第百九章:レイヴンの決意
レイヴンがゆっくりと黒いローブを脱ぎ仮面を外すと、そこには鋭い灰色の瞳と疲れたような表情の青年の姿があった。
「カイゼルへの復讐を果たすことができたら、俺をカフェ・アルカディアに入れてくれないか?」
その言葉に一瞬、空気が張り詰める。
ルシアスは腕を組んでレイヴンを値踏みするように見つめ、エヴァンは慎重な視線を向ける。ミリアは驚いた表情を浮かべた。
「随分と唐突な申し出だな。」
ルシアスが目を細める。
「お前の忠誠は誰にもない……そう言っていた奴が今さら組織に入りたいとはな。」
「忠誠を誓う気はない。」
レイヴンは静かに答えた。
「ただ、影の世界で生きる以外の道があるのならそれを試してみてもいいと思っただけだ。」
「……」
店主はじっと彼を見つめる。
レイヴンは今、確かに迷っていた。
これまでの生き方を捨てるということは彼にとって未知の領域への挑戦だ。
「いいだろう。」
店主は静かに頷いた。
「だが、お前の実力と覚悟を見せてもらう必要がある。」
「……どういう意味だ?」
レイヴンが眉をひそめる。
「カイゼルは逃げたがヴァルムトの計画はまだ終わっていない。これからお前がどう行動するのかで見定める。」
店主がゆっくりと語る。
「王家への直接介入——これは間違いなく次の一手になる。」
レイヴンはゆっくりと頷く。
「おそらく、ヴァルムトの使者がすでに王家へ接触を図っているはずだ。王都の商業を押さえて次に王室への影響力を強める。それがヴァルムト王の狙いだ。」
「だろうな。」
ルシアスが不敵に笑う。
「だが、問題は俺たちと王家の関係だ。」
ミリアが不安げに尋ねる。
「関係って……カフェ・アルカディアは王家にとって有益な存在なんじゃないの?」
エヴァンが腕を組みながら補足する。
「そうだ。だが、それはあくまで経済的な観点での話だ。」
王とカフェ・アルカディアの関係——それは微妙なバランスの上に成り立っている。
アウレリウス王は決して彼らを完全に信頼しているわけではない。
王家は「カフェ・アルカディア」を監視し、利用価値を見極めようとしている段階だ。
つまり、ヴァルムトの工作によって王家が「カフェ・アルカディア」を不要と判断すれば一瞬で立場は逆転する。
「王が俺たちを敵と見なせば今度は俺たちが追われる立場になる。」
ルシアスは冷笑する。
「ヴァルムトはそこを狙ってくるはずだ。」
「……王家に何者かが接触し、“カフェ・アルカディア”が脅威だと思わせるような情報を流している可能性が高い。」
レイヴンが分析するように言った。
「そうだろうな。」
店主が頷く。
「王の信頼を得られなければヴァルムトは確実に王家の掌握に成功する。そうなれば王都全体が支配されるのは時間の問題だ。」
「じゃあ、どうするの?」
ミリアが不安そうに尋ねる。
「俺たちが直接王に会う。」
店主は淡々と言った。
「王に?」
「そうだ。」
エヴァンが補足する。
「今の王はルシアスの言葉通りカフェ・アルカディアが利益か脅威かを天秤にかけている。もしヴァルムトの使者が何らかの嘘を吹き込んでいるなら、それを覆さなければならない。」
「なるほどな……。」
レイヴンが腕を組む。
「問題は王が俺たちに会うことを許すかどうかだな。」
ルシアスが言う。
「そこは心配いらない。」
店主は静かに微笑んだ。
「王は俺たちの“変化”を見極めたがっている。ヴァルムトが動き出した今こそ王も決断を迫られているはずだ。」
「……」
ルシアスは微笑みエヴァンが静かに頷く。
「よし、決まりだな。」
そして、王都の城門を抜けて彼らはアウレリウス王の宮廷へと向かった。
護衛の兵士たちは彼らの姿を認めると警戒の色を見せたが、ルシアスが堂々と胸を張って進むと兵士たちは少しずつ道を開けた。
「カフェ・アルカディアの店主とその仲間たちか。」
廷臣の一人が眉をひそめながら彼らを迎える。
「お前たちに王の謁見を許す理由はない。」
「あるさ。」
ルシアスが涼しげに言った。
「ヴァルムトの工作がすでにこの宮廷にまで入り込んでいる。今こそ陛下が判断を下すべき時だ。」
廷臣はしばらく考え込んだが最終的に彼らを王の間へ通した。
王の間——
そこにはアウレリウス王が静かに座していた。
「……貴様らか。」
王は鋭い目を向ける。
「何の用だ?」
店主は静かに一歩前へ進み目を逸らさずに王を見つめる。
「ヴァルムトがこの国を経済的に侵略しようとしています。」
その言葉に王の目がわずかに細められた。
「ふむ……詳しく聞かせてもらおうか——」




