいることに驚いた。
「フェンリルは強大な力を持つ神獣だ。しかし、出産の時だけは無防備になる。」
「だからあなたたちがここに?」
騎士が頷いた。
「フェンリルの安全を守るために我々は30年ごとにここで手伝ってきた。だが、今回……少し問題が起きている。」
「問題?」
ミリアが眉をひそめる。
「……生まれたばかりのフェンリルの子を狙っている奴らがいるみたいなんだ。」
「え?」
「ここ数日、遺跡の周囲をうろつく影があった。明らかにこの遺跡のことを調べている者たちがいる……。おそらくフェンリルの子供を手にいれようとしているんだと思う。大人のフェンリルを手懐けるのは魔道具を使っても不可能だが、子供ならできないことはないからな……。」
「そんな……!」
ミリアが息を呑む。
「フェンリルは生まれたばかりの時はまだほとんど力を持たない。強力な従魔の魔道具を取り付けて捕らえようとしているんだろう……。」
「そんなの許せない!」
ミリアが拳を握る。
「でも、どうして出産のことを他の人が知ってるの?」
「フェンリルのことは男爵家の中でも限られた人しか知らない秘密なんです。フェンリルのことを知っていてこんなことを考えるのはたぶん……。」
騎士の妻は少し悲しそうな顔をした。
「男爵家から4年前に追放された三男のミナスが関わっている可能性が高いと思います。お金使いが荒く何度も問題を起こしてミナスは当主に勘当されたんです」
「フェンリルが出産のために遺跡に戻ってくることを知っていて、こんなことを考えるのはミナスくらいしかいないだろう。」
騎士が怒りを我慢しながら話した。
「……最低。」
ミリアが呟いた。
「生まれたばかりのフェンリルの赤ちゃんを捕まえようなんて……絶対に許せない!」
セレスも静かに頷いた。
「あなたたちはどうするつもりなの?」
騎士は険しい表情を浮かべた。
「もちろん、守る。」
「しかし、問題がある。」
妻が続けた。
「私たち二人だけでは遺跡の中の防衛は限界がある。今のところ敵はまだ動いていないけれど……いつ襲ってくるか分からない。」
「だったら私たちも手伝う!」
ミリアが力強く言った。
「だって放っておけないでしょ?」
レイヴンが静かに笑った。
「まったくお前は……。ならばまずは敵の動きを探る。暗殺者として培った技術を見せてやろう。」
「さすがレイヴン!」
ミリアが目を輝かせる。
レイヴンは遺跡の外を見つめた。
「……ここからが本番だな。」
フェンリルの子供を守るため、
彼らは悪党どもとの戦いに挑むこととなった——。




