後悔と想いの行方
遅くなりました
届いた。
確かに感じた手ごたえと共に自身の攻撃の先を見る。そこには、ベルンハルトの膝が紅鷹の肘を下から蹴り上げることで軌道がズレ、みぞおちを狙った攻撃がわずかに胸に触れる程度に抑えられていたのだった。
「…ックソ」
悪態をつき、最後の力を振り絞った身体強化の反動で動くことができず仰向けのまま事切れたように後ろへと倒れる。
「…ハアァ…ハアァ」
完全に力を使い果たしており、もうまともに動くこともできない。ベルンハルトはというと特に何ともなさそうにしている。マジで化け物かよ。
「大丈夫ですか?」
勝負とは言え、先ほどまで殺す勢いで戦っていたというのにとてもにこやかにしている。手を差し伸べられるも立てそうにないので起き上がらせてもらうだけにした。
「勝敗ですが、私の負けですね。最後の紅鷹殿の攻撃はわずかではありましたが私の胸に届いておりました。それに最後の膝蹴りは攻撃を受けるためというよりは蹴り返すための攻撃に近しいものでしたので私の反則負けでしょうな」
本人は、負けを認めているようであったが紅鷹自身としてはあまり納得がいっていなかった。最後の攻撃は完璧に決めるはずだったのだ。それがなんとか触れる程度だったので素直に勝ったと喜ぶことができずにいた。
それに、最後まで相手に魔法を使わせられなかった。少しでも本気にさせようとしていたのにこの程度なのはやはりどうしても気に入らなかった。
「なにやら、不服のご様子ですが正直とても驚いています。今までそれなりの召喚者を見てきましたが紅鷹殿ほど動けた者はただの一人もおりませんでした。それに戦闘慣れと言いますか、実践の経験があるのでしょうか?フェイント、最後の魔法のブラフも含めて攻撃からそれが如実ににじみ出ていました」
「まあ、結局のところどれも通用しなかったですけど…」
全力でやったので自分の手の内は全部出し切っていたと思う。そういった実践の部分がでていたのは向こうでの行いの結果だろう。といっても結局はどれも通用しなかったのだから皮肉にしか聞こえない。
「それに、木刀をよくあそこまで使いこなしていましたね。向こうには剣道という武道があると聞いています。実際に見せていただいこともありましたがそれとは違ってより実践的なものでした。もしかして独学でしょうか?そうだとしたらとても素晴らしいですね。てっきり、木刀をメインにしているのかと思っていたのですが素手の方がさらに練度が高く驚きました。木刀を手放した時は正直とても驚かされました。」
驚いているのか、いつもよりも少し早口で興奮気味に喋るベルンハルトさん。
最後の一回きりの戦法だが初見では大きく隙をつくることができるはずだった。それでもうまく流されてたし、まったくもって気に食わない。
「一旦、休憩にいたしましょうか。紅鷹殿もまだ動けないご様子ですし」
ベルンハルトさんはそういって訓練場から出ていった。俺は動かずに出て行くベルンハルトさんを見ていることしかできずそのときもやはりどこか嬉しそうにしていたの顔が印象に残っているのだった。
(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?
「…と言う感じで一応手合わせの結果は勝ちということらしいですけど俺的には気に入らなかったというわけです」
日中のベルンハルトさんとの戦いの様子を身振り手振りで一通り説明し話が終わる。
「紅鷹様はなにやら不満があるようすですが、ベルンハルトさんは以前から王国でも1,2を争うような実力をもつと言われているお方ですよ。それに勝ったいえ認められた紅鷹様はやっぱりすごいです!」
俺に気を使って慰めてくれているのかそれとも本当のことなのかは分からないが褒めてくれるエーデルフィア様。
「ありがとうございます。そういえば、今日はどんな用事があったんですか?わざわざ来てくださったのは世間話をするためというわけではないでしょうし」
「はい、本当はもっと紅鷹様ともっとお話をしたいのですが時間があまりとれなくて。実は今日はこれをお渡しするために参りました」
そう言ってエーデルフィア様が手のひらの上のケースから取り出して見せてくれたのは深紅の宝石が埋め込まれた首飾りだった。
「この首飾りを俺に?こんな高そうなものもらえませんよ」
別に宝石に関して詳しくはないがそんな俺でも高価なものと判別できる首飾りである。真紅の宝石もそうだが宝石を囲う細工もとても丁寧に作り込まれているのがよくわかる。
「遠慮されるのは分かってはいましたが何を言っても受け取ってもらいますよ。これは紅鷹様のためにお作りした代物ですから」
受け取りを拒否したがそれでも渡すように言うエーデルフィア様。どうやら俺には拒否権がないらしい。それでも
