ノイズ
もう、実験忙しすぎて辛い
愚痴こぼしてすんません。でも言いたい!
空間転移が完了し、ゆっくりと目を見開けばそこは巨大な洞窟の入り口の穴を頑丈な作りでできた扉によって厳重に閉ざされているダンジョンの目の前だった。
「どうやら、無事転移できたようですね」
プラッツさんは心配しているようではあったが表情から読み取るにあまりそうは思っていなさそうだ。
「空間転移ってそんなに危ないんですか?」
表情はともかく危険性については聞いておかなければと思うのでプラッツさんに聞いてみた。
「いえ、私は滅多に失敗はしません。失敗するといっても誤差程度ですが失敗して壁の中にめり込むなんて話も聞いたことがあったものですから」
ニコッと笑いながらそう答えた。自身の魔法への信頼はともかく失敗例があったというのは聞きたくなかったな。
それにしても久しぶりの外は広々としていて開放感がある。周りは山々に囲まれていて少しばかり気圧が低いようだが空気はとても澄んでいるようでそこまで息苦しいとは思えない。
不意に見上げた空からは照り付ける太陽が眩しく、日光という名の熱を伝えてくる。そして空の色は王城でも見た通りやはり青く、時々浮かぶ雲はやはり白い。雲の総量も1割ほどなので快晴と言っていいだろう。気温は少し汗ばむほどで体感的には25℃から30℃ぐらいだと思われる。
外に出ても異世界とは思えないほど普通であった。因みにフライシュさんとバシュトさんは俺と同じく初めての転移だったらしくかなり驚いているのだった。フライシュさんは「おお、おお!」とか変な奇声あげてるし、バシュトさん「なるほど、これが転移というやつですか…」とかなんか独り言つぶやいてるし…
ともかく無事転移も終え、いよいよダンジョン内部へと足を進める。ダンジョンへの入り口前にまでさらに近づき到着してみればその大きさに改めて驚かされる。
大きすぎるせいで見上げる首が痛くなりそうだった。自身の何十倍の大きさで20、30メートルくらいの大きさだろうか?分厚い鉄のような丈夫な金属で堅牢に閉ざされていた。
「この扉って確か騎士の一人の属性魔法なんですよね?」
「ええ、うちの騎士団の一人が作り上げたものです」
プラッツさんが答える。事前に聞いていたことだがそれにしてもすごいな。
扉に右手を出し触れてみるとひんやりと冷たく、軽く叩いたり押したりしてもびくともせず頑丈なのが皮膚を通して伝わってくる。ちょっとやそっとじゃこの扉が壊れることはないのだろう。
さて、この扉。扉と表現はしたものの押してたり、引いたりするための取っ手がどこを探してみてもない。扉と分かるのは真ん中でちょうど隙間というほどではないがわずかに別れていると判断できるからである。
じゃあ、どうやって入るのかと言えば鍵を必要とする。
プラッツさんが右手を空中にやったと思えば、空間がぐにゃりとしてゆらぎが見えた。その空間は中は光を一切通さないためか真っ黒で見えないが本人はどこに何があるのかわかるようで迷うことなく、鍵の形をしたものを取り出した。
「おお!」
「へぇ〜」
「すご!」
三者三様の反応を見せたが皆、やはり驚きを隠せないようであった。
「それ、かなり便利な力ですね」
「別次元の蔵は私が制御できる空間に限りますがこことは違う別次元に存在しているので持つ必要がないのは確かに便利ですね。まあ、便利すぎて運び屋としてこき使われることも多いですが」
苦笑しながら話すプラッツさんだがこれは本当に便利である。どの程度の物量を収納できるかは分からないがそれでも異世界では定番のチートスキルに分類できるだろう。正直、俺も欲しいぐらいだ。
取り出した特に何の変哲もない鍵を正面の扉に近づける。扉にぶつかるというところで鍵の先端が扉に吸い込まれる。吸い込まれたところで鍵をひねると扉全体の五分の一程度の大きさで新たに隙間ができ扉が開いた。
「この鍵はこの扉を作った騎士が預けてくれたもので、この鍵を使うことでダンジョンへ入る許可と開く扉の大きさを決めることができます」
そう言ってプラッツさんは鍵を先ほどの別の空間に鍵を戻した。
「それじゃあ、紅鷹殿のことは後の二人に任せて私は先にダンジョンへ内部へと向かいます」
「え?一緒に行動しないのですか?」
「ええ、私はダンジョン内部の定期的な点検で異常がないか確かめる任務を任されておりますので」
「初耳なんですけど…」
そういうことはちゃんと教えておいてほしいです。
「大丈夫ですよ。二人とも優秀ですし、なによりこのダンジョンはそこまで脅威ではありませんから。国が管理してるのですからすでに一度攻略されており整備もされてますので」
そういってプラッツさんは俺の左肩にポンと手を置いて爽やかな笑顔で
「それじゃあ、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってことでがんばってください」
そういうとダンジョンの内部へ侵入し、空間転移でフッと消えたのだった。その様子を眺めていた俺はなぜか置き去りにされたような疎外感を感じていた。
「それじゃあ、私たちもいきましょう」
そんな俺を見かねてかフライシュさんが先頭になってダンジョンへと進む。俺も置いてかれないように後ろに続き、俺の後ろにバシュトさんが続いた。俺たちが入ると扉がギギギィーーと音を立てながら閉まった。
ダンジョンの中は外に比べて気温がぐっと低くなり、ひんやりとしていた。それに、転移するときの部屋ほどではないが軽い気怠さに息苦しさがある。通常より魔素が多い証拠だろう。少し違和感を覚える程度なので問題はなさそうだ。
