表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
因果因縁【完結】  作者: 七石 和子
因果因縁
128/211

因果因縁 16 マゼランダの終演

前回読み飛ばした方への補足


才女だったマゼランダは、冴えない婚約者が不服だった。

彼女が16歳の時、その婚約者から、家の都合で他の令嬢と婚約する為に、解消を願い出られても喜んでいた。

貴族学園を、就職活動失敗、婚約者なしで卒業。

その後、縁に恵まれず、実家で暮らしていたが、弟が結婚し、実家で肩身狭い思いをしていたら、伯父から寮の管理人に誘われ、平民が多い事に不満がある中、渋々承諾。

そんな所へ、ミシェールが編入。

綺麗な顔で、自身の嫁き遅れを嘲笑われていると感じたマゼランダは、ミシェールの存在が不愉快に感じた。

従者と毎週出掛けるのも、ふしだらな関係としか思っておらず、寮の敷地に居た騎士二人も、同じなのだろうとしか思えなかった。

ミシェールを守る為に、レイピアを抜いた黒髪の騎士は、マゼランダには野蛮人にしか見えなかった。

ハンカチ1枚の為に、ゴミを散らかした騒ぎと、日頃の行いを詰めても、ミシェールが反省してないように見えたので、マゼランダは生意気にしか見えず、授業の参加を禁止し、叔父に処分を願おうと報告し、夜が明けた。

皇帝への侮辱行為だと言われた事は不当の脅しで、ミシェールの養父が帝都に居るなど、口から出任せだと、マゼランダは信じていた。

学長室での話し合いでも、間違いを認めようとしないミシェールは、養父母を困らせていただろうとしか思えず、その間違いを認めさせる流れで、失せ物が何であるか知っている事が露呈したが、些細な事だと思っていた。

