第百十九章:解呪
カフェ・アルカディアの温かな雰囲気に包まれる中、店主はふと真剣な表情に戻った。
「さて、レイヴンの歓迎も大事だがまだ解決しなければならない問題がある。」
「……呪刻のことか?」
エヴァンが静かに言った。
「ああ。」
店主は頷く。
ヴァルムトが商人たちに刻んだ“呪刻”——それは契約を強制し、商人たちの自由を奪う呪い。彼らはヴァルムトの影響下に置かれ王都の経済を徐々に蝕んでいた。
「俺が呪刻を解析する。」
ルシアスがゆっくりと立ち上がる。
「……できるのか?」
エヴァンが少し驚いたように聞く。
「当然だ。俺はかつて呪いを研究して利用してきた側だ。ヴァルムトごときの雑な術式なら解呪もそう難しくはないだろう。」
ルシアスは自信満々に言った。
「さすがは元魔王だな……。」
そして、店主は呪刻を刻まれた商人たちを店の奥へ案内した。
***
カフェ・アルカディアの地下室——。
そこには呪刻を刻まれた商人たちが上着を脱いで集められていた。彼らの肌には暗黒の刻印が浮かび上がり、まるで鎖のように彼らを縛っている。
「この呪いのせいで……自由に商売ができなくなってしまったんだ。」
一人の商人が苦しそうに呟く。
「どうか……助けてください。」
別の商人が懇願するようにルシアスを見つめる。
ルシアスは彼らを見渡し、フッと笑った。
「恐れるな。こんな呪い大したことはない。」
そう言って彼は手をかざした。
次の瞬間——
黒紫色の魔法陣が地下室の床一面に広がる。
「!!」
商人たちが驚きの声を上げる。
「解呪のための魔法陣だ。」
ルシアスが低く言った。
「お前たちに刻まれた呪刻を解析して契約の根源を断ち切る。」
ルシアスは詠唱を始めた。
「闇より生まれし束縛の鎖よ。我が名の下に解き放たれよ——」
魔法陣が輝きを増し、呪刻が淡く光り始める。
「ぐ……ぁぁっ!!」
商人たちは苦しそうに体を震わせる。
「問題はない……耐えろ。」
ルシアスの声が低く響く。
呪刻が次第に黒い靄となって浮かび上がり、魔法陣に吸い込まれていく。
「消えていく……!」
ミリアが驚きの声を上げた。
「呪刻が……消えた……!」
商人たちは涙を流しながら自分の腕を見つめる。
ルシアスはゆっくりと手を下ろした。
「これでお前たちはヴァルムトの呪縛から解放された。」
「……ありがとう!!」
商人たちは一斉にルシアスに向かって頭を下げた。
「これで自由に商売ができる!」
「もう言いなりにならなくていいんだ!」
歓喜の声が地下室に響き渡る。
「王都の商人たちが自由になればヴァルムトの影響力は一気に弱まる。これはグランヘイム王国にとっても大きな意味を持つだろう。」
エヴァンが嬉しそうに言った。
「ヴァルムトは今頃焦っているだろうな。」
レイヴンが腕を組んで呟く。
「まあ、当然だろうな。」
ルシアスが不敵に笑う。
「奴らの支配の鎖は俺たちの手で断ち切られたのだからな。」
***
解呪を終えた商人たちは感謝の意を示しながら一人、また一人と帰っていった。
「さて、ヴァルムトの計画はこれで完全に狂ったはずだ。」
エヴァンが満足そうに言った。
「王都の商人たちが自由になれば王都の経済も健全に戻る。王もこれを聞けば喜ぶだろう。」
「……ひと段落したし、報告に行かないとな。」
エヴァンが腕を組んで言う。
「ヴァルムトが王都の商人を支配しようとしていた証拠は十分に揃った。カイゼルの計画も潰えたから正式に王に報告しよう。」
店主がカフェの皆を見ながら言った。
「カイゼルを倒してヴァルムトの計画を阻止したのはレイヴン、お前の力もあったからだ。ありがとう。」
「……ああ。」
レイヴンは少しだけ微笑んだ。
「では明日、王宮へ向かうとしよう。」
ルシアスが軽く伸びをしながら言った。
***
翌朝、カフェ・アルカディアの店主たちは王宮へと向かった。
王宮の門前に立つと、近衛兵がすぐに彼らを迎え入れた。
「陛下がお待ちです。」
こうして、彼らはアウレリウス王の謁見の間へと足を踏み入れた。