「でも、こんな高そうなもの金もない上生活までさせてもらってるのに受け取ることができません。それにお返しができません」
「お礼など入りません。これを大事に肌身離さず持っていただければ私は充分です」
「しかし…」
「分かりました。それでは、約束してください。必ず無事に戻ってくださると」
物悲しそうな表情をみせるエーデルフィア様。後悔していることなのだろうか、とても寂しそうでそれでいて儚げな様子である。
「昔、紅鷹様のように行かなくてもいいのに無理をしなくていいのに優しくて強いのに悲しそうな背中をした私の英雄がいました。今のあなたはその人みたいに帰ってこないような気がして…」
その英雄とやらがどんな人物かどうか分からない。しかし、エーデルフィア様にそれだけ影響を与えている人だというのはよく伝わってきた。しかし、俺は良くも悪くもそんなやつでは残念ながらない。
「わかりました。これはありがたく頂戴します。そして必ず戻ってくると約束します」
「はい!その首飾りは私だと思って肌身離さず持っていてください」
一瞬、エーデルフィア様の顔が恍惚としていて少しゾックとしたが気のせいだろう。
(´゜д゜`)(´゜д゜`)(´゜д゜`)(´゜д゜`)(´゜д゜`)(´゜д゜`)
ようやくダンジョンへと出発する日がやってきた。これまでは、ベルンハルトさんの戦闘訓練とダンジョンについての基本的な知識をわずかな時間ではあったものの充てていた。
どうやって行くのかは当日になってから分かると聞いていたのでどうするのかと思案する。車の様なものがあるのか、それともそこまでの技術はなく馬車というのが一番ありそうかなと考えながらメイドさんに連れられて歩いている。
ようやく外に出れると思っていたのだがなかなか外へと向かう気配がない。不思議に思っていると連れてこられた場所は他の部屋と比較してもかなり大きな部屋だった。部屋の中には見知った顔のエーデルフィア様、アリッシェさん、大臣のグロースアートに見知った騎士二人、グロースアートやエーデルフィア様の護衛と思われる俺の知らない騎士が何人かいた。
部屋の中に入ると今までと空気が変わったのを感じる。うまくは言えないのだが調子が悪くなるものではなさそうだ、むしろ慣れてくれば心地いいとさえ思える。
「いらっしゃいましたか。さて準備はよろしいですか?紅鷹殿」
部屋の中での奇妙な感覚に戸惑いを見せているのところグロースアートが話しかけてくる。
「ええ、それよりダンジョンにどうやって行くのでしょうか?」
「それについては、私から説明させていただきます」
部屋の様子もそうだが一番の疑問であるダンジョンへと行く手段について尋ねると途中から話に入ってきたのは見知らぬ騎士の一人だった。
「初めまして、紅鷹殿。私は今回紅鷹殿をダンジョンまでお連れいたします名をプラッツ・リット・エーデルムートと申します。以後お見知りおきを」
190㎝にも届きそうなスラっとした長身。細身だがしっかり鍛えられている体でクールな印象を与える顔立ち。こちらではあまり見かけない黒髪にキリっとした鋭い目つきに紺碧の瞳。清潔感のあるさわやかなイケメンという感じだった。
「こちらこそ、初めまして異世界から来た紅鷹といいます。ダンジョンまで連れてってくれるということで今日はよろしくお願いします」
「お連れするといっても一瞬。ダンジョンまで転移でお連れする役目を頂きましたのでよろしくお願いします」
転移とは実に異世界らしい。そうなら外にでないのも納得である。それに転移という貴重な体験ができるのは願ってもない。
「紅鷹殿と選抜した騎士二人に加えてこのプラッツを入れてダンジョンへと向かってもらいます。それとこちらは紅鷹殿が要望したものになります」
グロースアートがそう言って差し出してきたのは前回ダンジョンに行く条件として依頼した軽装でいて丈夫な防具一式だった。
防具は黒を基調とした胸当てに手甲、それと脛当てが用意されていた。受け取ってたがどれも見た目ほどの重さを感じさせなけれどしっかりとした作りで防御面も大丈夫そうである。
「それと、ヴァイス王子から友として攻撃手段が木刀だけというのは心配だということでこちらの二本の短剣、それと汚れや魔法に耐性があるローブを用意してくださりました。深く感謝してください。」
「本当ですか。ヴァイス様からそんなものまで、ありがとうございます。ここにはいらっしゃらないようなので代わりをお礼を申し上げておいてください」
防具のみと思っていたのでこれはとてもありがたかった。短剣もローブもどちらもまた、漆黒で全部装備してみると暗黒騎士みたいでとても中2心をくすぐられる作りだった。いつもは気に入らないグロースアートにも今回ばかりは素直に感謝する。それにヴァイスは友としてか…
俺が装備一式を携えたところで見知った騎士に二人が話しかけてくる。
