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第7話:少女の装備と共闘の序章

 静かな朝だった。




 薄明かりがカーテン越しに差し込み、木製の床に柔らかな影を落としている。


 ソフィアはベッドの端で毛布にくるまり、まだ眠っていた。


 時折ぴくりと動く犬耳が、眠りの中でも警戒を緩めていないことを示している。




 俺は昨夜の配信ログを開きながら、コメントを流し読みした。




 《コメント(昨夜分)》


 ► 「装備ないの?」


 ► 「まさか裸で連れ回す気か」


 ► 「最低限のもの買ってやれよ」


 ► 「この子のこれからが気になりすぎる」




「……だよな」




 俺は財布を確認した。


 金貨一枚と銀貨少々。ぎりぎりだが、軽装備なら揃えられる。




 ソフィアが目を覚ましたのは、日が少し高くなってからだった。




「……おはようございます、ご主人さまぁ」




 こちらを確認してから言った。


 俺がいることを確かめてから、やっと言った。


 その順番が、昨日よりも慣れてきている気がした。




「おはよう。飯食ったら装備を買いに行く」




「……装備、ですか?」




「お前、今それ一枚しかないだろ」




 ソフィアが自分の服を見下ろした。


 俺が貸したシャツのことだ。




「……あの、これ、わたしの?」




「宿の帰りに買ってきた。サイズはまあ合ってるだろ」




「……ありがとうございます」




 声が、昨日より少しだけ大きかった。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 商業区の大通りに「ナグラ」という装備店があった。




 木製の古びた看板。色あせたドア。


 中に入ると、年配の女主人がカウンターで帳簿をつけている。




「娘さん用? 珍しい組み合わせね」と、こちらをからかうような笑みを浮かべた。




「動きやすくて、ちゃんと守れるやつを頼みます。あと、しっぽと耳が邪魔にならないやつ」




「細かいわね。見てあげるから、連れておいで」




 ソフィアは店主に体格を確認してもらいながら、おそるおそる試着品に手を伸ばした。




 俺が選んだのは淡い藍色の布地を基調にした軽革装備だ。


 ソフィアの銀髪と澄んだオッドアイに映える色を意識した。


 要所に補強を施した軽革が動きやすさと防護を両立している。




 加えて、ショートローブ、軽革手袋、柔らかなブーツ、ウエストバッグ。


 昨日の素材採取クエストで手に入れた《練魔石のペンダント》を首元に合わせた。




「……これ、全部わたしに、ですか」




 着替え終わったソフィアが、そう言った。




 しっぽが装備の隙間から見えていて、彼女はとっさに両手で隠そうとした。


 頬がほんのり赤い。




「サイズ、合ってるか? 痛いとこないか?」




「……ぴったり、です」




 しばらく間があってから。




「……嬉しい、です」




 その声は小さかったが、俺にはしっかり届いた。




 布の縁をそっと指でなぞりながら、ソフィアは何度も装備の感触を確かめていた。


「これは自分のもの」という事実を、少しずつ受け入れようとしているように見えた。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 宿に戻ってから配信をONにした。




 《LIVE開始》


「皆さんこんにちは。今日は新しい仲間を紹介します」


 #異世界配信 #新装備 #初陣 #ソフィア


 視聴者数:821人 登録者:1,892人




「こちら、ソフィアです。昨日からパーティに加わりました」




 ソフィアが照れながら、小さく頭を下げた。




 《コメント》


 ► 「えっかわいい!!」


 ► 「耳!!しっぽ!!」


 ► 「新装備似合いすぎる」


 ► 「これはヒロイン枠確定」


 ► 「守りたくなる顔してる」


 ► 「ソフィアちゃんよろしく!!」




 コメントが流れるのを見て、ソフィアが「……たくさん、いるんですね」と呟いた。




「ああ。みんな、お前のことを応援してる」




 ソフィアの耳がぴくりと立った。


 視線が少しだけ、配信ウィンドウの方に向いた。




「……ご主人さまのこと、見てるんですか」




「俺とお前のことを、見てる」




 沈黙。




 やがてソフィアが「……わかりました」と静かに言って、配信に向かって小さく頭を下げた。




 《コメント》


 ► 「この子……」


 ► 「尊い」


 ► 「ずっと応援してる」




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 午後、連邦方面の草原で小規模な素材採取クエストをこなした。




「……左側、赤い小さな獣、います」




 ソフィアが囁いた。


 犬耳が鋭く前を向いている。




 俺が見回しても、草むらしか見えない。


 だが彼女の指示を信じて錫杖を構えると、草が揺れた。




 ソフィアが短弓を引いた。




 矢は静かに弧を描き、獣の足元に正確に命中した。




 動きを止めた獣に俺が音撃魔法でとどめを刺す。




 ソフィアはしばらく、静かに立っていた。




 自分の矢が、敵を仕留めたという事実を、ゆっくり受け入れているように。




「……できました」




「……できたな」




 彼女が俺を見た。


 その目は驚きと、かすかな誇らしさが混ざっていた。




 《コメント》


 ► 「ソフィアちゃん強い!」


 ► 「初陣完璧やん」


 ► 「この二人の連携好きすぎる」


 ► 「敵を仕留めた後の顔が……」




 日が傾きかけた頃、俺たちは草原から引き上げた。




 帰り道、ソフィアは今日手に入れた素材を大事そうにウエストバッグに詰めていた。




「今度こそ、守るって決めた」




 配信に向けて、俺は静かに言った。




「誰かを、ちゃんと」




 《コメント》


 ► 「……」


 ► 「ずっと見てます」


 ► 「頼んだよご主人さま」




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 《配信終了》


 本日の視聴者ピーク:2,401人


 登録者数:2,103人(+211↑)




「今日一日だけで二千人超えた。ありがとうございます」




 ソフィアが「……にせんにん?」と首を傾けた。




「俺の配信を見てくれてる人が二千人いるってことだ」




「……二千人」




「ああ」




 ソフィアはしばらく考えてから「みんな、ご主人さまのことが好きなんですね」と言った。




「お前のことも好きだと思うぞ」




「……わたしの?」




「さっきのコメント欄見てなかったか」




 ソフィアの耳が、ぽかんとしてから、恥ずかしそうに伏せた。




 ――どこかで、その笑い声が記録された。




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