そして、その時が訪れた。

ミシェールが、迎えに行かなければと、腰を上げ、優雅にけれど足早に、学長室を出ていってしまった。

それを茫然と見送り、対処を迷っていたら、警備員に言われたのだ。

『すぐ向かわれた方が、賢明かと存じます』

と。

叔父に引っ張られ、校庭を横切り、ミシェールに追いつけば、圧倒的な大きさの男が、愛しそうに彼女を抱き寄せる所だった。


男はその額に口づけをし、何やらミシェールに向かい囁いていた。

その男は、ミシェールの従者として来ていた筈だった。なぜ、上質な服を着ているのか、なぜ、騎士達が頭を下げているのか、マゼランダは、理解が追いつかなかった。

叔父の恐る恐るの確認に、男は肯定した。

エクレナール国国王の兄、クロノス大公なのだと。

何もかも、嘘だったのだと、知らしめられた。

ミシェールの素行の悪さも、大公に見放されたというのも、マゼランダの妄想でしかなかった。

面会に通っていたのは、品性のない従者ではなく、養父だった。

なんとか自身への疑いを晴らそうとしたが、それはミハエルによって遮られ、ミハエルはミシェールを連れて校舎へと向かってしまった。

ミハエルの存在感に、マゼランダが震えていると、叔父が教諭陣によって連れて行かれた。


きっと今回の事でお咎めがあるのだろうと、他人事のように、叔父を不憫に思っていたら、昨日見た黒髪の騎士が、マゼランダの前に跪いた。

「ご同行を願いたい」

以外にも、流暢なベネルオース語で言われ、マゼランダは目を細めた。

「お断りしたら、どうなされるおつもり?また昨日のように、無体を働くのかしら?」

「その時は致し方ないと。ですが、レディにそのような事をしたくありません。ご同行頂ければ、丁重に扱うとお約束しましょう」

「そこまで言って下さるのなら、宜しくてよ。お約束をお忘れなく」

そう答えれば、黒髪の騎士は、マゼランダに触れる事なく歩き出し、マゼランダは周りを騎士に囲まれて応接室へと案内された。

段差があれば一言告げ、ドアを抑えて待ち、抜群のタイミングで椅子を引いたので、黒髪の騎士の紳士ぷりに、マゼランダは鼻白む。

何か一つでも失礼があれば、それを糾弾するつもりだったのに、どの所作にもマゼランダへの気遣いがあり、文句の一つも出なかったのだ。

そればかりか、手づからお茶を入れて見せ、

「お口に合えば良いのですが、少々お待ち頂くので、どうぞお寛ぎ下さい」

と微笑んできた。

ここまで丁寧に男性に扱われたのは、マゼランダは初めてであった。

元婚約者は、気遣いが出来ず、愚鈍で、マゼランダをイラつかせる才能だけがあったのだ。

暇つぶしにと、マゼランダは黒髪の騎士に声をかける。

「貴方、ベネルオース語がお綺麗ね」

「お褒め頂き光栄に存じます。主君は外交の仕事をしておりましたので、主君の恥になってはならぬと、主要国の言葉は覚えたのでございます」

「良い心掛けだわ。知識は裏切らないもの。身に着けて損になる事はないわ」

紳士な上に、勤勉な様子に、マゼランダは黒髪の騎士を好ましく思った。

だがこの騎士は、マゼランダを欺いた男に仕えている。決して心を許してはならないと、その後は呼ばれるまで無言で待った。

待っている間、どう釈明するかを練り、これなら説得出来ると思った頃、学長室に呼ばれた。

「貴方が着いて来て下さる?他の方では不安で」

とマゼランダが言えば、黒髪の騎士はあっさり頷いた。


そして、学長室で、練った釈明は全て無駄になってしまった。

だから、認めるしかなかった。

大事な物だとは知らなかった。噂したのも、行動を起こしたのも小娘達だと。ゴミだと思ったのだと。

ハンカチが燃えたのは、故意ではなかったと。

だというのに、皇帝の目だという警備員は、帝国の民を弁護する事なく、大公に処罰を認めてしまった。

守るべく帝国の民を見捨てるなど、皇帝の目として相応しくないと言おうとしたが、黒髪の騎士に止められてしまった。

騎士に私に罪があるのだと無礼な事を言われ、それに反論すれば、黒髪の騎士は私を好ましく思っていたなど、惑わす言葉を口にし、私の髪を取り、悲しげに微笑み、

「このように出会いたくありませんでした。勇ましいレディ」

と言われ、そっと顔を寄せられたかと思えば、頬に温かい物が触れた。


-ドン!と突飛ばし、マゼランダは黒髪の騎士を睨みつけた。

「なにを!」

「昨日の貴女の凛々しい姿に、もっと知りたいと思った。と言ったら、レディはお疑いになられるだろうか?」

「おふざけにならないで下さいませ!」

傷ついた表情で胸に手を当てた黒髪の騎士に、更に睨みつければ、黒髪の騎士が苦しそうに笑う。

「ですが、レディは我らのお嬢様を傷付けられ、一言も謝罪を頂いていない。心惹かれていようとも、私はお嬢様をお守りする騎士。レディを処罰せねばならない事が、とても苦しい。どうか、哀れな騎士の為に、一言でもお嬢様に謝罪を。一度でもその姿を見せて頂ければ、私のレディは誇り高い方だったと、胸に留める事が出来るのです」

その姿に、マゼランダがぐっと唇を噛み、事態を見守っていたミハエルとミシェールに視線を送り、胸を押さえている黒髪の騎士を見て、ゆっくりとミハエルとミシェールの方へ身体を向け、そこに膝をつき、深く頭を下げる。

「私が、燃やしました。申し訳ございません。お嬢様の大事な物だと知らなかったとはいえ、愚かでした。いかような処罰も覚悟いたします」

マゼランダは、黒髪の騎士スターゼフにエスコートされ、町の衛兵の詰め所へと連れて行かれた。

「あいつのやり方は覚えるなよ?叱られるのは俺だ」

遠い目をし、ミハエルが言い、

「私には無理です」

とミシェールは答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