第百十四章:誤算
それは 数日前 のことだった。
王宮の一角の部屋にルシアスとレイヴンは訪れていた。
誰にも気付かれないようにルシアスが伝言魔法で事前に連絡を行い、アウレリウス王が待つその部屋で密談が始まった。
「つまり、貴様はこう言いたいのだな?」
王は鋭い眼差しを向ける。
「セドリック卿が偽の証拠を用意し、それをカフェ・アルカディアに持ち込ませたということか。」
「はい。」
レイヴンは静かに頷いた。
「ですが、奴の狙いはもっと奥深いものです。」
王は腕を組みながら先を促すようにうなずく。
「カイゼルが逃亡した今、ヴァルムトは直接的な支配を狙っています。」
レイヴンは低く続けた。
「そのためにまずカフェ・アルカディアを陥れ、王都の商業を手中にしようとしています。
次に王家に取り入ってヴァルムトの“協力者”を装いながら政治の中枢にも介入するつもりでしょう。」
「……なるほど。」
王の表情が険しくなる。
「そこで提案があります。」
「ほう?」
王は少し興味を示したようにレイヴンを見た。
「陛下が偽の証拠に騙されたフリをして、我々を反逆者として裁くのです。」
「そうすればセドリックは王が完全に騙されたと思い込むでしょう。」
レイヴンの目が冷たく光る。
「その瞬間こそ奴を陥れる最大の機会です。」
王はしばし沈黙した後——
「面白い。」
低く笑った。
「よかろう。カフェ・アルカディアを反逆者として扱う演技をし、セドリックを油断させる。奴の悪巧みを完全に暴く機会を貴様らに与えてやろう。」
「こちらが提出する偽の証拠です。すでにこちらではセドリックの痕跡が残っていることを確認しましたが、事前に調査魔法による鑑定をお願いします。」
「さて、セドリック卿がどんな顔をするのか。」
アウレリウス王はゆっくりと微笑んだ。
***
「貴様がどう出るか楽しみにしていたぞ。」
セドリックの顔から一瞬で 余裕が消え去る。
「……っ!」
謁見の間の空気が一変する。
「どういうことですか、陛下。」
セドリックは必死に冷静を装いながら口を開く。
「これはあくまでカフェ・アルカディアが仕組んだ罠なのです。」
「ほう?」
王は冷ややかに笑った。
「ならば、この偽の証拠に関与していないというのか?この証拠は予め魔法によりセドリック卿が作成に関わっていたことは調査済みだ。それにしても先ほどは随分とカフェ・アルカディアへの処罰を要求していたな。」
「……!」
セドリックは言葉に詰まる。
「それは……」
王はゆっくりと玉座から立ち上がった。
「何も言えぬのか?」
「……」
その瞬間——
「——ははっ。」
レイヴンが笑った。
「セドリック卿……貴様の負けだ。」
「……レイヴン!黙れ!」
セドリックがレイヴンを睨みつける。
「お前が裏切って罠に嵌めたのか!?」
「は?」
レイヴンは嘲るように鼻で笑った。
「俺がいつ貴様に忠誠を誓った?」
「なっ……!!」
「確かに俺はお前の命令通り“スパイ”を演じていた。」
レイヴンはゆっくりとセドリックに歩み寄る。
「だが、俺はカフェ・アルカディアを裏切るつもりなど最初からなかった。俺を使い捨ての駒として偽の証拠を渡したことが仇になったな!」
「……っ!!」
セドリックの顔が青ざめる。
「まさか……!」
「そういうことだ。」
レイヴンは冷たい目でセドリックを見下ろした。
「陛下に“俺たちが反逆者である”と信じ込ませたつもりだったようだが……残念だったな。」
セドリックは混乱しながら後ずさる。
「お、おのれ……!」
その時——
「セドリック卿。」
王が冷酷に宣言する。
「貴様を国家転覆の罪で拘束する。」
「……なっ!!?」
「貴様がこの偽の証拠を仕込んだ張本人である証拠はすでに揃っている。」
「ここで抵抗すれば、即刻処刑する。」
「くっ……!!」
セドリックは歯ぎしりする。
「貴様らっ……!!」
「お前が俺を利用しようとした報いだ。」
レイヴンは冷たく微笑む。
セドリックは完全に追い詰められていた。
「……さて。」
王が最後の一手を打つように低く言った。
「ヴァルムトの計画もここまでのようだな。」
——セドリック卿の誤算。
それは“カフェ・アルカディアを陥れるつもりが逆に自らの罠に落ちた”ことだった。
「放せっ……!」
セドリックは狂ったように叫びながら近衛兵たちに捕らえられた。
「次は呪刻を刻まれた商人達を解放して、カイゼルにもお仕置きしないとな。」
ルシアスはすでに次の計画を考えていた。




