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第百十章:王の策謀

静寂の中、アウレリウス王の紫紺の瞳が鋭く光る。

王の間は広大で圧倒されるほどの威厳が漂っていた。


「ヴァルムトがこの国を経済的に侵略しようとしています。」

店主の言葉が重く響いた。


「……ふむ。」

王は顎に手を当てじっと店主を見つめる。

「それが事実であるならば王家としても無視はできぬ。だが、その証拠はあるのか?」


「あります。」

エヴァンが静かに前へ進み用意していた文書を王へ差し出した。


王はそれを受け取りゆっくりと目を通す。


主な内容をまとめると以下の内容だった。


•王都の商人の取引記録——ヴァルムトの商会が不自然なほど有利な条件で契約を結んでいる。


•商人たちの証言——契約を結んだ商人の多くが後に「魂の契約」に縛られて自由な商売ができなくなった。


•呪刻の証拠——ライナー・グレイブを含む商人たちの身体に現れた呪刻。


•ヴァルムトの使者の動向——王宮に接触したヴァルムトの使者が密かに貴族や官僚と会合を重ねている。


王は一通り目を通すと静かに口を開いた。


「……なるほど。確かにヴァルムトの動きは不審だ。」

王の口調は冷静だったがわずかに眉が寄せられていた。


「しかし、この件は王家の統治に関わる問題だ。カフェ・アルカディアごときがこれに関与する理由は何だ?」


「理由は二つあります。」

店主は落ち着いた声で答えた。


「一つはヴァルムトの策略がこの国の経済を破壊し最終的には王家をも揺るがすからです。」

「もう一つは?」


「ヴァルムトの影響を完全に排除しなければ私たちの商いも成立しないからです。」


「ほう……」

王は薄く笑った。

「貴様らは王家の安定を守るために動いているわけではないということか。」


「そうだ。」

ルシアスが肩をすくめる。

「俺たちは俺たちのために動く。それが結果として王家にとっても都合がいいというだけの話だ。」


王はしばらく黙考した後、ゆっくりと手を組んだ。


「……ヴァルムトの使者セドリック卿がつい先ほど謁見を申し出てきた。」


「セドリック卿?」

エヴァンが目を細める。


レイヴンが低く呟く。

「ヴァルムト王の側近の一人……王都の商業侵略計画を統括している男だ。」


「彼は何を話しに来たのですか?」

店主が尋ねる。


王は微かに笑みを浮かべた。

「“グランヘイム王国とヴァルムト王国のさらなる友好と協力”について話し合いたい、とな。」


「友好と協力、ね……」

ルシアスが鼻で笑った。


「ヴァルムトが仕掛けてくるのは明白だ。」

王は冷静に言う。

「だが、現状では彼らの真意を公にする証拠がまだ足りぬ。セドリック卿の動きを見極める必要がある。」


「つまり……」

エヴァンが考え込みながら言った。

「我々にセドリック卿の計画を暴かせたいと?」


王は微笑みながらも冷徹な視線を向ける。

「貴様らがヴァルムトの策謀を阻止しようとするならば王家もそれを利用させてもらう。貴様らには自由に動くことを許そう。」


「……つまり公式には何の支援もないが、暗黙のうちに我々の行動を認めるということですね。」

店主が淡々と言った。


「察しがいいな。」


「結構だ。」

ルシアスがにやりと笑う。

「王家がどう動こうと俺たちは俺たちのやり方でヴァルムトを叩くだけだ。」


王は満足げに頷いた。


「では、貴様らの動きを見せてもらおう。“カフェ・アルカディア”の力が王国にとって役に立つのかどうか……」


王の言葉を背に彼らは謁見の間を後にした。


城を出た彼らは王宮の庭園を歩いていた。


「さて、セドリック卿がどんな手を打ってくるか……」

エヴァンが腕を組みながら言う。


「確実に何か仕掛けてくるだろうな。」

ルシアスが不敵に笑う。

「“友好と協力”なんて綺麗事を持ち出してくる時点で裏があるのは明白だ。」


「問題はどこで奴が動くかだ。」

店主が静かに言う。


その時——


「それなら俺に考えがある。」


レイヴンがゆっくりと口を開いた。


「……なんだ?聞かせてもらおうか。」

ルシアスが興味深げに尋ねる。


レイヴンは冷たい笑みを浮かべた。


「セドリック卿は慎重な男だ。だが、彼が一番警戒しているのは“内部からの裏切り”だ。」


「つまり?」


「俺が彼の元へ潜り込む。」


全員が一瞬沈黙する。


「……お前が?」

エヴァンが目を細める。


「カイゼルに見捨てられた俺がヴァルムトの計画を知った上であえてセドリック卿の元へ行く。奴が俺を疑いながらも利用価値があると判断すれば、何らかの情報を引き出せるはずだ。」


「ちょっと!それはさすがに危なくない?」

ミリアが不安げに言う。


「その分、手に入る情報も大きい。」

レイヴンは冷静に言い放つ。

「それにこれは俺自身のためでもある。」


「……」

店主はしばらく考え込んだ。


そして——


「よし、やってみろ。」


ルシアスとエヴァンもそれに頷く。


「ただし一つ条件がある。」

ルシアスが冷たく言った。


「もしお前が裏切ったら、俺がこの手で殺す。」


レイヴンは一瞬沈黙した後、ゆっくりと笑った。


「それでいい。」


こうして、ヴァルムトの陰謀を暴くための新たな策が動き出した——。

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