あの扉の大きさで塞いでいただけあってかなり広い作りとなっている。所々に街灯のような明かりとなるランプのようなものがあるのでそこまで暗く感じることはなかった。一応、先頭を歩くフライシュさんが懐中電灯を模した光を照らす魔法具で先を照らしながら進んでいる。
いよいよ、ダンジョン探索ということで少しだけ緊張はしているものの恐怖は微塵もなかった。むしろ高揚感さえ覚えている。周りの状況もしっかりと冷静に確認・分析できている。
早速、大臣からもらった漆黒のガントレット、もとい籠手のポーチから短剣を一ヒ取り出した。もう一ヒは後ろの腰掛けに装備している。
取り出した短剣を手になじませるかのようにそれぞれの手で遊ばせながらフライシュさんの後ろをついていく。
「紅鷹殿、気が早いですよ。ここら辺ではまだ魔物はでてきません。出てくるのは二層目からですよ」
「はい。わかってはいますが短剣とかあまり手にする機会もそうなかったものですからつい」
フライシュさんは、俺が緊張していると思い、笑いながら声をかけてくる。
俺はというと短剣の感覚を確かめることができたのでガントレットのポーチにしまい直す。
そのあと、また取り出してしまうという作業でいざというときにも瞬間的に構えることができるようにする。
「へぇ~なかなかいい動きじゃないか。初めて持ったとは思えない」
「ありがとうございます。実は昔、少しだけ使わしてもらったことがあったものですから」
「……」
先ほどから全く喋っていなかったのに急に後ろからバシュトさんから声がかかった。褒められたようだが最後に少し訝しげな表情をするだけで俺の返答には答えなかった。いや、そもそも独り言だったようだ。紛らわしいな!
二人の格好を見ると対照的だなぁと思う。
フライシュさんは背中に自分と同じくらいの大きな盾を背負い、さらに、腰には他の騎士と比べてかなりの大剣を佩いている。一見すると装備が重すぎて剣に振られてしまうと思うがそれを感じさせず悠々と歩いている。まさに、背負っている馬鹿でかい盾の高い防御力で前衛兼タンクとして敵を引きつけながら大剣で相手を薙ぎ倒すという感じだ。
一方バシュトさんは、盾は持たず、腰に剣を帯びているもののレイピアのような細剣で他には特に持っていなさそうである。それは、魔法を主体とする最近の騎士たちの傾向を示しているとバードのおっさんに聞いていた通りだった。さながら、魔法使いのように遠距離から一方的に相手を蹂躙するのだろう。剣は飾りみたいなものだろうか。
なるほど、騎士と言っても軍隊なんかとは違い、それぞれ個性が出ているのかと思う。
そんなことを考えつつ、短剣を順手、逆手に持ったりしながら歩いていれば、ダンジョン一層目の半分まで来ていた。
なぜ半分とわかるかといえば、この縦穴があるからである。
半径5メートルを超え、底は全く見えそうもない深い縦穴。光を照らしてみても真っ暗で石を落としても底についた音が聞こえない。
事前にこの穴には絶対に落ちないようベルンハルトさんに言われていた。なぜなら、この縦穴、どこにつながっているのか判明していないのである。
この大きさなのだから最下層に続いているものと思われた。しかし、どこを探しても最下層にはない。それどころか二層以降から全くないのだ。なのに、底は見えないときた。これは明らかにヤバいということである。
なのでこの穴は現在も調査中で今は、周りを壁によって塞がれていた。その壁に沿いながらぐるっと周り縦穴の向こう側へと到着する。
徐にバシュトさんがポケットから金色の懐中時計を取り出す。
「んじゃあ、確認だがプラッツさんとはもう別れてはいるがあの人がいないと俺は帰れない。だから集合時間は決めてあるからさっさと片付ける」
確認をとっているのだから流石にこれは独り言じゃないだろう。そうと決まれば早速二層目に突入といこう。下に降りる道も見えているし、いよいよ実戦である。心の中で意気込んでいると
突然、
「キィーーーーーーーーーン」
甲高い、嫌な音が鼓膜を、脳を震わせる。突発的にきたのでたまらず頭を押さえ、かがみ込む。
「ッ……」
「どうしましたか!?紅鷹殿!」
フライシュさんが俺の異変に気づき駆け寄ってる。二人をみても俺以外この音が聞こえないのかなんともなさそうである。
「やはりーーー」
バシュトさんは何やらまた独り言を言っているようであったがそれどころじゃないので全く聴こえない。
ようやくキィンキィンとする音が消え、脳が痛みから解放される。
「なんだったんだ今の…?」
「何があったんですか?」
「やっぱり今の音、二人には聞こえてないのですね」
「音?」
フライシュさんとのやり取りからも明らかであのとてつもなく嫌悪を抱き、思考を奪いにくるような音は聞こえていないようだった。音一つで大袈裟かも知れないがそれほど強烈な音であった。
なぜ、二人には聞こえていないのかは分からない。モスキート音だったのか?そもそもどこから流れたのかも分からない上、誰かが流したのかも判断がつかない。
けれど一つ分かることとすればーーー
「ウォーーーン」
またしても突然、一体の狼の遠吠えが聞こえたかと思うと、二層目の入り口から何体もの灰色の狼型の魔獣が現れた。
ーーーヤバい状況ということだ。
ほんとは今回もうちょっと分量あるはずが…
次回で2章最後になる予定です……たぶん