「紅鷹殿!今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします」
暑苦しそうでやけにうるさい声量の持ち主はこちらに手を出し握手を求めてきた。この人はバードのおっさんに選んでもらった騎士の一人でフライシュ・リット・クライツェルという。橙色の短髪に20代後半と思われる。おっさんを思い出すような鍛えられ隆起した筋肉で180には届かない長身だが大きく見える。おっさん曰く、騎士の中では若手だが実力はしっかりと保証するといっていた。おっさんの直属の部下である。
そしてもう一人の騎士がバシュト・リット・シュバルツ。エメラルドグリーンで少し長めの髪に俺と同じくらいの身長で少し陰鬱とした表情をしている。今回の任務が嫌なのだろうか。特に挨拶はなく、軽くこちらを見るだけだった。あまり良いとは言えない態度だが前もこんな感じだったのであまり気にしていない。これでもバードのおっさんに実力と仕事に対する達成度はお墨付きをもらっている。
この二人の騎士とは面識があり前に少しだけだが交流があるので何となくではあるもののどのような人たちであるか分かっているので問題はないだろう。それより気になるのはいつもならすぐに話しかけてくるエーデルフィア様とアリッシェさんが先ほどから後ろでなにやらこちらの様子を伺いながら様子を見ていることだった。
今回に同行するフライシュさんとバシュトさんにプラッツさんに一通り挨拶を終え、もうそろそろ出発ということなのでこちらからエーデルフィア様達に話しかけることにした。
「エーデルフィア様どうされたのですか?いつもならすぐに話しかけてくださいますのに」
「ああ、紅鷹様申し訳ございません、少し考え事をしておりまして」
「心配ですか?大丈夫ですよ、今回は優秀な騎士の方たちがいますので」
「ええ、3人ともとても優秀だとバードさんからも聞いております、それにプラッツさんは私も存じ上げております。騎士としての位も高くとても優秀な方です」
軽く聞いた話によれば騎士の階級というはマントの色と付けている徽章で判断できる。マントの色は黒が一番下でその次にグレー、紫、翠、赤、青、白が最高となっている。ちなみにバードのおっさんは白でフライシュさんとバシュトさんは赤、プラッツさんは青となっている。また、先ほどから聞くリットというミドルネームは王国に忠誠を誓い、騎士として拝命されたときにリットという名をもらうことになっているそうだ。
「それでは、いってらっしいませ紅鷹さん、ほら姫殿下もいつまでも考え込んでいないで紅鷹さんをしっかり見送ってあげないと」
そういってアリッシェさんは後ろからエーデルフィア様を俺の前へと少し強引に押しやった。
「心配が尽きないようですけど大丈夫です。約束は必ず守りますから」
「はい、必ず無事で戻ってきてください」
最後にエーデルフィア様との別れもすんでいよいよ出発となる。アリッシェさんが「約束ってなんですか?何を約束したんでか?ねえねえ姫殿下」とか言ってエーデルフィア様に絡んでいるのは気にしない。
グロースアートも今回同行する3人の騎士たちとの念入りに打ち合わせをしているのがようやく終わったようだ。
「それでは、皆さん、私の周りに集まってください」
プラッツさんの集合がかかり、俺とフライシュさんとバシュトさんが駆け寄る。
「それでは、転移を始めます。もうお気づきでしょうがこの部屋は魔結晶を使うことで通常よりもはるかに多くの魔素で満たされています。空間転移は私の属性魔法の一つで距離と人数に比例して使う魔力が大きくなります。三人はそれほど多い数ではないのですが、今回は距離の方が少しありますのでこのように準備させていただきました」
そういってプラッツさんは俺に今回の転移について説明をしてくれた。最初、部屋に入ったときの違和感は沢山の魔力によるものだったらしい。魔力は誰かに分け与えるということは相性や親和性の関係などからできないこともないが普通は行わないらしい。輸血みたいな感じだ。
そのため、今回のように一度外に放出してからもしくは、魔結晶そのものから魔力を増幅させるというのが基本的な方法になる。プラッツさんは帰り用の魔結晶もグロースアートから預かっているらしい。
部屋の床からプラッツさんの半径3メートルほどの大きな円と青白い光が生じる。
「それでは、行きます」
そう掛け声がかかるのを聞きながら、自分の足元から転移が始まり、分解されていくような奇妙な感覚に襲われていた。召喚された時とはまた違った感じであった。
最後に頭が転移する直前やけにグロースアートの醜悪な笑いが目に付いたのだった。
次回もいつになるかはわかりませんがなるべく早く頑張ります。お付き合いいただけたら幸いです。




