表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/211

因縁 81 決する

ドアの向こうで行われている授業を、ぼんやりと聞きながら、なぜこんな事になったのだろう?とミシェールは考えていた。

踊っている間、ずっと見られていて、その目を見る事が出来ず、ミシェールは視線を反らしていた。

変な顔をしてただろうか?と今になって心配になってくる。

身体がむずむずして、暴れたい衝動を抑えていると、誰かが入室してきて、顔を覗いてきた。

「お姉様」

優しい表情のヴィヴィアンナに、ホッとしてミシェールは起き上がり、ヴィヴィアンナがベッドに座ると、しがみつくように抱き着いた。

ドアの向こうは、物音一つせず、息遣いも聞こえない。

ミシェールがドアをそっと見ると、ヴィヴィアンナが小さく笑う。

「お父様と一緒に、書斎へ資料を探しに行っているのよ」

そっと髪の毛を撫でられ、ミシェールはポツリポツリと、シモンに型を見て貰ってからの事を話した。

話をしていると、やはりなぜだろう?と思えてくる。

「シモンに特別な想いを向けられる程、何かをした覚えがないのです。お姉様のように笑いかける事も、優しくする事もしていません」

「それで戸惑っているのね」

「だって、私は何も返せない。もっと私を知れば、きっとガッカリさせてしまいます」

「それでガッカリするようなら、勝手にガッカリさせておけば良いのよ」

ヴィヴィアンナに笑われ、ミシェールはその腕の中から見上げた。

ヴィヴィアンナがウインクする。

「向こうが勝手に好きになったのだもの。勝手に期待しているなら、ガッカリさせれば良いのよ」

「ガッカリされたく、ないです。シモンには」

「憎からずは思っているのね」

「迂闊だし、人の話は聞いてないし、子供ぽいし、楽観的というか馬鹿ぽくて、正直すぎて大丈夫なのかと心配になります。だけど、明るい笑顔は、良いと、思います。私は、笑えないので、羨ましい。だから、笑顔が曇るのは嫌です」

話をしている内に、ミシェールは気持ちが整理出来てきた。

目眩を覚えるような不安定な気持ちは、シモンがミシェールをもっと知って、ガッカリして笑顔が曇るのが怖かったのだ。

「なら、それをそのまま伝えてみたらどうかしら?」

「それこそガッカリされそうで」

ヴィヴィアンナの提案は、ミシェールには難しく感じた。

こんな人間臭い悩み、ミシェールを女神だと騒いでいたシモンに言ったら、幻滅されると思ったのだ。

「賭けても良いわ。シモンは喜ぶと」

「ガッカリするかも知れません」

「そんな時はデューと私で、シモンに怒るわ。勝手に期待してガッカリするのは間違っているて」

「心強いです」

言って、ヴィヴィアンナの胸に顔を埋めたミシェールを、ヴィヴィアンナは背中を撫で、あやすように、身体を揺らす。

「赤ちゃんみたいですね。私」

ミシェールの言葉を聞き、ヴィヴィアンナは靴を脱いで、一旦ミシェールと離れてベッドに足を乗せて横座りをする。

「いらっしゃい」

両手を広げられ、ミシェールはヴィヴィアンナの膝に座り、甘えるように胸に擦り寄る。

「今、私のお腹に居ると思って。私は毎日、愛してる。早く顔が見たいわ。て声を掛けるのよ」

「重くないですか?」

「あら、幸せな重みじゃない。どんな子かしら?元気に産んであげられるかしら?て、デューと毎日話すでしょうね」

ヴィヴィアンナの言葉を聞きながら、ミシェールは母親はどうだったのだろう?と考えた。

エルバルトに伝えられた『僕と姉様を産んだ事が、母様にとって最高の出来事』という母親の言葉を、嘘だとは思いたくなかった。

アストリアの正当な血を残す為だったとしても、望まれて産まれたという真実が、母親との繋がりの唯一だ。

何より、可哀想な母親が、ミシェールとエルバルトを産んだ事で、少しでも喜んでくれたなら良いと。

少しずつ落ち着いてきて、ミシェールはヴィヴィアンナから離れ、見据える。

特別な想いを少しだけ知って、シモンに対して、特別な想いは返せないだろうと思った時、目の前の彼女と兄が、互いの特別である奇跡に、ミシェールは眩しく見えた。

「お姉様が、兄を特別に思ってくれて本当に嬉しいです。兄は幸せですね」

「当然よ。私が幸せにしてるのだもの」

ヴィヴィアンナが胸を張り得意気に言った後、おかしそうに声を上げて笑った。


デューが9年前に留学へと発った日。

ミハエル、ヴィヴィアンナ、デュー、ミシェール、エルバルトは、応接室で大人と子供で向き合って座っていて、大人側はヴィヴィアンナを真ん中に座っている。

遠出から数日後に、今日の約束をミシェールとエルバルトが望んだのだ。

「ミハエル様。お義父様とお呼びしても宜しいでしょうか?」

ソファで背筋を伸ばして言ったミシェールに、ミハエルは口の端を上げ、ヴィヴィアンナは微笑んで小さく頷き、デューは膝の上で握っていた手をぎゅっと脇に引き寄せた。

「エルバルトはどうする?まだ期限はあるが?」

「ぼ、くも」

短いながらも、エルバルトが言うと、大人達が目を見張る。

大人達を驚かせた事に、エルバルトは歯を見せて満足そうに声もなく笑う。

その横で、ミシェールが代わりに説明する。

「少しだけなら、出せるようになったのです。ドルファン様と、アンナジョリー様には黙って頂いておりました」

「まあ!お父様もお母様もずるい!第一声は聞きたかったのに!」

ヴィヴィアンナが怒ったように言い、

「さすがアンナの両親だ」

ミハエルが肩を震わせて笑い、デューは無言で走り寄り、抱き締めていた。

エルバルトに腕を叩かれ、デューはそっと離れ、エルバルトの隣りのソファに座る。

「焦らず、練習しよう。声変わりする前に聞けて良かった」

デューの言葉にエルバルトが頷くと、ミハエルは咳払いをして口を開く。

「書記官を手配して、着き次第、修道院に向かうとしよう。他に希望はあるか?」

「私は、騎士になりたいです」

「ほう」

ミシェールの言葉に、ミハエルが目を細めた。

ヴィヴィアンナが眉を下げ、

「エクレナールでは女性騎士は居ないのよ。叶えてあげたいけど、どうしましょう」

「シェリー、騎士は大変な仕事だよ?」

デューは眉を下げて、表情を曇らせた。

「お兄様のように、ヴィア様をお守りしたいのです。お兄様が行けない場所でも、私なら着いて行けます」

デューを見て、ミシェールが言うと、デューは息を飲んだ。

ソファから身を乗り出し、ミハエルがニヤリと笑う。

「では、手を尽くそう。約束したからな」

「はい。利用させて頂きます。お義父様」

「さすが、アンナの娘だ。人使いが荒い」

返ってきたミシェールの言葉に、ミハエルが肩を震わせ、ヴィヴィアンナは『娘』の単語に頬を染め、デューは意志が堅いと悟り溜め息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