第百十三章:綻び
王宮の謁見の間。
重厚な扉が閉じ静寂が広がる中、カフェ・アルカディアの店主たちが玉座の前に立っていた。
玉座に座すアウレリウス王は冷たい紫紺の瞳で彼らを見据えていた。
「貴様らこれはどういうことだ?」
王の手にはカフェ・アルカディアが提出した“証拠”が握られていた。
その書状にはヴァルムトの貴族たちが王都の商業を支配しようとしている決定的な証拠が記されている。
「陛下、これをご覧ください。」
エヴァンが一歩前に進み、慎重に語る。
「ヴァルムトの商会が王都の商業を完全に掌握しようと画策している証拠です。取引記録、そして契約の写し——すべてがここにあります。」
王はじっと書状を見つめた。
「……ふむ。」
書状を手に取り視線を滑らせる。
一見、完璧な証拠のように思えた。
しかし——
「貴様ら……」
王の声が一気に冷たくなる。
「この証拠が偽物であるとしたらどうする?」
「……!!?」
店主たちの間に張り詰めた空気が流れた。
「何を言っている?」
ルシアスが目を細める。
「この書状に記された取引の証拠は間違いないのか?」
「もちろんです。」
エヴァンが冷静に答える。
——しかし、王はゆっくりと首を振った。
「それならば、なぜ王宮の記録と矛盾しているのだ?」
「……なに?」
店主たちが一斉に王を見つめた。
「この書状に記された取引の証拠……」
王はゆっくりと別の書類を掲げた。
そこには王宮の公式記録が記されている。
「この書状に記された取引が行われたとされる日は、すでに王家の管理下にあった商業契約と一致しない。
つまりこの“証拠”は偽物だ。」
「!!」
店主たちの背筋が凍る。
「これは……」
エヴァンの額に汗がにじむ。
「貴様ら陛下と我がヴァルムトを陥れようとしたのか!」
セドリック卿の声が謁見の間に響いた。
——その瞬間、王の声が怒りを帯びる。
「貴様らは我を欺き、そしてヴァルムトとの関係を破壊しようとしたのか!?」
「陛下、それは違う!」
店主が声を上げるが王は手を振り払った。
「護衛!」
王宮の近衛兵が一斉に剣を抜く。
「カフェ・アルカディアの者どもを拘束せよ!」
「っ……!」
「……陛下!」
店主が王に向かって叫ぶ。
「この証拠が偽物であることは我々も知らなかった!」
「何を言うか。」
王は冷たく言い放つ。
「証拠が偽物である以上、貴様らが我を欺こうとしたことは明白である。」
「陛下!それはヴァルムトの罠だ!」
エヴァンが叫ぶ。
「この証拠はヴァルムト側が我々を陥れるために仕組んだものだ!」
「証拠もなくヴァルムトを非難するか。貴様らが王家を混乱させようとした張本人ではないのか?」
「くっ……」
ルシアスが歯噛みする。
「陛下、どうかお聞きください!」
ミリアが涙ぐむ。
「黙れ!」
王は冷酷に言い放つ。
「貴様らは反逆者だ。」
そして、すぐに王はヴァルムトの使者・セドリック卿に目を向ける。
「セドリック卿。」
「はい、陛下。」
セドリック卿は満足そうな微笑みを浮かべた。
「どうやらカフェ・アルカディアは王家に対し謀反を企てていたようだな。」
「陛下、カフェ・アルカディアを処断すべきかと。」
セドリック卿は悠然と進み出る。
「王家への裏切りを許せば他の商人たちも同じ道を辿るやもしれません。」
「……ふむ。」
王は考えるそぶりを見せながらもその目は冷静にセドリックを観察していた。
「セドリック卿。」
王が静かに口を開く。
「貴様が言うように、これは王を欺こうとした者の策略であるかもしれんな。」
「左様でございます。」
セドリック卿は満足げに頷いた。
「では、貴様がこれに関わっていないという証拠はあるのか?」
「……!?」
セドリック卿の表情が一瞬にして強張る。
「な……何を仰いますか、陛下。」
「この“偽の証拠”を用意したのは誰だ?」
王はじっとセドリックを見据える。
「……!!」
セドリック卿の顔色が変わる。
「カフェ・アルカディアがヴァルムトと対立しているのは明白だ。それなのになぜ彼らが愚かにも偽の証拠を王に提出する必要がある?」
「そ、それは……!」
「この偽の証拠を仕込んだ者こそ、王家を欺こうとした本当の反逆者ではないのか?」
セドリック卿の額に汗がにじむ。
そして王は冷たく微笑んだ。
「さて、セドリック卿。」
「貴様がどう出るか、楽しみにしていたぞ。」




