第百十五章:自白
「放せ! 俺を誰だと思っている!」
セドリック卿は近衛兵に取り押さえられながら必死に叫んでいた。
だが、その声に耳を貸す者はいない。
「往生際が悪いな。」
ルシアスが冷たい目でセドリックを見下ろす。
その目にはかつて世界を震撼させた魔王としての威圧が満ちていた。
「貴様らカフェ・アルカディアごときにヴァルムトの計画を崩させやしない!」
「ヴァルムトの計画、か……。」
ルシアスは不敵に笑った。
「では、その計画とやらを詳しく聞かせてもらおうか。」
そう言うと、彼は片手を軽く挙げる。
その瞬間——
黒紫色の魔法陣が床一面に展開された。
その場にいたすべての者が思わず息を呑む。
「な……何だ、これは……!?」
セドリック卿の顔が恐怖に染まる。
「これは俺がかつて世界を支配するために生み出した魔法の一つだ。」
ルシアスは淡々と言い放つ。
「この魔法で作られた領域では俺の問いに対して回答を拒むことができず、決して嘘もつけなくなる。」
「馬鹿な……!」
「試してみるか?」
ルシアスが軽く指を動かすとセドリックの体がまるで見えない鎖に絡め取られたように固まる。
「ぐっ……!!」
「さて、まずは貴様が知るヴァルムトの計画の全貌を聞かせてもらおう。」
セドリックは必死に抵抗しようとするが、口から言葉が漏れるのを止めることができなかった。
「ヴァルムト王は……グランヘイム王国の王家を滅ぼすつもりだ……。」
「……やはりな。」
エヴァンが険しい顔をする。
「王都の商業支配などただの手段に過ぎないということか。」
レイヴンが低く呟く。
「本当の目的は王を殺し、混乱に乗じてグランヘイム王国にヴァルムトの傀儡を王に据えること……。」
「そのための準備が進んでいるのか?」
ルシアスが冷たく尋ねる。
「……ああ。」
セドリックは苦しそうに頷く。
「カイゼルが……その計画を遂行するために新たな拠点を築いている……。」
「どこだ?」
「ベルガリア……東方の交易都市……。」
「やはりカイゼルは次の手の準備をしていたのか。」
レイヴンの恨みの感情が周囲に伝わる。
「ベルガリアを拠点にして王都への侵攻準備を進めているのか?」
「……いや、それだけじゃない。」
セドリックの目が苦しげに揺れる。
「カイゼルは……王家の血を引く者を利用しようとしている……。」
「……どういうことだ?」
店主たちが顔を見合わせる。
「王家の血?」
「カイゼルは……ある貴族を利用して、王家の正統な後継者を影から操ろうとしている……。」
「つまり王を暗殺するだけではなく、操り人形の“王”を据えるつもりなのか?」
エヴァンが驚いたように問いかける。
「……そうだ。」
「カイゼルが利用しようとしている後継者とは誰だ?」
ルシアスの声が低く響く。
セドリックの体がビクリと震えた。
「……公爵家の……隠された後継者……レオナ・フォン・グランヘイム……。」
「レオナ……?」
「そんな人物は聞いたことがないな。」
ミリアが眉をひそめる。
「公には存在しない者なんだろう。」
レイヴンが低く言う。
「おそらく王家の血を引きながらも表には出されなかった後継者だ。」
「なるほどな。面白いことを考えているじゃないか。」
ルシアスはゆっくりとセドリックに歩み寄った。
「もう話すことはない……!」
セドリック卿は苦しそうに顔を上げる。
「殺すなら殺せ……!」
「ほう?」
ルシアスが面白そうに目を細める。
「俺に“殺してくれ”と懇願するとはずいぶんと殊勝だな。」
「……?」
「だがお前の願いは聞かぬ。その代わりお前には死ぬより恐ろしい罰を与えてやろう。死んだ方がマシかもしれんがな。」
そう言って、ルシアスは手をかざした。
セドリックの足元に新たな黒い魔法陣が浮かび上がり、その中心に不気味な影のような生物が現れた。
「な、何をする気だ……!?」
「これは“怨念の牢獄”……お前が今まで縛ってきた者たちの恨みをこれから存分に味わうがいい。」
「ぐ……あああああ!!」
セドリックの体が震え意識を失う。
しかし、彼の意識は消えることなく呪いに囚われ続けるだろう。
「さて。ここからの計画だが——」
ルシアスが冷たく笑いなが続ける。
「カイゼルに俺が“アウレリウス王を倒そうとしている”と思わせる。」
「は?」
店主たちは思わずルシアスを見た。
「カイゼルは“操りやすい王”を作ることを計画している。ならば、魔王であった俺がこの国を掌握するために王家に反旗を翻すつもりだと吹き込めば?」
「……!」
エヴァンが驚きの声を漏らす。
「俺がこの王国の王になるのなら、王家の血を引いた後継者を用意しても意味がなくなる。」
ルシアスが冷笑する。
「計画を狂わせないためにカイゼルは俺に接触してくるだろう。」
「罠を仕掛けるってことか?」
レイヴンが問いかける。
「そうだ。カイゼルが接触してきた瞬間に俺たちは奴を捕らえる。」
「つまり隠れて出てこないカイゼルを誘き出すために奴から“取引”を持ちかけさせるわけか……。」
レイヴンは理解し冷たい笑みを浮かべる。
「決まりだな。」
こうしてカイゼルを捕える準備が進められた。




