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因果因縁【完結】  作者: 七石 和子
因果因縁
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因果因縁 02 自慢

久しぶりの、ミハエルとのやり取りに、疲れが取れた気がして、ミシェールはいつもより勉強が捗っていた。

自身の単純さに可笑しく思っていると、同室の少女が声を掛けてくる。

「何か良い事あった?」

「え?」

「いつもと違うから」

ミシェールが顔を上げ、そちらを見ると、扉を挟んだ隣りの勉強机から、同室の少女が不思議そうにミシェールを見ていた。

てっきりミシェールに興味がないのだろうと、思っていたので、失礼だと分かりながらも、意外だと思いながら口を開く。

「母国から思わぬ客が来て、少し浮かれておりました」

「そんな丁寧に話さなくて良いよ。あたしは貧乏子爵令嬢の次女で、何の取り柄も無いの。大公令嬢のあなたと同室てだけでも恐れ多いのよ」

毛先が跳ねた明るい茶色の髪、オレンジ色の瞳は丸みがあり、小柄な背で年齢より幼く見える少女が、肩を竦めて苦笑した。

いつも真剣な表情で教科書や鍛錬に向き合っている姿しか見ていなかったので、ミシェールは新鮮に感じながら首を横に振る。

「私は元平民で、養女ですから。リル様には及びません」

「名前、覚えてたのね」

同室の少女リルが身体の向きをミシェールへと向け、嬉しそうに笑ったので、ミシェールが首を傾げる。

「当然の事ですが?」

「帝都のお嬢様方は、田舎の貧乏子爵令嬢の次女なんか、目にも止まらないのよ。貴女お名前なんだったかしら?て、同じ教室で、散々顎で使ってたのにさ、使用人程度にしか思っていなかったのよ。他にも色々嫌になって、こっちの試験を受けたの。どうせ、働き口は探さなきゃならないし、貴族なんて私のガラじゃないしね。丁度良かったと思うわ」

どこか悔しそうに言ったリルに、語りたくない理由があるのだろうと悟り、ミシェールは宝物の言葉を口にする。

「養父の言葉ですが。要らないなんて言うやつらなんか、幸せになって見返してやれば良い。そこに固執するな。場所はいくらだってある。心を殺すな、それは生きているとは言わない。と。だから、良い選択をされたのだと思います」

「最高の父親ね」

「はい。自慢の養父なのです」

ミシェールが小さく頷くと、リルが意外そうな顔をする。

「もっとお高く止まってる人かと思ってたけど、案外普通なんだ」

「元平民ですから」

「自己紹介の時にも聞いたけどさ、その綺麗な顔と髪の色でしょ?養女とはいえ他国の大公令嬢だし、きっと相手にされないて、決めつけていたの」

肩を竦めて言い、リルが勉強机に向けていた椅子を動かし、椅子ごとミシェールの側まで来て、互いに手を伸ばせば届く距離に座り、嬉しそうに笑う。

「父親を自慢出来る、普通の女の子なんだって知れて良かった。私も、両親が自慢なんだ。貧乏だけど、尊敬している」

「良い、方々なのですね」

そう溢し、ミシェールが身を乗り出し、リルの手を握り、視線を伏せて言う。

「リル様と、もっと早くお話すれば良かったです。お邪魔してしまうと思ったのと、何を話せば良いか分からなくて」

「あたしも。そう思った。勉強に集中出来て良いて思ってたの」

「私も。集中出来て良いと思ってました」

「それは重要よね。勉強しに来てるのだもの。騒いでるのがおかしいわ」

リルがそう言い切り、ニヤリと笑った。

その表情に、ミハエルを思い出し、ミシェールは会ったばかりなのに、その声が聞きたくなってしまった。


リルと話せるようになって、ミシェールは少しだけ学校を楽しめるようになった。

とは言え、他の生徒に未だに遠巻きにされている事には変わらない。鍛錬の授業では体格の事もあり、ミシェールは先生と組むし、ミシェールが挨拶をしてもよそよそしく返されるだけで、会話が進まないのだ。

貴族令嬢はリルとミシェール以外で結束が出来てしまっているようで、恭しく挨拶だけ返し、失礼があってはいけないわと言いながら、さっさと離れてしまうのだ。

「私、顔が怖いのでしょうか」

不安になって、寮の部屋でミシェールはリルに聞いてみた。

リルが仕方なさそうに溜め息を吐き、首を振る。

「ミシェール様が綺麗すぎて、怖気づいてるだけ。まあ、私もそうだったんだけどさ。だから、勇気出して話かけて良かったて、自分を褒めてるの」

「リル様、お友達に、なって欲しいの」

「へ?とっくに友達だと思ってたけど」

ミシェールが勇気を振り絞って言えば、リルがコテリと首を傾げた。

釣られてミシェールも首を傾げる。

「え?」

「え?て、こっちがえ?なんだけど」

「いつからでしょう?」

「いつ、て、3日前にしゃべってから?え?もしかして不敬だった?」

みるみる眉を下げるリルを呆然と眺め、ミシェールは椅子から立ち上がり、リルの前で膝を折る。

「では、リルと呼んでも、良いのでしょうか?」

同級生達が親しげに呼び捨てしていたのを、ミシェールは羨ましく思ってて、その問いかけをするのに緊張していた。

リルがあっさり頷く。

「うん。じゃあ、ミシー様て呼んで良い?」

「様、ですか」

「さすがに、子爵令嬢が大公令嬢を様なしで呼べないから」

「では、それで」

ミシェールが頷くと、リルが吹き出す。

「ミシー様可愛いすぎるわ」

「リル程ではないかと」

「私が?小さいて言いたいのね?」

「いえ。笑顔が可愛いです」

むくれて見せたリルが、ミシェールの言葉に顔を赤くさせる。

「そんなの、初めて言われたわ。歯を見せて笑っちゃうから、はしたないて影で言われたくらいよ」

「私は、リルの笑顔は好ましく思います」

「ミシー様、反則」

パタリとリルが机に顔を伏せた。

気分を悪くさせてしまっただろうか?とミシェールは、どうするべきかと焦る。

リルがチラリと顔を覗かせて言う。

「ミシー様は、自慢の友達て事よ」

何故そうなったのか?と思いながらも、ミシェールは友達と呼ばれた事に高揚感を覚えた。修道院の子供達とは、気兼ねがなかったが、友達というより、仲間という意識だった。

シモンとは親しくなれたが、一方的に崇拝されていると思っていたら、返せそうもない特別な想いを向けられていると知り、友達だと言えなかった。使用人の子供達と遊ぶ事はあったが、それはミハエルという繋がりがあって出来た事だ。だから、アストリアを離れてから、初めて友達になりたいと思えた相手に認められていた事実に、嬉しく思ったのだ。

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