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因果因縁【完結】  作者: 七石 和子
因果因縁
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因果因縁 13 私は悪くない

遅れた昼食をミハエルとミシェールが終え、騎士によってお茶が配られる。

そのテーブルを挟んだ向かいの床では、学長のヤンジョシュが青白い顔でプルプルとずっと震えていて、副学長である女性が、ドアの脇で直立不動で立たされていた。

ミシェールを悪く噂された事を知りながらも、その真偽も確かめずに放置していた責任を問われ、何も言い返せずに、ミハエルに命じられたのだ。

ミハエルは、ベネルオースで唯一の存在である、皇帝パドトワロから、一通の許可状を、切り札として持参してきていた。

-クロノスの息女に対して明らかな非道が確認できた場合

 クロノスがその者を処断する事を許可する-

それに、真っ先に反論したのは、ヤンジョシュだった。ミハエルだけの判断で、非道があったと確認されるのは可笑しいと。

が、そこで警備員が手を挙げ、言ったのだった。

『陛下からその判断を任されております。もし、クロノス大公が許可状を悪用なされば、私が陛下に報告する手筈になっております』

ヤンジョシュは言葉を失い、ガクリと膝をつき震えるしかなくなり、副学長も立ち続けるしか出来なくなったのだ。

お茶が終わり、ミハエルがチラリと副学長を見やる。

「問題の生徒をここへ」

短く言えば、副学長は縺れるように学長室を出て行き、二人の女生徒が教諭四人がかりで連れられて来た。副学長は戻らなかったが、ミハエルは気にも止めなかった。

ゆっくりと立ち上がり、教諭二人にそれぞれ腕を掴まれている女生徒へと歩み寄る。

「娘が、世話になったようだな?とはいえ、弁明の機会くらいはやらんとな?」

上から見下ろし、ミハエルが首を傾げてみせれば、女生徒二人は膝をガクガクと震わせた。


チェネット・リュションは、どうしてこうなったのかと憤慨していた。

貴族学園で、明らかに鼻摘みにされていた令嬢が、学園を辞めた時は、これで薄汚い娘を見ずに済んだと安堵していた。

その頃、チェネットはある男性から言い寄られ、まるで姫になったかのように、扱われていた。

贈られるのは、上質のドレス、粒の大きな宝石、細かなレースのリボン、甘い言葉の数々。

誘われるのは、人気の観劇、一等地のレストラン、限られた人にしか入れない花園。

そんな事をされれば、夢見るお年頃だ。すっかり夢中になっていた。

だが、その彼は伯爵令嬢の婚約者であった。知りながらも、チェネットは、彼に愛されている自分に酔っていた。上位の伯爵令嬢より自分の方が魅力的なのだと。

だが、婚約者である伯爵令嬢の気を引く為に、彼に利用されていたと知り、学園に居づらくなった事で、退学願いを出したのだ。

それがリル・マクマナンが退学してから3週間後の事。

秋の騎士学校の入学試験で再会した時、辛く当たっていたのは本心でなかったのだと謝罪はした。彼に遊ばれた事で、悪意を向けた事に多少の罪悪感が生まれたのと、同級生になるなら、穏便にした方が良いという打算もあった。

騎士学校を諦めたら、後は厳しい中等学校の試験を受けるしかなくなるからだ。

中等学校は、平民向けの城務めを目指す者向けの学校で、チェネットの学力ではかなり頑張らないと、合格は難しい。

だからこそ、リルに頭を下げてあげたのに、入学式でチェネットから声をかけたのにも関わらず、そっけなくされ、距離を置かれた事で、不愉快を覚えた。

寮の部屋が一人だけ、一人部屋になった事も気に入らなかった。

だから、チェネットはリルを排除する事にした。

周りの令嬢は、何かしらの都合で貴族学園に行けなかった者ばかりで、貴族学園経験者はチェネットとリルのみ。

チェネットが貴族学園ではお茶会は毎日するのよと言えば、周りから一度経験してみたいと声が上がり、同級生の集まりとして、毎週末にお茶会を開こうと提案すれば、皆が賛成した。

その集まりには、毎回リルを呼ばず、誘ったのに断られた、来ると言っていたのに来なかった、くだらないと笑われたと、寂しげに言えば、リルを自然と孤立させる事に成功し、ほくそ笑んでいた。

そこへ、ミシェール・アン・クロノスが編入してきて、リルと同部屋になった。

いつも澄ました表情で、テストを受ければ上位に入り、鍛錬の授業も涼しい顔でこなす。

近寄りづらい雰囲気であった為、チェネットは引き入れるべきか迷っていた。

元平民だという、他国の準王族の養女を、引き入れる価値があるのか分からなかったのだ。

チェネットの周りは、チェネットを称賛する者ばかり。彼女を入れたら、その称賛があちらへ移る可能性があった。

誰かを称賛するタイプにも見えなかったので、チェネットは周りに、『失礼があってはいけないわ』と言って、彼女に皆が近付きすぎるのを防いだ。

そんな頃、寮の管理人が言ったのだ。

『あの娘は、登校前の挨拶に、誰もお供を連れて来なかったのよ?エクレナールで何か不始末をしていないか心配よ。どうか気をつけて見ていて。何かが起こってからでは遅いもの。貴女は人望があるから、頼りにしているわ』

自分の判断は間違って居なかったのだと、思った。

だというのに、溢れた者で結束したのか、リルは彼女と話すようになっていき、チェネットは面白くなかった。

せっかく孤立させたリルに、仲間が出来たのが許せなかったのだ。

問題児を抱えるか、リルを放置するかを天秤にかけ、問題児を抱える事にしたのに、肝心の問題児はチェネットの誘いに乗らず、相変わらずリルと会話をしていた。

どうしてくれようと、腸がにえくり返っていた頃に、管理人が愚痴を漏らした。

『あの娘の従者を見た事あって?まるで熊のような身体と、下品な髪の色、品性が欠片もない。あんな従者と、週末毎に出掛けているのよ?外で何をしてらっしゃるのか分かったものではないわ。きっとクロノス大公も手を焼いたのね。でなければ、エクレナールで学ばせるか、帝都の貴族学園に入れるのが普通でしょ?厄介払いを押し付けられたのだわ』

さすが元平民だと思って安心した。

確かに熊のような大男と、毎週末外出しており、たまに髪型が乱れている時がある。

外出許可を取って、後を付けてみれば、大男は従者服を脱ぎ、問題児に従者として不適切な距離で接していた。

いかがわしい娘なのだと知れば、後はそれを周りに教えてやるだけだった。

あのような従者しか側にいないのだ、クロノス大公は見限っていると信じていた。

だが、ふしだらな娘として周知されても、涼しい顔をしている事に、チェネットはいかに、自身の優位を知らしめようかと思うようになった。

管理人に相談すれば、

『目に余っていて困っていたの。何か証拠を掴んでくれないかしら?』

言葉と共に鍵が託され、やはり自分は間違ってなどいないと思った。

その日の夕食時に、二人が留守の瞬間を狙い、アシュハント男爵令嬢と寮の部屋へと侵入し、ハンカチを盗んだ。短い時間でじっくり漁る事が出来なかったのだ。

週末に入り直すべきか迷ったが、それは存外に、問題児を動揺させる事に成功させてくれた。それだけだ。

だから言う。

「私は悪くない!マゼランダ様に唆されただけ!」

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