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因縁 80 思いもよらぬ

城に戻り8日後、ミシェールは仕事中のシモンを呼び止め、昼間の恒例の練習場所に、お昼の休憩時間に来るように呼び出した。

困り顔でやって来たシモンに、ミシェールはシャツにズボン姿で頭を下げる。

「ご教授お願いします」

深く息を吸いながら、ミシェールの両腕が空へと伸び、ゆっくりと吐きながら身体の前で下ろすを繰り返し、一度呼吸が整えられた。

肩幅に両足が左右に開かれ、両腕が胸の前で交差され、左足を左へと踏み込むと同時に、左手が左下へと突き出される。

すぐに右足が左足のさらに先に踏み込まれ、右手が真っ直ぐ前に突き出され、身体の後ろへと右足が踏み込まれ、右手が下に向かって突き出される。

反転した勢いのまま、左足が右足の前に踏み込まれ、左手が突き出され、左足を軸として、右足を後ろに向かって蹴り上げながら、身体が反転させ、腰を落とした姿勢となり、その後も同じように繰り返され、足の踏み込みが甘くなり止まり、シモンの居る方に振り返る。

「どうしても、ブレてしまいます」

ミシェールがボソリと言ったので、シモンは頭を搔く。

「ミシェール様は、武術を身に着けたいと?」

「シモンさんのように動きたいです」

思わぬ言葉に、シモンは頬を赤くさせ、両手で鼻を隠すように挟む。

「運動したいだけだと思って、型をお見せしてすみません。まず足捌きをしっかり覚えた方が良いです。重心の掛け方とか、デューさんに教わって下さい。蹴り上げはまだ止めた方が良いです」

「つまり、全く出来ていないのですね?」

「俺が見習いの時よりマシです」

「分かりました。見て頂きありがとうございます」

ミシェールがゆっくりと頭を下げ、シモンをジッと見詰める。

見詰められ、シモンは視線を反らしたいのを我慢して、見詰め返し、ミシェールの口が動くのを、唾を飲み込んで見守る。

「踊りましょうか?」

「はい?」

サラリと言われ、シモンは首を捻った。踊るというと、あれだろうか?いや違うだろう。と一瞬で思考が巡る。

あの川原での約束を、大事に覚えているのは、自分だけだと、シモンは思っていた。何より、勝手に約束しただけで、ミシェールは返事をしていない。

「以前、踊ろうとおっしゃってらしたので、見て頂いたお礼に」

続いたミシェールの言葉に、シモンは夢だろうか?と鼻から手を離し、両手で両頬を引っぱった。

「ご迷惑でしたか?あの場の勢いでのご発言だったので、覚えていませんよね。すみません」

ミシェールが頭を下げたので、シモンはハッとして一歩近寄る。

「迷惑ではないです!覚えてます!ご褒美すぎです!」

「ご褒美、このような格好ですが」

ミシェールがズボンを摘んでみせるが、シモンは首を横に振る。

「ズボンも格好良いです!足が長いのでお似合いです!」

「はあ。では、お礼はダンスで良いのですね」

「勿論です!」

シモンが両頬を引っ張ったままコクコクと頷くと、ミシェールはドレスを摘んだ仕草をし、カテーシーを綺麗に決める。

「宜しくお願い致します」

シモンは目を閉じて大きく息を吸い、両頬を叩き、教わった礼をする。

「全然で、足手まといですが、お願いします」

ゆっくりとシモンが歩み寄って、ミシェールに手を差し出した。

ふわりと手を乗せられ、ミシェールが見上げる。

「背が、伸びましたか?」

「はい」

一瞬目を見張り、目元を緩めさせ、シモンはミシェールの手を握り返す事はせず、反対の手をミシェールの肩にそっと添えるように触れる。

ミシェールが小さな声でワルツのリズムをとり、シモンはそれに合わせて、足をそっと動かして踊る。

ミシェールはそれに合わせて踊り、風に目を細める。

「外は良いですね」

「楽しいですか?」

「風が、気持ち良いです」

「そうですね」

短い会話の後、沈黙のまま踊った。シモンはずっとミシェールを見続け、ミシェールはチラリと視線を向けて、すぐに進行方向を見た。

踊りは短い時間で終わった。

型を披露した後で、ミシェールの体力が続かなかったのを、シモンが気付いて、足を止めたのだ。

「ミシェール様。こんな夢みたいな事、ありがとうございます」

「いえ。こんな服で、約束の花もありませんので、申し訳ないです」

シモンが二歩下がり、ミシェールから距離をとり、笑顔を向ける。

「お試し終了まで、僅かですね。お決まりになりましたか?」

「はい」

「きっと素敵な結論なのだと、閣下から聞くのを、楽しみにしてます。ミシェール様。俺は、デューさんがヴィヴィアンナ様を想っているように、想っています」

「え?」

「あんな小さな約束を、ミシェール様が覚えてくれていて嬉しかったです」

「いえ」

「ほんの少しでも、俺の事を思い出して、楽しい気持ちになってくれると、嬉しいです」

「どこかへ、行かれるのですか?」

ミシェールが小さく首を傾げ、シモンは小さく首を横に振る。

「ミシェール様が、修道院に戻られたら、簡単に会えませんし、閣下の養子になったら、さすがに今のようには会えません。本当に お嬢様となられるのですから」

「確かに、そうですね」

「少しでも、残念だと思って下さいましたか?」

「寂しくなるとは思います」

「それを聞けただけで、十分です。もう、行きます」

深く頭を下げ、シモンが走り去るのを見送り、ミシェールは城に向かって歩き出す。

シモンの想いの深さを知らされ、ミシェールは何故だろうと思い悩んでいた。

ヴィヴィアンナのように、気立てが良い訳でも、優しい訳でもない。シモンに取り立てて何かをしたつもりもない。

他の騎士に比べれば、会った回数も話した回数も多いが、それでも接点は少なかったし、ここ数週間はすれ違う事しかなく、会話はなかった。

何がどうなってシモンにそこまで想われる事になったのか、皆目検討が付かなかった。

デューがヴィヴィアンナを見る目は、優しくて、たまにドキドキする目で見ていて、見てはいけない物を見た気分にさせられる。

宝物のように大事にヴィヴィアンナを呼び、手付きも傷付けないように、たまに強く引き寄せている。

デューがヴィヴィアンナに向ける想いを、この間直接聞いたが、自身がそんな風に想われるなどあの時は想像すら出来なかった。

ミシェールの足が、階段の途中で止まる。

あんな気持ちを向けられているのか。と少しだけシモンの想いに理解が追い付いてきて、初めての事に戸惑いが生まれた。

自身が誰かにとっての特別な存在なのだと、実感して、目眩がしそうになり、手摺りに掴まる。

背後の護衛は、ミシェールが転げ落ちないようにと、身構え、侍女はメイドに何かを言う。

ミシェールは気力で階段を上りきり、客室へと向かった。

ドルファンが待っていて、エルバルトも勉強机に座り、ミシェールの到着を待っていた。

ドルファンに断りを入れ、ミシェールは寝室に入り、ベッドに倒れ込むと、侍女がタオルでそっと顔と首を拭ってくれた。

ミシェール!なぜ型の披露なんか!

自分で書きながら頭を抱えた回です

経験者の方、粗には目を瞑って頂きたく


あと、シモンが思いがけず

想いを告げたのも

あれ?と思いながらも

ミシェールの決断の日が迫る中、

叶う筈のない一方的な約束が叶って、

このタイミングで言わなきゃ、

言う機会がなくなるから

シモンなら言っちゃうだろうな。と自分で納得。


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